追憶の世界ー回想終了ー
「おっさん、ありがとう」
「え、いきなりなんだよ」
少年がダンジョンの接続に成功したのは掘削を開始してから3年後だった。
誘拐された少年は、結局両親の元に帰れず仕舞い、それよりも良い手があると考えたから、ではあったが、それよりも恩人から託されたダンジョンの掘削という仕事をやり遂げようと、これまたダンジョンそれ自体に思考誘導を食らっていたからで、こんなのは誘拐とあまり違いはないかもしれない。
初心者期間の報酬1000倍は少年には適用されなかったが、その代わりに教育期間が与えられた。
「俺が誘拐された時に戻るには、あといくつダンジョン接続すればいいもんかね」
「それはわからない、そもそも、その時間に戻る前にダンジョンが完成するかもしれない」
少年をサポートしているのは屈強な肉体と優れた知性を持った黒人であった。野太い声がダンジョン内に響く。
「とはいえ、君は過去の君を救う機会がある。それで過去の君を救ったとして、今の君の過去は決して変わらない」
「よくわかんないけど良いんだよ、俺誘拐した方も憎んでるわけじゃないしさ」
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「ヘイトスピーチか」
「ああ、大変だな」
ダンジョン外でも少年と黒人はペアを組んでいた。これは少年を教育していくために講じられたダンジョン世界の管理者の配慮によるものであった。
「民主主義の根幹にあるのは何だと思う?」
「表現の自由だろ」
「それはそうだが、直接政治に参加できないんだから、表現の自由だけあってもしょうがないとは思わないか?」
「いや、どうなんだろう。俺、結局まだ、この社会にも馴染んでないんだよ」
「それで構わない、実はね、この国の子供たちは正解を求められ続けてきたんだよ」
「へえ」
「おかしい話なんだな、民主主義は正しさがわからない、わからないからより良い答えを見つけようと、こう考えて始められたんじゃないかと、私は思うんだよ」
「実際ダンジョン世界とは関係ないだろ?」
「君がきてから3年、私も暇つぶしをしている」
「俺はさあ、表現とかしてないもん。労働しかしてねえじゃん」
「仕方ないね、ダンジョンの中には社会がないからね」
「だからわかんないよ」
「この国を攻撃しているのは、自主規制かもしれないね」
「いやー、そうなの?」
「ダンジョン世界には本がないだろ」
「何もないからな」
「何もないんだよ。本でもなんでも良い、君くらいの子が、テレビのニュースや新聞記事を読んで、それが誰かの価値判断によって形を変えられているものだと気付かずに鵜呑みにすることがあるんだよ」
「へえ」
「それでね、記事を書く人はまだ民主主義者じゃないんだよ」
「ふうん」
「ある一つの事件の全てを君に伝えるとしたら、紙面でも放送時間でも良い、結構使っちゃって、他のことを伝えられなくなるね、だから何を優先するか、それを決めていく」
「そういうもんなんかなー」
「そうなんだよ、そしてそれはね、お金なんだな」
「金はあるよ、俺」
「だから君は買収されない」
「だけど金は必要だよ」
「誰にも買収されない程度に金を用意しよう」
「それで俺どうすればいいの、民主主義とかやればいいの?」
「いや、君に渡しているのは偽金なんだよ」
「へー」
「造幣局で刷ってる本物だから問題はない」
「あんまり気にしてないよ」
「デフレの原因になった紙幣の少なさ、これはこちらに流していたからなんだな」
「俺デフレってわかんないから」
「これから日本以外全部異世界になる」
「え、そうなの?」
「現代日本人を利用して掘った資源を使って、未来日本人はなんとか生き延びていこうとしている」
「じゃあなんでお前黒人なんだよ」
「私は正確には黒人じゃない」
「え?」
「私が未来日本人なんだ」
「そうなんだ?」
「将来、混乱に陥った日本で、肉体的に惰弱な日本人遺伝子は駆逐されて、日本に住んでいた黒人たちによって世代交代がなされていく」
「なんで俺にそんなことを教えてくれるの」
「それはな、男の娘である君と俺が交尾をするからさ」
「!?」
「そして世代交代を早める」
「いったいなんで!」
「早めなくてはいけない事情がある」
「俺無理だよ・・・」
「俺に任せてくれればい良い。男同士の染色体であれば、問題ないから」
「いや・・・」
「未来日本に、女はいない」
「どうしてさ!」
「俺たち未来日本人は、可愛いものしか、交尾の相手として認識できない。そして惰弱なオスは、奴隷としか認識できない」
「だ、だからってなんで俺が!」
「女の子が、こんなに可愛いはずが、ないだろ?」
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ーダンジョンの最終接続が完了、地上と繋がりましたー
「いいかみんな!俺たちの世代交代は早まった!」
「この巨大ダンジョン地下日本で、異世界人攻略者を迎え撃つ!」
「俺たちの防衛は、始まったばかりだ!!」
「ご愛読ありがとうございました!!」