想いを、偽りに秘めて
撫子国をすくうために、薔薇帝国の三人と戦うことに―
仲間の一人である、ガーネットが倒された。
にもかかわらず、透君は無表情のままだった。
パールという帝王さんは、仮面をしているせいか表情さえ読み取れない。
「あわれな死に様だね、ガーネット。当然の報い、かな」
「……ジェード」
「お任せください、パール様。奥村絵里香は必ず、僕が仕留めて見せます」
そういう透君の目はまっすぐ僕をとらえていて、以前見せてくれた笑みはみじんも感じられなかった。
その恐怖で、体が思うように動かない。
逃げようにも足がすくんで、どうすることもできなくて……
「桔梗、こいつを頼めるか」
今の今まで高みの見物をしていた紫苑が、口を開く。
彼の目線もまっすぐ透君をみていて、いっこうにそらそうともしなかった。
「彼の戦闘値は予測できません。大丈夫ですか、紫苑」
「あいつを倒すことが、俺の宿命みたいなもんだよ」
「紫苑……」
「お前に言われずとも、あいつを殺しはしねぇよ。信じて、待ってろ」
強気で、頼もしい紫苑の言葉。
バカにしていたようには思えない、まっすぐな彼の思い。
紫苑、変わったな。
だからこそここまでついてきて、彼に好意を抱くようにもなった。
それも今まで、二人で乗り越えてきたから……
「やっぱり邪魔して来るんだね、君」
「翡翠……いや、ジェードと言ったな。花を消すことが目的なら、なぜ絵里香に近づいた。こいつを巻き込む理由はなかったはずだ」
「なぜって、そんなの決まってるじゃない。裏切るためさ。友達だって思ってた人が本当は敵……絶望に満ちた顔が見たくてね」
「それなら殺す機会はたくさんあったはず。今まで何もしてこなかったわけは?」
「さぁ? なんでかなっ!」
そういいながら、透君は石のつぶてをまき散らす。
間一髪紫苑は、それをバリアで防いだ。
彼も紫苑と同じ、魔力を使えるのだろうか。
石のつぶてだったものがどんどんまとまっていき、その中心に水や炎までも集まっていく。
「君も、自分勝手すぎると思わない? 必要ないと切り捨てておいて、ずっと一緒にいることを決めたとか。都合がいいよね。彼女のことを、まるで道具みたいにさ」
「よくもまあ、どうでもいいことを知っているもんだな」
「見てたからね、君達を。幸い絵里香ちゃんは、それでも君がいいみたいだよ。馬鹿が考えることは、よくわからないよね」
「所詮、馬鹿だからな」
あ、あれ? なんか僕、戦いの中でバカにされてない?
なんで僕、こんな時にまで馬鹿にされないといけないの! もう!
「だが馬鹿だからこそ、人を引き付ける。お前も、その一人なんだろ?」
「……どういう意味?」
「お前が絵里香に言った、あの言葉。裏切るつもりはなく、自分の感情も入っていたのではないかと思ってな」
その瞬間、まとまっていたかたまりが一気にはじけ飛ぶ。
それは四方八方に飛び散り、宝石だらけの地形にヒットしていく。
僕の方にも飛んできたが、危ないところを桔梗さんがかばってくれた。
「へえ。やっぱりそうか」
「……僕が……彼女を好きになるとでも?」
「お前は俺と似てると思ってな」
「一緒にするなっ!」
透君が攻撃を仕掛けようとした、そんな時だった。
「インパルス」
呪文のような言葉が、聞こえたのは。
すると次の瞬間、透君に電流がおそい……
「うぐっ! ああああああああっ!」
「透君!!!! 紫苑っ、いくら何でもやりすぎじゃ……!」
「俺がやるわけないだろ!」
紫苑じゃ、ない?
確かにあの声は、紫苑でもなければ桔梗さんでもない。
ってことは、まさか……
「愚かな子。あんな子に情をかけるなんて」
「パール……殿下……っ!」
「死になさい。裏切者」
パールさんが魔力を強めると同時に、透君は苦しむように悲鳴をあげる。
このままじゃ、透君が死んじゃう!
とめなきゃ、そう思って飛び出そうとしたのに……
「ここまで生かしておいて、最後は自分の手で殺す気か! 最低最悪な帝王様だな!」
透君をかばうように、紫苑が電流の中心へと走る。
彼はぐっと顔をしかめながらも、なおも叫び続けた。
「自分の国が滅びた恨みに絵里香を……仲間をも巻き込むのか!」
「お前に何が分かる!!! 国のことなど、ろくに知りもしないで!」
「国のことなんか、どうでもいい……これ以上、こいつを巻き込むな!!!」
「おだまりっ!!!」
どんどん電流が、激しさを増す。
勢いを増すごとに、二人を襲い掛かるー
「ここだと巻き込まれかねません! 絵里香様、お逃げください!」
「でも、それじゃあ紫苑と透君が!」
「あなたまで危険な目に合うのですよ!?」
「それでも、放って逃げるなんて僕にはできない!!!!!」
「絵里香様っ!」
そう、僕は決めたんだ。
紫苑の過去を聞いて、透君のことを聞いて。
すべての原因が、僕にあるのだとしたら。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉいっ!!!!」
思いっきり身を任すように、パールにしがみついて見せる。
勢いよくいったせいか、思いっきり倒れてしまう。
その反動で走っていた電流が、ようやくやむ。
「もうやめて!!! これ以上、傷つくのを見てられない!!!!」
叫びながら、恐る恐る目を開ける。
僕の目線に入ったのは、地面に落ちた仮面だった。
僕にぶつかった衝撃で目の部分が、欠けてしまっている。
仮面がここにある……ってことは……
「……ほんと、無茶ばっかりするんだから……絵里香は」
呆れたような笑み、きれいに整った白い顔。
仮面で縛り付けられていた、長くさらさらした髪―
「ヒ……………ナ?」
仮面の下、パールと呼ばれていた帝王の顔は、関沢雛菊そのものだった。
(つづく・・・)
次回、意外な結末が‥‥
えっ!? って展開が待ってるかも‥‥?
二日後に更新します!