突然の訪問者、思いの真相
突如、桔梗から「一人で来てください」というメールがきた絵里香。
怪しむ半面、桔梗のことを信じて絵里香は一人で行くことに・・・
桔梗さんに指定された場所は、公園だった。
家からちょっと離れた、一度は行ったことがある公園。
はしゃぎまわる子供たちの姿を眺め見ながら、昔をふと思い出す。
そういえばよくここで楓兄さん達と遊んだっけ。
確か、キャッチボールしてたらボールが近所のおじいさんの窓を割っちゃって。
本当、懐かしいなあ。
「絵里香ちゃん」
そのとき、後ろから不意に声が聞こえた。
振り向くと同時に、つんとほっぺをつつかれた。
「ふみゅ」
「ふふっ。引っかかった」
そこにいたのは、透君だった。
くすりと笑いかけながら、優しげな眼で僕を見つめている。
なんでここに透君がいるのだろう。
もしかして意外と近所だったりするのかな。
「こんなとこで何してるの?」
「ちょうど近くのスーパーで買い物してた帰りなんだ。そしたら君を見つけて絵里香ちゃんは?」
「え、えっと気分転換に散歩みたいな?」
「そっか、天気いいもんね。今日」
そういえば透君と会うのって、あの告白以来な気がする。
紫苑と色々あったせいか、すごくすごぉく気まずい。
一応告白されているわけだし……
「でも驚いた。こんなところで会えるなんて」
「それは僕も同じだよ。この辺に住んでるの?」
「うん、まあね」
透君と二人で歩きながら、きょろきょろあたりを見渡す。
どこを見ても、桔梗さんの姿はない。
やっぱりこのメール、偽物なのかなあ。
そう思いながら携帯を眺めていると、彼から不意に声をかけられた。
「ねぇ絵里香ちゃん。あれから僕のこと、ちょっとは考えてくれた?」
「へ?」
「この前はうまくかわされちゃったから。君の意見がどう変わったのか、聞きたくて」
そっちから蒸し返してくるとは、やりますなあ……
うーん、どうしよう。どう返せば……
「僕、まだ好きとかよくわからなくて……」
「結構絵になると思うよ? 僕と君。付き合って損はないと思うけどな」
「付き合うとか、付き合わないとか……今はそれどころじゃないっていうか……決めちゃったから。紫苑と一緒にいるって」
透君の足が、ぴたりと止まる。
優しげな笑みを浮かべていた表情に、陰りが曇った。
「確かあの時紫苑君にお前はもう必要ない、っていわれてたよね。なのにどうして?」
「確かにいわれたけど、それは僕も悪かったっていうか……紫苑のこと何も知らなかっただけで……少しでも彼の役に立ちたいっていうか……」
そうだよ、決めたじゃないか。
僕は紫苑のそばにいるって。
一人になんかしない。僕にできることは、それくらいだけしかー
……ってあれ? なんで透君がそのこと知ってるんだ?
彼が来たのって確か、紫苑がいなくなったあとじゃなかったっけ?
「……紫苑、紫苑、紫苑。口を開けばそればっかりだね、君は」
「え?」
「……君に見せたいものがあるんだ。こっちに来てくれないかな」
半強制的に透君が、公園にある花壇に連れていく。
相変わらずきれいにゆらゆら揺れている花を見ながら、首をかしげた。
「この花壇がどうかしたの?」
「ふふっ。今から絵里香ちゃんに一つマジックを見せるよ」
透君がまた笑みを浮かべる。
その笑みはなんだかいつもと違って、不気味にも見えた。
「今からここにある何かを消してみます。一瞬だから、瞬きは厳禁だからね?
それじゃあいくよ? 3,2,1」
パチンと透君が指を鳴らす。
一瞬、何が起こったのかわからなくなった。
何回も何回も瞬きして、それが本当か確かめる。
「花が……なくなった……?」
花壇にあったたくさんの花は、最初からなかったかのように消え失せた。
キレイに、土だけが残っている。
「と、透君。マジックにしてはやりすぎなんじゃ……」
「あーあ、消えちゃったね。なんてすばらしい景色なんだろう。これで理想郷にまた一歩近づいた」
「理想の国?」
「ごめんね、絵里香ちゃん。僕、このマジック戻す気はないんだ」
え?
彼の言葉が信じられなくて、彼の方を振り向く。
いつもの笑みを浮かべている透君の手には、何本かの花が握られていた。
おそらく、花壇の中の花の一部だろう。
笑みを浮かべたまま手の中で、ぐしゃりと花をつぶしてしまう。
すると花は粉のように消えて……
「君が悪いんだよ、絵里香ちゃん。僕を怒らせたりするから」
にこりと笑う彼の手の甲には、うっすらとバラとダイヤのマークが浮かんでいたのだった―。
(続く・・・)
敵側の本格始動! はたして、絵里香の運命は・・・?
次回は四日後、トライブさんと同時更新です!