過去の生活(ライフ)
「今日はついてないだろうなぁ〜」
こんなことを呟きながら登校するのは、僕は初めてだった。それも仕方あるまい。だって、いきなり女の子がぶつかってきたのだから。
まだ、頬が少し痛い。
さっきので少し時間を食らったから急がないと……
そう思いつつも、体が痛くてそれほどペースが上がってない。さっきの衝突で、少し擦りむいたのか血が出ている。深くはないが痛みはある。
学校着いたら、保健室で手当てしてもらおうか……
そう呟きながら、僕は歩き続けた。
周囲の目を引き寄せながら……
それにしてもさっきの子は、一体なんだったんだろう?
ぶつかるのはよくあるギャルゲーのことだ。そこからいろんな展開へと進化していくのが常識だ。ただ、僕の場合はまた別だ。スカートの中が見えてしまうのは仕方ない。だが、見えたものがアレ……そして、頬を引っ叩かれ逃げられて終わり。
あれ?なんか悲しくね?
普通だったらこう、そこから二人は恋に落ちていくパターンじゃないのか?
それは二次元か。まぁいい。今は早く学校へ行って傷の手当てを……!
「ど、どいて〜!」
「またかぁぁぁ!」
ガシャン!
「「いっててて……」」
いや、同時に言うなよ……
今度は、背後からの衝突だった。とても痛かった。でも、そんなことより向こうが派手に倒れているので心配になった。
「だ、大丈夫ですか…?」
倒れている子に声をかけてみた。
「あ、いえ、そちらこそ大丈夫ですか?」
「え、あ、僕は大丈夫ですよ」
「はぁ……良かったぁ〜!」
へぇ〜、意外といい笑顔するじゃん。
って、何考えてんだ俺……
「君は僕と同じ使音峯学園の生徒?」
「はいっ、そうですが……」
「そっか。僕は天宮司空音。一年生で文芸部に所属してる。」
「私は中塚智絵って言います。私は今日からこの学園に転入することになっています」
「転校生さんっ?!」
「はいっ!これからよろしくお願いします!」
「あ、う、うん、こちらこそ……」
……って待て待て待て待て待て待て待て待て待て待てぇぇ!
この展開って……まさか……!
「あの〜、どうかしましたか?」
「えっ?!」
やばいっ!変な顔になってたか?!
「う、ううん、別になんでもないよ!」
(この返し方って100パーセント裏があるってわかるんじゃないのかっ?!)
「ふ〜ん」
察してはいないようだった。
「良かったぁ〜」
僕は少し小声で呟いていた。
……
沈黙。
……
まだ沈黙。
……
まだまだ沈黙。
……
どうしよう……?
……
この状況どうしよう……?
……
ねぇねぇ?
……
ねぇねぇねぇ?
……
誰に問いかけたんだ、僕?
……
「あ、あの〜?」
僕の心の声が聞こえたのかぁぁぁ?!
「は、はいっ!」
少々同様してしまった。
「よかったら、学園まで案内してもらえませんか?」
「えっ?!」
えっ……いま、なんて……?
「ごめん、もう一回言ってもらえるかな?」
聞き間違いじゃ……ないよな……?
「よかったらでいいので、学園まで案内してもらえませんか?」
「も、もちろんっ!」
僕、即答。
智絵さんは……
「ありがとうございますっ!」
最高の笑顔 (だと思う)を僕に見せてくれた。
その後は、しっかりと智絵さんを学園まで案内し職員室前で別れた。
保健室に行くの忘れてた……
放課後、
「なぁ空音?お前、転校生のこと知ってるか?」
「阿良翔か。どうしたんだ急に?」
「美少女で、いまそのクラスで大人気って噂が流れてんだ。空音は知ってんのかなと思ってな。」
「知ってるも何も、今朝登校中に背後から激突してきたんだよ。」
「何じゃそりゃ!」
「声がでかい……!」
「あ、悪りぃ」
……
この人は、獅子比阿良翔。中学からの付き合いで、僕らの関係は普通の友達だ。とても活発的な人で見た感じ頼り甲斐があるように見えるが、実際はそうではない。
委員会の仕事で荷物を運ぶ時、阿良翔は決まってこける人だ。何もない普通の廊下で。
「それじゃあ空音、いまから見に行かないか?」
「なんで僕が一緒なんだ?」
「知り合いがいればまだ少しは話しかけやすいだろう?」
「あれを知り合いと受け止めるのは、どうかと思うが?
「まぁそう言わずにさ。一人だと心細いんだ、早く行こうぜ。」
地味に本音で語ってるが、そこは突っ込まないでおこう。
「わかったよ。トイレ済ませてから行くから」
「漏らすなよ!」
(誰が漏らすかっ!恥ずかしいどころじゃないわっ!)
内心で突っ込みつつ、僕はトイレに向かっていった。
……
静かだなぁ……
こういった場所は少し落ち着く……
……い、いまのはトイレがいいって言ったわけじゃないぞっ!
だから、誰に言ってるんだ僕は……?
……
やけに静かだな?
この学園のトイレは中の音は聞こえないが、外からの声は嫌ってほど聞こえてくる。でも、いまはその声が全く聞こえない。
みんなどうしたんだろう?
トイレを済ませた僕はトイレから出た。
……
でも、出てきた先にあったのは、いつもの光景じゃなかった。
少し明るいはずの放課後でも、ここは真っ暗だった。
何も見えない。
何も感じない。
何も聞こえない。
(……ね、 ……ね……)
ん?なんか聞こえたような、そうでもないような?
(……ね、 ……らね……)
うん、なんか聞こえる。でもうまく聞き取れない。
(……らね、 ……そらね……)
僕の名前を呼んでいるのか?でも、いったいどこから……?
(……そらね…… ……こっちです……)
後ろにいるのか?
そこから聞こえたので僕は後ろに振り向いた。
……
でも、もう何もすることができなかった……
けど、わかったことが一つだけあった。
それは……
僕が今から、殺されることを……