海の星、桔梗と二人で
二つ目の花があるのは、海の中?
紫苑に何回も任せるわけにはいかない、そういって名をあげたのは桔梗だった。
かくして絵里香は、桔梗と二人で行くことに・・・
「バリアから出ないように気を付けてください。一気に下に下りますので、気分が悪くなったりしたら言ってくださいね?」
真っ青な海の中、進むにつれてどんどん薄暗くなっていくのが分かる。
僕はごくりと唾をのんだ。
桔梗さんの能力のお陰で、まるで透明のエレベーターに乗っているような感覚だ。
上も下も海。自分が立っていることも忘れてしまいそうだ。
油断したら落ちてしまいそうで、震えを隠せない。
「大丈夫ですか、絵里香様」
「え?」
「さっきから震えているように見えたので。怖いですか?」
さすが桔梗さん。鋭い。
隠しようがなかったため、浅くうなずく。
だめだなあ、僕。桔梗さんに迷惑かけちゃってる。
こんなんで撫子国の最後の砦が務まるのかなあ。
「それなら、こうしましょうか」
そういうと同時に、僕の手を桔梗さんがそっと重ねる。
びっくりして、変な声をあげてしまった。
「しっかりつかまっていてくださいね」
すました桔梗さんの笑顔のきれいさに、何も言えなくなる。
桔梗さんの手はすごく暖かくしっかりしていて、大人の人って感じだった。
「紫苑とは、うまくやれていますか?」
急に話は紫苑のことに移った。
まあ桔梗さんとしても、紫苑のことは気になるんだろうなあ。
うーん、どう答えようかなあ?
「うまくやれてる、というかばかにされることが多くてすっごいむかつきます」
「ふふ。絵里香様は正直者ですね」
「だ、だって!」
「紫苑は何事も完璧にできるほどの天才ですから。あの態度でしたら、そう思うのは無理もないですよ」
桔梗さんまでもが天才と認めているとは……そりゃ天狗になってもおかしくないわ。
「昔からそうなんです。何に関しても素直になれない、困ったお方なんですよ」
「桔梗さんと紫苑って、昔からずっと一緒なんですか?」
「ええ。まあ」
ふうん、昔の紫苑ってどんな感じだろ。
やっぱりずっとあんな感じなのかな。
昔から人を馬鹿にしている……なんて性格の悪い!
「そういえば桔梗さん、あんまり地球にいませんけどどこか出かけてるんですか?」
「ええ。カトレアと一緒に、星の探索と敵の様子をうかがっているんです」
「た、大変ですね」
「そうでもありませんよ。お二人が笑顔で、学校生活を送られているのを見たらすごく元気になりますし」
「でも撫子国と地球って結構違うんですよね? 住みづらさとかないんですか?」
僕が聞くと、桔梗さんはクスリと笑みを浮かべた。
相も変わらずきれいで、うっとりしてしまうほどの笑顔……
「確かに少し違和感はありますけど、ここと撫子国は似てますからね。さほど変わりませんよ」
「へぇ~撫子国ってどんなとこなんですか?」
「地球のように海は少ないですが、緑と花に囲まれたとても素晴らしいところでしたよ」
「そうなんですかあ!」
……あれ?
その会話を聞いて、ふと僕はある疑問にたどり着く。
さっきの言葉を一生懸命思い出して、改めて考えてみる。
僕の記憶が正しければ、今花で囲まれてるって言った?
撫子国にも、花があるってこと?
じゃあ、紫苑は……?
「もうすぐ海底につきます。行きましょう」
その言葉に僕の疑問は雲のように消えてしまい、あっという間に花のところへたどり着いたのだった……
「ただいま戻りました。紫苑、これが二つ目の花ですよ」
海底から無事に帰宅した桔梗さんと僕は、紫苑のところに行った。
桔梗さんが二つ目の花を両手で差し出したのにもかかわらず、紫苑は腕を組んだまま僕達を睨むように見つめた。
「……それで?」
は?
「その花を二人で仲睦まじくとりに行ったのか? ご苦労なこったな」
「ど、どうしたの、紫苑?」
「そんなにそいつとがいいなら、これからの星も桔梗と行けばいいだろう」
冷たくあしらわれたその一言が、なぜか痛く突き刺さる。
紫苑はそれだけ言うと、すっと自分の部屋に戻ってしまった。
「申し訳ございません、紫苑が失礼なことを」
「い、いえ、いつもので慣れてますし……」
「お疲れでしょう? 勉強用の部屋にベッドがありますので、つくまでゆっくり休んでください」
桔梗さんは笑顔を浮かべながら、さっと去っていく。
何だったんだろう、あの言葉の意味。
本当、僕って紫苑のこと何も知らないよな。
別に知りたいと思ってるわけじゃないし、興味もないけど。
でも……
『緑と花に囲まれたとても素晴らしいところですよ』
あの言葉が本当なら、あれは何だったんだろう。
色々なことに詳しかった紫苑が、唯一知らなかった花のこと。
今は調べてるせいか、そんなことはないけど。
それにたまに見せる、あの切なそうな表情は……?
僕の疑問は深まるばかりで、紫苑の表情が気になったまま夜が更けていったのだった……
(続く・・・)