生まれ変わった、彼らの理想郷
最後の花が撫子国にあるときき、絵里香は紫苑達とともに故郷である国へ帰ることにー
その後、カトレアさんの列車に乗り込み、僕は包み隠さず全部話した。
透君のこと、彼の正体のこと。
紫苑も桔梗さんも、僕の話を真剣に聞いてくれた。
僕が全部話し終わると、桔梗さんはいつもの笑みを浮かべて見せた。
「それはさぞかし大変でしたね。本当に行っても大丈夫ですか?」
「大丈夫です。って言っても僕、戦えませんけど」
「翡翠透は俺が何とかする。花だけならまだしも、人のもんをこんな目に合わせて、黙ってられるか」
人のものって、何のことだろう。
まさか僕のことじゃないよね。
いやいや、さすがにうぬぼれすぎか。
「皆様、到着いたしましたよ。ここが、撫子国です」
運転席の方から、カトレアさんが浮かない顔で顔を出す
そんなに時間たっていないのに、やっぱり列車のスピードってすごいな。
よし! 最後の一つだ! 気合入れていくぞ!
そう思いながら、列車を降りた瞬間だった。
「これは……?」
そこには、何とも言い難い光景だった。
周りのどこを見てもあるのはきらきら輝きを放っている石―いわゆる、宝石。
その宝石が地面から、あちらこちらに立っている。
地面も小さな石がちりばめられていて、ものすごくきれいだ。
丘の向こうにある、城のような建物も何もかもすべてが宝石でできていて……
「見事に宝石づくし、というわけですね」
「どういうことだ……あの砂漠の状態から、どうやって……」
「お~~やっときた。まっとったで~! 列車さんっ」
「やあ、絵里香ちゃん」
聞き覚えのある声が聞こえる。
大きな鎌を持ちながら、ガーネットちゃんがにんまり笑いこっちに歩いてきていた。
その隣には、透君もいて前と変わらないような爽やかな笑みを浮かべている。
「どや~? 生まれ変わった撫子国に来た気分は! 一面に輝く宝石! ぎょうさんきれいでっしゃろ?」
「……これは……お前がやったのか……」
「こっちのほうがきらきらしてて、きれいじゃない? それとも紫苑君は、お花畑の方が好き?」
「質問に答えろ」
紫苑の目はまっすぐ彼らを向いていて、静かに怒りをぶつけているようにも見えた。
彼が花好きなのは、僕が一番よく知っている。
何も知らないで育ってきたから、見るものすべてが新しい彼にとってこんな惨状が受け入れられないのだろう。
それは、僕も同じだ。
以前桔梗さんが見せてくれたあの撫子国の自然は、もはや影形すら残っていない。
どこを見ても宝石ばっかりで、きれいというよりもその現実が受け入れられない。
こんなことを、どうして透君達が……?
「まあまあそんな怒らないでよ。僕達は撫子国を新たな理想郷にしてあげただけなんだから」
「理想郷だと?」
「あれ? 聞いてないの? 僕達の母国である薔薇帝国を滅ぼしたのは、紛れもなく君のお父様なんだよ?」
紫苑の、お父さんが?
どういうこと? いったい、なにがどうなって……
「ありゃひどかったわぁ。パール様がいなかったら、うちらどうなっていたことか……」
「パール?」
「相変わらず口だけは達者なようね。ジェード、ガーネット」
そこに、また別の声が聞こえる。
凛としたような、不思議な声。
透君達の後ろの方から、一人―ある人物が歩いてきた。
全身をマントで包み込まれていて、さらには顔に仮面をつけている。
そのせいで、女か男かもわからない。
でも、どうしてだろう。この人……
「撫子国第一王子、アイリスとその従者シャルル。まだ生きていたのですか」
「誰だお前は」
「私は薔薇帝国帝王、パールと申します」
帝王ってことは……この人国のお偉い人!?
そんな人が黒幕だったの?!
「やはりパール殿下は生きていらっしゃったんですね。どうしてこのようなことを……」
「悪いが答えるつもりはない。我々の邪魔をするようなら、即刻帰っていただきたい」
「あ、あのっ! 僕達ここに来たのにはわけがあって……!」
僕が言うと、仮面の目がきっと僕を睨んだ気がした。
あまりの威圧感に、何も言えなくなる。
「奥村絵里香。なぜ、まだ生きている」
「……っ」
「まさか、撫子国を取り戻しに来たのか?」
「あ……当たり前です! だってここは、紫苑達の国で!」
「ガーネット、ジェード。奴らを追っ払って」
ダメだ、話を聞いてくれる気がしない。
それが分かったのか、紫苑もさっと僕の前に出る。
桔梗さんが大丈夫ですよとばかりに、肩に手を置く。
やっぱり戦わないことには、撫子国は……
「ふう、やっと勝負がつけれるね。この時をずっと楽しみにしてたんだ」
「ちょい! 何しゃれたこと言っとるん! こんなのうち一人で十分や!」
「じゃあ先に君がやっていいよ。手は出さないであげるから」
「はんっ! いわれずとも、こんなガキどもうち一人でやっつけたる! あんたの出る幕なんて作ってやらんからな!」
そういって大きい鎌の刃先を、僕らに向ける。
以前思い知ったその威力は、列車をも真っ二つにしてしまう恐ろしい威力。
しかもあの子、ものすごくやる気みたいだし……
「やっつける、か……そんなに簡単にやられるほど、私たちは軟じゃありませんのに」
凛とした、強気な声が隣から聞こえる。
気が付くと僕達をかばうように、カトレアさんが前に立っていた。
彼女は僕達を振り向きながら、クスリと笑ってみせる。
「ここは私がお受けします。絵里香様達はお下がりください」
「な、何言ってるのカトレアさん! 危ないよ!」
「ご心配なく。すぐ終わりますから」
カトレアさんの笑みはすごくきれいで、迷いの一つもない澄み切ったものだった。
相手の力を知っているというのに、わざわざ一人で立ち向かうなんて。
それにカトレアさんは女の人だよ? いくら相手が女性だからって……
「大丈夫ですよ、絵里香様」
僕の心配が分かっているかのように、後ろから桔梗さんが優しく耳打ちする。
彼もカトレアさんと同じ、優しげな笑みを浮かべていた。
「カトレアは私達が心配するような方ではありませんので」
「えっ? どういうことですか?」
「たまには任せてみろってことだろ。じっくり見物させてもらおうか」
桔梗さんの言葉を受け、紫苑が腕くみしながらカトレアさんの背中を見つめる。
二人がこういうのだから、僕も従うしかない。
仕方なく僕も、心配しながらも彼女の背中を見つめた。
(続く・・・・)
次回、いよいよ直接対決です!
次の更新は四日後、トライブさんと同時更新になります!