74 北の国で 18
・・・・・ズィルバー
「この子にヴァイスと名付けてくださってありがとうございますですの。
・・・・
卵を山の中に隠してから早1000年以上経っていたんですの・・
探しに行っても見つけられなくて・・・
・・・会えないなとすっかりあきらめていたんですの・・」
黒いのの影から出てきた白いのはそう言った。
よく見れば,確かにりゅうだ。では・・・この黒いのもりゅう?
・・・・・
・・・・・
・・・・・
ヴァイスは,
「ウン。オトウサント オカアサンナンダッテ」
とこともなげに言うから,俺とロートはさらに言葉を失ったぜ。
「失礼ですが・・・『黒き魚』と聞いていましたが。」
「おほほほほ・・・」
白いりゅうは笑った。
「私たちの夫婦げんかが,魚型獣人のまちで言い伝えになっているってヴァイスから聞いてびっくりしましたの。でも,私たち魚じゃありませんの。」
夫婦げんかだったのか?!
俺もロートもさらにさらにびっくりだぜ。
「でも,夫が魔物だってことは本当ですの。」
なんだって!!!!まさかヴァイスが魔物?
俺たちの気持ちが分かったように白いりゅうは愉快そうに笑ったんだが・・・
「ヴァイスは私の血が濃く出ていましたから,魔物ではありませんの。」
じゃあ?こっちの魔物臭のする黒いのは?
「夫も魔物とは言え,良い魔物ですの。」
・・・・・
・・・・・
魔物に良い悪いがあるとは知らなかったぜ。
「私たち,ここのところ,ずうっとここにいるんですの・・・だから・・・外のことがほとんど分かりませんの。」
・・・・・・・・
夫婦げんかの後,母親の方は腹いせに卵をどこかに隠し,自分は北国のもっと北にある氷の島へ行ってたそうだ。
黒き魚の方は炎のりゅうなので,氷の島へは行きたくなく・・・夫婦のことはよく分からんが,なんやかんやでようやく仲直りして・・ここに住み始めたのがここ十数年らしい。時々ヴァイスを探しに行ったらしいが,どこに隠したか忘れてしまったようで,見つけられなかったという。
しかし・・・しょうもない夫婦だな。自分の子をほっぽり出してけんかしてるなんてな。
「私たちは卵のまま何年もいられますから心配はしてなかったんですの。」
いや。そういう問題じゃあねえだろう・・・
・・・・・・・・
「それでですの・・・実はですの・・この子には弟か妹がいるんですの。」
ええ?どこに?
「ココダヨ」
よく見たらヴァイスの奴,黒っぽい丸い物を抱いているじゃねえか。たまごか?
「黒いと言うことは?」
「多分魔物ですの。」
・・・・・
・・・・・
「ボクハネ オンセンニ ツケレバ イイコニ ナルト オモウンダヨ。」
・・・・
・・・・
「実は,もう一つ気がかりがあるんですの。
・・・私たち夫婦の寿命が近いんですの。」
「「え?」」
「正直,この子と会えてうれしいですし。弟か妹のことをヴァイスに頼めるのもうれしいんですの。」
・・・
「でも・・・夫は多分あと少しのうちに・・・私は今夜までに・・・多分還るんですの。」
俺たちは言葉もなかったぜ。ヴァイス・・・大丈夫なのか?
すぽん。音がしたぜ。なんだ?みたら,ヴァイスのしっぽを黒き魚(りゅう?)が離した音だったぜ。ヴァイスは黒いたまごを抱いたままこけている。
「オトウサン?」
「ヴァイス・・・白・・・逝くときが来たようだ・・・
お二人とも,ヴァイスとシュバルツをよろしく頼む。上にいるミャアコちゃんとやらにもよろしく言っておいておくれ。ヴァイス,最期に会えて良かったよ。ちゃんと元気にやっていくんだよ。いつでも見守ってるからね。
・・・白,悪いが一足先に逝くよ。でも・・上でしばらく待ってるからね。」
そう言ってヴァイスに多分・・・手を伸ばしてなでたんだろうな。ヴァイスの頭を黒い物がかすっていったぜ。
そのまま黒き魚は黒い煙となって上にある小さな穴からまっすぐ出て行ったぜ・・・・りゅうは亡くなると天に還るのか・・・初めて知ったぜ。ロートもずっと上を見ていたから,同じことを考えたに違いない。
白って言う名前だと分かったヴァイスの母親は,
「これ以上ここにいても仕方ないですの。シュバルツを良きりゅうにすることこそ大切ですの。シュバルツは,明日か明後日には孵りますの。急いでくださいですの。」
と言って俺たちをせかすぜ。この黒いたまご・・シュバルツってぇのか・・へえ・・・
「ヴァイスと話さなくていいのか?」
「夕べ一晩語り明かしたんですの。もういいんですの。私たちの知識は全てヴァイスに渡しましたし。」
どうやって渡したんだ?ロートも同じことを考えたようだぞ。目がキランと輝いたぜ。
「私ももう持ちませんの。」
「オカアサン」
「兄弟仲良く暮らすんですの!!!」
最期は怒鳴るようにして・・・白は白い煙となって上に登っていった。
・・・・・
俺たちは黙ってヴァイスの肩を抱いた。ヴァイスは・・・泣きもしなかった。でも,
「イソゴウヨ」
って俺たちをせかしてもとの道をたどり始めたから,慌てて俺たちも追いかけたぜ。
洞窟から出てきたら・・・まだ昼過ぎだったようだ。
「ご飯ご飯・・」
と言うミャアコをせかして温泉に帰ろうとする俺たちに,ミャアコはいつまでもご飯ご飯と言い続けていたぜ。鬱陶しい・・・
「ボクノ オトウトカ イモウトナノ。ハヤク オンセンニ ツケナキャ マモノニ ナッチャウヨ」
ヴァイスがそう言わなきゃきっとそりは動かなかっただろうな。
帰りの方が行きよりもっと速かった・・・・下りだもんな・・・・・
・・・正直もう二度と乗りたくねえ
・・・しゃべろうにも口を開けば舌をかんじまうし
・・・ヴァイスは飛んで帰れば良かったと思ったに違えねえ・・・
うわああああああああああ・・・・
そりはそのまま温泉に突っ込んでいったぜ・・・
ヴァッシャーン
ぐわっぐわっぐわっ・・・・・ぎゃっ・・・・きゃー・・・ わっ・・・・うわっ




