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撫子国王女、育成計画  作者: Mimiru☆
2/26

それはある日、突然に

いよいよ物語始動です!

よろしくお願いします!!!

周りから聞こえる応援の声。選手達の荒い息使い。

もう少しで一分を切る。残り時間は少ない。

点差はたったの二点。このままでは、負けてしまう。

だがしかし! この僕がいる以上、そんなことはあり得ない!

「絵里香!」

味方からパスが回る。

決めろ! という声が飛び交う中、ゆっくりとシュート体制に入る。

よぉし、記念すべき十本目のシュートをチームの勝利に授けようじゃないか!

「くらえ! 僕必殺、スリーポイントシュ―――――――ト!!!!!」

バスケットボールが弧を描くようにして、ゴールへ向かう。

時間がゼロになったその瞬間、ボールは見事ゴールに入った。

「試合終了!」

「よっしゃぁぁぁぁぁ! 決まったぜぃ~♪」

僕―奥村絵里香おくむら えりかは、どこにでもいそうな大学一年生だ。

他の子達と違うとこって言ったら、そうだなあ。女の子らしいことが苦手ってことくらいかな。

この世に生まれて十八年の僕! いまだに料理できません! ちなみに裁縫もできません!

家庭科の授業が必須でなければ、おそらくまったくしたことないと言えただろう。

大体、女の子だからってできるってイメージを作ったのはどこのどいつだ。顔を見せてほしいくらいだね。

こんな風に体育のような運動をすることだけが取り柄なもので、小さい頃から親しみやすいとかで無駄に顔も広い。

人ってもんは、取り柄が一つあるだけで違うってもんだよ! うんうん。

「何一人でにやにやしてるの、変人と思われるわよ? あ、もとからか」

僕の水筒とタオルを渡しながら、呆れたような口調をたたく。

彼女こそ唯一無二の親友・関澤雛菊せきざわ ひなぎく、通称ヒナである。

小学校からの腐れ縁で、とてもしっかりしたお姉さんみたいな女の子。

見た目もすごくかわいくて、まさに女子の鏡! 的な存在なんだ。

「変人とは失敬だな。さっきのすんばらしいシュートを見てなかったの?」

「すごいとは思うわよ。その身長でスリーが入る人、なかなかいないから」

「身長関係ないでしょ!」

「大学生でその身長も珍しいけど、小柄な体形でよくバスケとかバレーとかついていけるわよね~尊敬する限り」

感心しているのか、あきれているのかわからないような口ぶりで言う。

彼女の言う通り、僕は一般的女子とは決定的に違う部分がある。

それが、この身長だ。

小さい頃から身長が低かった僕は、子ども扱いされるのが大嫌いだった。

栄養をたくさん取って、身長を伸ばしてやる!

そう思ってたのに……思ってたのに!

高校生になって百四十八で止まるってどういうこと!? あと二センチで五十いくのに伸びないって何?! 

結果、いくつになっても子ども扱い……世の中理不尽だらけだ! まったく!

「あら、怒った? そんなに気にすることないじゃない。小さいほうが可愛いんだし」

「百六十あるヒナに言われても説得力ない」

「私からしては、背が低いほうがまだましだと思うけど」

これだから背が高い女子は。

僕のような子はみ~んな背が伸びたいとか言ってるのに、背が高い子はみんなして「うらやましい」とかいうんだもん。

僕としては、もうちょっと伸びたいんだけどなあ。はあ、しんどい。

「そういえば、答え決まった?」

体育館の隅っこの方に腰かけながら、ヒナが問う。

水筒を飲もうとしていた手を止め、ゆっくりと彼女に視線を向けた。

「答え? 何の話?」

「もう、この前話したでしょ。合コンのこと」

「ああ~そういえば」

「あんたただでさえ顔広いんだから。たまにはいかないと、目つけられるわよ?」

ヒナが言うのは大学生になってからちょくちょくある、合コンの話。

サークルに入ると先輩・後輩でお酒を飲みに行こうって話になる。

僕はスポーツ全般が好きなため一つのサークルにとどまることはしていないが、助っ人に駆り出されることが多く色々な先輩達と関わっている。

ヒナも僕と同じ立ち位置なうえに外見がいいからか、そういう誘いがわんさか来るらしい。

それに僕も行かないかって誘いが来たんだけど……

「うーん、僕いいや。パース」

「またそうやって軽く流すんだから。もう大学生よ? 十九年生きてて彼氏なしって相当じゃない?」

「そうかもしれないけどさあ。ほら、僕って女の子っぽくないしかわいくもないじゃん? ヒナはかわいいからいいと思うけどさあ」

「絵里香……」

「それに、僕には恋愛なんて無理無理」

小さい頃から本やテレビの世界でしか見ることができなかった、恋愛。

昔は憧れてたり、白馬の王子様が迎えに来てくれるんじゃないかとか思ってたけど今はもうない。

自分が一番わかってるから。奥村絵里香っていう人物を。

こんな僕に、恋愛をする資格なんてない。

「自分に自信がなさすぎるとこ、昔から変わんないね。そんなことないとは思うけど」

「僕にかまわず、ヒナだけ行ってきなよ。先輩には直接僕が言うから」

「じゃあ、絵里香の好きな男性のタイプとかは? それくらいはあるでしょ?」

好きなタイプ、と聞かれて一瞬頭をよぎったものがあった。

アニメやゲームの世界で必ずと言って好きになった人の、共通点。

僕の好きな男性のタイプ……それは……!

「長髪男子!」

「……は?」

「僕、長髪の男の子がいい! さらさらヘアの、すごくきれいな!」

うっとりと目を細める僕に、ヒナははあっと深いため息をついた。

「絵里香。それ、アニメの見すぎ」

「え~そうかな~?」

「現実見なさいよ。実際長髪の男子いたところで、アニメみたいにかっこいいわけないでしょ。むしろ不潔」

「不潔とは失礼な! 君は長髪男子を汚す気か!?」

「自分への自信のなさといい理想の高さといい、あんたには到底無理っぽいわね」

ため息交じりで言うヒナの横顔に、僕は何も言い返すことができなかった。


オレンジ色に染まった太陽が、少しずつ沈んでいく。

もうすぐ夕方だなあと思いながら、僕は家へ足を進めていた。

ヒナは合コンとやらに行ったおかげで、現在一人である。

この時間に一人で帰るのは久しぶりだ。

いつもはサークルの友達とか、ヒナがいるのが当たり前だから。

一人きりって、こんなに寂しいものだっけ……

「嬢ちゃん、お一人かい?」

前方にて、僕に声をかけた人が現れた。

ごつい体系の人で、柔道をやってそうな男性だった。

しかも一人ではなく、三人くらい仲間を引き連れて。

「こんなとこで一人じゃ危ないぜ~?」

「俺達と一緒にいいことしねぇか~? 楽しいぜ~?」

ふむふむ、なるほど。これが世に言う不良というやつか。

僕が今体験しているのは、まさしくナンパというやつではないか?

こんな僕にナンパするとか、よほど目が腐ってるんだなあ。かわいそうに。

「ごめんなさい、僕急いでるんで」

「ノリ悪いなあ、嬢ちゃん。ついてくるだけでいいんだぜ?」

「お金ないんで」

「まあまあそういわずによぉ」

不良に絡まれました、どうしますか?

A 戦う B 逃げる C 誰かに連絡する

戦闘ゲームでよくあるコマンドを脳裏に浮かばせながら、冷静に考えてみる。

この場合考えられる僕の選択、それは……一つしかない!

その答えとは……!

「あ~! お兄ちゃんからメール来てる~! 早く帰らなきゃ! それじゃ!」

Bの逃げるしかないでしょ!

戦うを選んだそこの人! 甘い! 甘すぎる!

不良と暴力沙汰でけんかしてみ? ただで済まさないでしょ!

大好きなスポーツがけがで出来なくなったとしたら、僕の人生たまったもんじゃない!

この絵里香様の全速力ダッシュに、ついてこられるわけがな……

「逃がすんじゃねぇ! 追え!」

あっれ~~~!? なんで結構追いついてきちゃってるのぉぉぉ!?

陸上記録会で大会新記録をたたき出してきたこの僕が、こんな太ったおっさんに負けるなんて!

まずい! ここで負けたら、マジで死ぬ!

とか何とか思いながら走っていると、僕の目の前にまさかの壁が出現した。

つまり、だ。

「なかなか面白いことやってくれるなあ。覚悟はできてんのか?」

絶体絶命、もはや逃げられない。

嗚呼、死んだ。

こんなことなら、ヒナと合コン行っとけばよかったなあ。

最後の一生がナンパされて終わるなんて、無残すぎるでしょ。

そう思いながら、僕は殴られるのを覚悟して目をつむった……


何か、すごい物音がした気がする。

そう思いながら、ゆっくり目を開けた。

なぜかどこも痛くない。死んだせいで、痛みも感じなくなってしまったのだろうか?

いや、違う。

目を開けるとそこに広がっていたのは、倒れている不良の光景だった。

白目をむいていて、精神ここにあらずっていう状態だった。

その不良の近くに、一人の青年がいることに気付いた。

すらっと伸びた手足、きれいに整えられた髪。

しかもそれは、僕が好きな男性タイプである長髪で……

青年が、僕に気付いたようにこちらを振り向く。

こちらを観察するように見据えたその瞳は、きれいな青色だった。

まるでアニメの中のイケメンが、現実世界にやってきたかのような……

「……なんだお前」

はっと我に返った僕は、光景からこの人に助けてもらったことを悟る。

走ったせいで乱された制服を治しながら、ピシッと背筋を伸ばしてみせる。

「あああ、あのっ。助けてくれて、ありがとうございました!」

「助けた? 俺が?」

「だ、だって、この不良をやっつけてくれたんでしょ?」

「ごみの回収をするのは、市民の務めだろ」

はい?

すると、彼は三人の不良を近くにあったゴミ収集場へ投げてしまう。

あっけにとられてみていると、青年は僕の方へ顔を近づける。

ものすごくきれいな顔に、思わず見とれてしまう……

「ださっ」

「え?」

「あんなゴミどもに逃げることしかできないとか、どんだけださいんだよ。おまけになんだ、そのだらしない格好は。裸で歩いてるほうがまだましだ」

「なっ……!」

「俺が片づけるまでもなかった。せいぜいその恥ずかしい面を人様に見られないよう帰ることだな。オチビさん」

口をパクパクさせて、怒りでわなわな口が震える。

青年は馬鹿にしたように鼻で笑うと、僕から向きを変えすたすた行ってしまう。

「な、なんなんだよ~~~~~~~~!!!」

誰もいなくなった路地で、僕は大声で叫んだのだった……


(続く・・・)

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