32 温泉が出た 8
ーーーーズィルバー
「海の中だって?」
俺はロートに確認した。
俺がこのほっと・すぷりんぐ・にゃあにゃあの活動に加わってから,3年くらいたつけれど,海の中って言うのは初めてだ。
2年前,まだみやこばあさんが元気だった頃,初めて行った海辺のまちでは,海のそばの山で発見されたしな。
どうやって掘って,どうやって温泉の形にするんだ?
疑問はつきない。
二人して岩場から引き返す。
結構な距離があるので,作業するとなると,2~3日泊まりがけになりそうだ。
「ミャアコ達はどうするんだ?」
少し足早に歩きながら聞くと,
「連れて行くよ。二人の力が役に立つかもしれないだろ。」
と言う。
「食料なんかも買っておかなきゃいけないから ,ちょっと急いで帰ろうか。」
ロートはいっそう速度を上げる。やれやれ。
まちについて,二手に分かれて買い物をした。
俺の担当は食料だ。
ここに来るときは,毎日同じやつを出していたら,残って大変だった。全く。自分で作れってんだ。特に,ヴァイスのやつめ,夕飯だと言ったとたん,毎日逃げ出しやがって。
市場へ行くと,夏野菜がいろいろ出ていた。
緑色のグルケ,赤いつぶれやすいトマ,忘れちゃいけない・・カルトッフル。こいつはゆでて良し。偶に揚げたのも売っている。これもうまいけど,俺に料理しろってもちょっと無理だぜ。せいぜいシチューの実だな。後は,干し肉。ここらは魚を干した物も多いけど,魚は海で獲れるだろ・・
同じ味だと文句を言っていたな。ちっ。塩を買って。・・・いや。海の水を直接使ってみたらどうだろな。試してみるか。
・・・
え?おばちゃんそれほんと?試してみようかな。
耳より情報も聞けた。
干した果物や,堅くて日持ちのいいパンなど,買わなければいけない物は多い。
どっさり買ってから,リュックを忘れたことに気づいたぞ・・・やばい。
「配達ってやってる?おばちゃん。」
俺は,店のおばちゃんに声を掛けた。
「おばちゃん?」
「あ・・・おねえさん。」
魚型獣人のおばちゃんは丸い目をぎょろりと俺に向けた。
もちろん俺はおとなしく,お姉さんと言い直す。
「やだねえこの小獣は。
ははは・・うれしいねぇ。どこに配達するんだい?」
買い物で精力を使い果たした俺は,噴水の前でロートと合流した。
ロートは,ランプの油や,落とし紙,テントの補修用の糸やら布やらをたくさん買い込んだそうだ。ロートはさすがだ。ちゃんとリュックを用意していて,その中に全部入っていた。
「ズィルバー、リュックは?」
「分かっていて聞いてんだろ。忘れた。」
「配達かい?」
分かってんなら聞くなよ。
お互い買い忘れがないか確認した後,宿屋へ帰った。
そうそう。食器だの寝具だのをもう一組用意しなきゃな。多分ヴァイスはこれからテントで一緒に眠るだろうし,飯も一緒に食べる・・・かな。いや。食わせる!!
思わず無駄な力が入っちまう。
ロート,蜥蜴型獣人に伝言を飛ばしたようだな。しかし,いつ見ても面白いもんだぜ。
ロートは髪の毛を1本使って伝言鳥をを作り出すんだ。真っ赤な鳥は,静かに舞い上がり,空へ消えていく。しばらく経つと,今度は白い鳥が帰ってきた。伝言が伝わった証拠に赤い色が抜けて,白い色になっている。ミャアコが見たら喜ぶんだろうがな。
その夜,明日は一緒に行くぞと聞かされてミャアコとヴァイスは大喜びしていたぜ。
明日は早い出発だ。早く寝ようぜ。
次の日,宿屋のうまい朝飯を食べた後,岩場へ出発した。思ったより遅い時間になっちまってロートも俺も,少し焦り気味だ。
こんな時,ヴァイスが乗せてくれれば早いんだが・・・・
海に入ろうとして,ロートに止められてから,ちょっとふてくされたのか,ずっと小獣型のままだぜ。その上,なんだかヴァイスがやたら俺に絡んでくるんだが。
「なんだよ?え?おんぶ?だっこ?」
「ウンウン」
「俺はリュックを背負っているんだぜ。抱っこかよ。おまえそれより俺たちを背中に乗せないか?」
「ソンナキブンジャナイヨ」
「あぁあぁさようですか。はいはい。抱っこすればいいんだな?」
それにしても,いつも思うんだが,こいつの体重は,小獣型のときとりゅうのときで違うんだよな。不思議だぜ。まぁ,俺にりゅうを持ち上げろっつたって・・無理無理無理・・・体重が変化してありがたいぜ。
うん。軽い。
抱っこしながらヴァイスといろいろな話をしたぜ。
ミャアコと一緒の勉強,海のこと,話題はそんなに多くないはずなんだが。
ミャアコがなにやらいろいろやらかしたことはよく伝わってくるぜ。
え?
「ミャアコチャン,ジュモンデタラメ オオイ」
そりゃぁ大変じゃねえか。
覚えが悪い?
「ウン,ソレモ アルケド,ボクガ オモウニ,ミャアコチャンハ,ジュモン トナエルヨリ オモッタコトニ マリョク コメチャウ」
「無詠唱?」
「ボクノハ タブン ムエイショウ。ミャアコチャンノハ ムエイショウトモ チョッチガウ キガスル。」
ちょっとたどたどしいけどよ,ヴァイスが一生懸命伝えようとしてることは・・・
「キヲツケテ ヤラナイト ミャアコチャン ボウソウスル。ト ボクハ オモウ。」
うえ~そうきたか・・・
ただでさえ,思いがけねえことを言ったりしたりするやつだ。ますますよく見てやらなきゃなんねえな。
岩場について,ロートから説明を受ける。
取り合えず飯だ。
あの宿屋の飯はうめえよな。
海の向こうの泡立ちが温泉だと聞かされて,ミャアコは目を丸くしていたぜ。
あそこまで10尋(15M)いや,12~3尋(18~19,5M)ってとこかな。
よし。ヴァイス。
俺とミャアコは変化したヴァイスの背に乗った。
「・・・オモイ」
飛び立って上を2~3回ぐるぐる旋回した。おお。いい感じ。
あ。あそこが泡立ってるぜ。
え?おいおい
泡立っているところに,ヴァイスは俺達を乗せたまま「バッシャーン」一気に飛び込みやがった。
「「わっ」」
「ひでぇ!心の準備くらいさせろ!!」
「みぎゃ~」
ヴァイスの背中から転げ落ちてしまったぜ。
うわっミャアコが俺ににしがみついてきたっやべえ。溺れるぜ!!!
俺は焦って叫んだ。
「こらっミャアコっ!離せって!俺も溺れるだろう!!!」
「離しませんよ!!!離したら溺れるっ・・ぶくぶく・・・・」
すぐにヴァイスが海の底から上がってきたので,二人してヴァイスの上によじ登った。
やべぇこんなとこで溺れるのはお断りだぜ。
ヴァイスの背は,つるつる滑る。
泡立っているところはどこだ?
きょろきょろ探す。
不意に生暖かい水の中にいる。
「「え」」
「「あったか~い。」」
「ズィルバー,ミャアコチャン,コノシタ,イワ。イワノアイダカラオユデテル。」
ナイス。ヴァイス。
俺は思わず叫んだ。
「こらっ呼び捨てにすんな!!」
しつけは大事だぜ。
生暖かい湯の道をたどってヴァイスと一緒に潜っていく。
滑るぜヴァイスの背中。なんなんだよ。滑る・・必死にしがみつく・・・
うわっ
あちあちあっちっち!!!
これは!!ここの温泉熱すぎるぜ。煮えちまう。ヴァイス上がれ!!!
慌ててヴァイスにくっついたまま海面に。
「わぁ。驚いた。」
「すっげえ熱い。」
「塩気がある温泉だよ。えっとねぇ・・・
ナトリウム・カルシウム-塩化物泉・・鉱泉だって。鉱泉って何? 」
「知るか。俺に聞くな。」
「しらにゃい?」
俺をじろりと見る。くそっ
「神経痛とか婦人病。婦人病って何?」
「知らねえよ」
「え?知らにゃい?」
いちいち言うな。くそっ面白くねえ。
「・・・それからねぇ・・・皮膚病もOK。お腹を壊してるときもOK。美肌を作り,冷え性を治す・・・らしいよ。」
・・・・
「おまえ、それを覚えていてロートに言えるか?」
「みぎゃっ。そ・・・ズィルバーが覚えていてよねぇ。」
俺は思わずが渋い顔になった。こいつの記憶力やばくねえ?
「ダイジョウブ。ボクガオボエテイルヨ。」
おお。ヴァイス ナイス。
岩場に戻ってロートに報告することにして戻っていく。
「かなりの湯量のようだし,成分もばっちりのようだね。」
それからロートは何事か考え始めた。
始まったな。
俺達は夕飯作りだぜ。
ミャアコとヴァイスにはまず,海岸沿いに落ちている木を拾わせよう。
「乾いてる木を拾え。」
と言うと,
「はいはい。」
と言う返事が返ってきた。
俺が竈を作り終えた頃,二人が戻ってきた。
竈の脇に運んできた木を積み上げさせる。
さっき,俺が竈作りの合間に拾った,乾いた海藻を見て,
「これ食べるの?」
と聞いてくる。
「半分は食べるけどな。
残りの半分は,火を付けるときに使うつもりだ。」
ミャアコはしきりに感心している。
鍋の中には,ついさっきヴァイスが海に飛び込んで取ってきたでっかい魚を豪快にぶつ切りにして投入した。ヴァイス。使えるやつだぜ。
持ってきた野菜も,いつものように切って投入する。
「味は?いつもの塩?ねぇ,もっと違う物にゃいの?!」
うるせえな。
「うるせえこというと食わせねえぞ」
「・・ひどいよ。」
驚いたことに,今日のシチューはいつもよりすっげえ美味かった。。
ロートが,
「海藻を入れたから,味が良く出たんだな。」
と言っていたぜ。海藻は味がでるって食料品買うとき教えてもらったけど,ほんとだったんだな。いいこと聞いたぜ。