33 温泉が出た 9
ーーーーーズィルバー
翌朝,新しくまたシチューを作ることになったけどよ。俺はちょっとうれしいぜ。夕べ,久しぶりに,作った物が,全部空っぽになったからな。しっぽがゆらゆら揺れちまう。へへへ
飯の時に今日の計画を確認する。
まず,ロートが,湯の出ているところまで海の中に道を作る。
それから,俺の出番だ。ヴァイスが,俺を湯の出ているところまで運ぶ。
湯の吹き出し口をきちんと作るためだぜ。
そしたら,湯の吹き出し口の周りを岩で囲む。
ロートが作った陸の上をお湯が溜まるように湯船にする。これも俺の仕事だな。
今日中にどこまで作れるか・・・
ロートが目を瞑って詠唱を始める。
詠唱のこと,ミャアコのやつ,始めの頃は,ぶつぶつにゃにいってんのとか言ってたな。今も分かっているんだかいないんだか・・・
ゴゴゴ・土や砂が集まってくるぜ。久しぶりに見たな。相変わらずすげえな。
しばらくしたら,ロートが詠唱をやめ,肩で息をしているのが見えた。
かなり魔力を使ったんだろうな。
なんだ?ミャアコ何聞いてんだ。
「ミャアコちゃん,魔力は使うと疲れるものなんだよ。」
ロートが説明している。
「あたし,蜥蜴型獣人と練習していても,あんまり疲れたことにゃいにゃ。」
俺は,ロートと黙って顔を見合わせる。そんなわけないぞ。
「これから道を作るよ。」
ロートが再び詠唱を始めた。
浅いと言っても5尋はある海だからな。なかなか大変そうだぜ。
とりあえず,昼飯を作るか。
「お昼の後は,ミャアコちゃん,やってみて。」
ロートの声がする。
魔力が回復するまで休まなきゃな。
「同じようにすればいいからね。
妙なことはしないでいいんだよ。」
おやおや・・・
昼飯を食った後,さあ仕事だと言ったら,
「眠いんだけどにゃあ。」
ときやがった。
「とりあえず,どれだけ出来るか見せてから寝てくれる?」
ロート、優しいぜ。
「毎日昼寝していたのかよ。」
俺は聞く。
「うん。」
まぁ・・・まだ小獣
「・・・何日くらいかかるのか,確認するために,だからね。ちょっとでいいよ。その後お昼寝していいよ。」
またまたロートのやつお優しいこって。
ミャアコが岩場の上に立つ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・
凄い音が響き渡る。岩が急に隆起してきた。
「わっ!!ミャアコ,何したんだよ!!!」
「ミャアコチャン,スゴイ」
そのままミャアコのやつは眠っちまった。
岩場がずっと向こうまで張り出して,温泉の上まで覆い尽くしているぜ。やばっ。
ロートがため息をついた。
「いつも昼寝していたってことは,本人は知らないかもしれないけど,魔力の回復のためなんだろうな。」
「全く脳天気なやつだぜ。」
「ここまで魔力が高いとは・・・・。おばあさんよりずっと高そうだ。」
それから,ロートは頭を振った。
「何とも言えない気分だな。
・・・・・うれしいんだが,うれしくない・・・悔しいとさえ感じるよ。」
俺は黙ってロートの顔を見た。
・・・・・
「俺も・・・うらやましいと思う・・・」
二人で顔を見合わせ,ため息をつく。
「こんな感情になるなんてな。相手は脳天気なミャアコだってのに。」
そう言ったら,ロートは笑い出した。
「そうだな。ミャアコちゃんだものな。
天狗になったりはしないだろう。」
「お得意の,にゃに?でおわりさ。」
「ヴァイス,ミャアコちゃんが落っこちたりしないように見ておいて。いや・・・日陰は・・・布をかぶせてやれば大丈夫だろう。頼んだよ。ヴァイス。」
二人で岩場の先まで行ってみる。
ロートがぐるぐる回って,
「ここだ。」
と言うから俺は遠慮なくぶっ放す。
ズガ~ン
水しぶきが上がる。
岩が辺りに散らばる。
・・・・・
いい加減疲れた頃,ヴァイスが飛んできた。
「おっ。ヴァイス。ミャアコが起きたのか?」
ちょうど疲れてきたところなので,戻ることにした。
先に着いて,ヴァイスから降りる。
それと一緒に,ヴァイスは小獣姿に戻った。
「おまえ,玄武岩をどうやってここに出したんだよ。」
聞きたいぜ。
「玄武岩ってにゃに?」
「この黒っぽい岩のことだよ。」
「分かんにゃい。」
「どうせ出すなら,真っ白な大理石にでもすれば,すごい立派な風呂になったのによ。」
思わず言っちまったぜ。大理石が何かも分かんねえんだろうな。きょとんとしてたぜ。
・・・・・ミャアコはミャアコだな。
ロートが,ミャアコに
「よくやったね。」
と言っているのが聞こえた。
ミャアコはぼ~っとしている。なんだあいつ。
「岩場だよ。僕がするより何倍も早く,あっという間に源泉まで岩場を広げるとはね。
分かっていたこととは言え,ちょっと妬んじゃうね。」
・・・・・やっぱりな。俺もそう感じたもんな。
「あたし・・・しちゃいけにゃかった?」
こっそり俺に聞いてくる。妬むって意味は分かんないいんだろうが,なんか変だと思ったんだな。・・・なんと答えたもんか・・・
その声が聞こえたのか,ロートが苦笑して,
「そんなことはないよ。ただちょっと,立ち直るのに時間がかかるだけさ。」
と言った。
まああれだけの力を見せつけられたら,確かに面白くねえ気持ちも湧くわな。
俺の力とは違う方向だから,あんまり強くは感じねえけど,ロートの力とかぶるところがあるみてえだから,うん。ロートも人間だったってことだな。
竈のところでさっきの返事をする。
「ロートはすぐ立ち直るさ。おまえはいつも通りにしていろよ。」
読んでくださっている方,ありがとうございます。
いわゆるチート?