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撫子国王女、育成計画  作者: Mimiru☆
10/26

砂漠の星、一つ目の花

宇宙汽車・アマギに乗せられ、カトレア・桔梗・紫苑とともにやってきたのは、

まさかの砂漠で・・・・?

「な……なんじゃ……こりゃ」

目の前に広がる光景が信じられなくて、思わずそうつぶやかずにはいられない。

地球を離れ、はるか宇宙までやってきた矢先が……これだ。

見渡す限り、砂漠が広がるこの世界。

見るからにわかるどこまで行っても砂だらけ、暑い熱気のせいで拭いても拭いても襲ってくる汗、先が見えない土地―

……はっきり言って、ありえない。

わざわざ宇宙まで来たのに、これじゃエジプトかどこかに来てるようなもんじゃん。

ていうか、こんな星にそもそも花なんてあるの!?

「……思ったより気候が乱れていますね……」

「カトレア、ここが本当にその場所なんですか? 私が聞いていたのとはかなり違いますが」

桔梗さんが言うと、カトレアさんが言いにくそうに言った。

「撫子国からあの花々が散らばった影響か、おちた星にも影響が出てしまっているようですわ。ここにはもう、人さえもいません。この環境の中、花を探すことができるのでしょうか……」

確かに、見た感じ人が住める環境ではない。

さっきから砂が目に入ったりするのが怖くてまともに見えないし、口の中がじゃりじゃりいってる。

こんなの、どうやって行くんだよぉ。

やっぱり僕には無理だ、あきらめて帰った方がいいんじゃ……

「絵里香」

とかなんとか思っていると、隣から紫苑が呼ぶ声がした。

目をこしらえて彼の姿を見ようとすると、僕の目の前に手が差し伸べられていることが分かった。

「行くぞ」

今、こいつ、なんて言った? 行くぞって言った? この中を?

いやいやいや、普通に考えてそれは無理でしょ!

だってこのあっつ~い砂漠に、見えない中でどうやっていけっていうんですか!

「桔梗、ゴーグルもってねぇか」

「大丈夫なのですか、紫苑」

「平気だ、慣れてる。こいつ用に一個用意してくれないか」

「……わかりました。では絵里香様、これを」

桔梗さんに言われるがまま、僕は彼の方を向く。

気が付くと、僕の顔にはゴーグルが設置されていた。

「見えますか?」

「あ、はい、なんとか」

「エスコートは任せましたよ、紫苑」

「無論だ」

紫苑はそう言うと、僕の手を強引につかみ足早に歩いていく。

僕はつられるがまま、砂漠の中を歩いた。

ゴーグルをしてるとはいえ、砂ぼこりのせいでろくに前は見えない。

それでも紫苑は、平然と歩いている。

……なんで、平気なんだろう。

普通は僕みたいに、ゴーグルをつけないと前さえ見ないのに。

「ねぇ! 紫苑!」

「なに」

「なんで平気なの!? 砂、目に入ったりしない!?」

大きな声になってしまうのは、この砂嵐のせいで声がかき消されてしまうからだ。

僕の問いに答えたくないようにも見えた紫苑は、めんどくさそうに僕に言った。

「さっきも言ったろ、慣れてるから平気だって」

「慣れてるってどういうこと!? 砂漠に来たことあるってこと!?」

「まあ、簡単に言うとそうだな」

紫苑はそれ以上、僕には何も言ってくれなかった。

どうして、いつも何も言ってくれないんだろう。

いつもそうだ。紫苑は僕のことは全部知ってるとか言うくせに、自分のことはまるで話そうとしない。

別に紫苑のことなんかどうでもいいはずなのに。

たまに浮かべる彼の顔をみると、どうしようもなく胸が押し付けられてー

「あったぞ、花」

はっと我に返ると、目の前には信じられない光景が広がっていた。

紫苑が言ったとおり、砂漠の中一輪だけ咲いている花があった。

そこまではいい。

なんとその花を囲むようにして、竜巻が起こっているではありませんか!

もう! 何がどうなっているんだよぉぉぉぉぉぉ!

「あの花はハマナデシコ。節間の短い剛直な茎に厚い照葉を着け、真夏に紅紫色の花を集散状につける独特の姿をしたやつだな」

「へぇ……って花の種類は今関係ないでしょ! あの中どうやって行くの!?」

「俺の魔力をもってすれば簡単だ」

そういやそんな持ってたな、この人。

魔力とか言ってるけど、撫子国の人達は全員使えるのかな。

恐るべし、異星人……

そんなことを考えていた僕に対し、紫苑は無言で何かを唱え始めた。

外国語か何かよくわからない言語を言い終わると、僕と彼を包むようにしてバリアがはられた。

その途端、暑かったものがぱあっと冷めいつもとかわらなくなった。

「すごい……」

「早くしろ。あの花はお前しかとれねぇんだから」

「わ、分かってるよ!」

紫苑の手をつかんだまま、空いた片手で花を取ろうと手を伸ばす。

バリアにも限界があるみたいで、限られたところまでしか行けないようになっている。

あと、もう少しーもう少しで届くー

一生懸命手を伸ばし、やっと花の茎のほうに届いた。

「とった!」

「そのままひっぱれ」

「りょ~かい!」

すべての力をこめ、思い切って花をひっこぬくように引っ張ってみる。

案外簡単にとれ、思わず尻もちをついてしまった。

「やった! とれたよ、紫苑!」

僕が紫苑にそう言った、その瞬間の出来事だった。

花を囲んでいた竜巻の勢いが、一気に力を増す。

その瞬間、弱まった魔力とともに僕はふわりと宙に浮いていた。

何も考えることができないまま、ただ風に身を任せて。

「絵里香!」

どんどん遠ざかっていく砂漠の地と、紫苑の声―

ああ、もうだめだ。僕、死んじゃうのかな。

そんなのないよ、だって、こんなわけのわからない異星にまで連れてこられて死ぬなんて。

まだやりたいこと、たっくさんあったのに……

「そう簡単に死なれてたまるかっ!!」

紫苑の怒ったような声が、僕の耳に届く。

気が付くと、彼は僕の腕をつかんでいるのが分かった。

そのまま、彼の体のほうへと引き寄せられる。

……ん? 引き寄せられる? ……ってまさか……

「ぎゃあああああああ! ちょっ、紫苑! 何やってんの!?」

「うるせぇ! わけ分かんねぇ場所に飛ばされてぇのか!?」

「そうじゃないけど! なんで……っ!」

「ここでお前が死んだら、元も子もねぇだろーが。黙って俺につかまってろ」

そういって紫苑は、強く僕を抱き寄せるようにして体のほうへ寄せる。

彼の横顔が、いつにもましてかっこよく見えた気がした。

なんだか、こっちが緊張して……

って、何を考えてるんだ僕はぁぁぁぁぁぁ!

そうこうしている間に、紫苑のおかげで竜巻からは逃れた。

紫苑は空も飛べたらしい。空中をふよふよ浮いている。

「た、助かった……」

「まったく、人騒がせな奴だな」

「しょ、しょうがないじゃん! とったらひどくなるとか聞いてないし!」

「ごちゃごちゃうるせぇな。俺のおかげでけがひとつなしで帰れたんだ、感謝してほしいくらいだな」

確かにこうやって死なずにいられるのは、紫苑が助けてくれたおかげだ。

感謝したいのはやまやまだけど、こう上から目線で言われるとむかついてしょうがない。

まったく、なんで僕がこんな目に……

僕はひそかにため息をついたのだったー


「絵里香様! ご無事でしたか!?」

汽車の中に入ると、すぐに桔梗さんが駆け寄ってくる。

僕の体を見たりしながら、彼はほっと肩をなでおろした。

「よかった、けがはないようですね」

「なんか、その……心配かけちゃって、ごめんなさい」

「絵里香様が無事でいてくれるだけで、私は十分ですよ」

なんだかくすぐったいな、こんな風に心配されるの。

お母さんたちがいなくなってから、もう心配してくれるような人はいなかったのに。

「お帰りなさいですわ、絵里香様。あら、それが例の花ですの?」

「あ、はい。紫苑によると、ハマナナデシコっていうそうです」

「とてもきれいなお花ですわね。そういえば紫苑様の姿が見えませんが……」

説明しようとして、やめた。

彼は僕を下ろしてすぐにどこかに行ってしまった。

絵里香菌がうつるから体流したい、とか言いながら。

なぁにが絵里香菌だよ。僕は人間だっつうの!

まったく。本当にむかつく奴なんだから!

「この花は私の方で保管しておきますわ。次の花をサーチするのに時間がかかりますので、一回地球のほうに戻りますね」

「あ、はい。お願いします」

長い一日だったなと、我ながら思う。

宇宙じゃ地球と過ごす時間帯が違うって、確か桔梗さんが言ってたっけ。

今頃ゴールデンウィークを楽しんでるんだろうなぁ、みんな。

早く帰ってねよ~っと。

そんなことを考えながら、歩いていた時だった。

何かの音が、聞こえた。

すごくきれいで、透き通るような音が。

「……笛の音色?」

「おや、珍しいですね。最近は耳にすることもなかったのに」

「この音、知ってるんですか?」

「撫子国に古くから伝わる楽器の音です。地球でいう、オカリナに似てますかね。相変わらず、紫苑が奏でる音は一味違いますね」

へぇ、これ紫苑がひいてるんだ。

何とも美しい音色と、響き渡る切ない旋律―

まだまだ知らないことが多いなあ。紫苑のことも、桔梗さんのことも。

そう思いながら、僕は眠るように目を閉じたのだった―。


(続く・・・)

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