きっとこれは試練
数分、沈黙が続いた。
「そ、染め・・・・!?」
いや、いきなり大声出して悪いとは思う。なぜ、俺が大声を出したかというと数分前に遡る。
俺と萌海がビーストテイマーやら選ばれし者やらについて話し合い・・・いや、正しくは俺が質問して萌海が答えているだけなのだが・・・・・。そんな所に態度がかわいくねぇショタ少年が登場し、愛らしさを微塵も含まない目つきで睨んで来たのだ。そして王様気取りに腕組み足組みお誕生日席に偉そうに座てからの
『で、誰なのさ。その染めてる奴は』
とか言い放った。俺はしばらく誰のことかわからなかった。というか、わかっていたけど俺じゃないよな・・・と認めていなかったのだ。
これは重要な問題だ。この髪のせいで幼き日々に大変な目に・・・ってそこまで大変じゃないけど。とにかく、染めていないことを伝えなければ!
「染めてない!!自毛!自毛ッ!!」
俺はさっきよりも大きな声で言う・・・というか叫ぶ。立ち上がってショタ少年を睨みながら。
「何さ。その大事なことだから二回言いました、みたいな目。」
少年は動じない。・・・というか、よく見たらこいつ結構可愛い見た目を・・・。
肌は萌海に負けない白さ。しかし、常に少し桜色刺す萌海とは違って白さだけが目立っていて淡く病的な雰囲気を放っている。そして、これ以上ないほどに真っ白な髪。まとまっていてどこも乱れていない。しかも襟足がうなじにかかるぐらいの長さで、前髪は真ん中できっぱり左右で分けていて少しだけ横に流している。睨む俺に対抗するようにこちらに向けられた細長い黄橡のつり目。肌・髪・目だけを見れば大人だ。しかし、ショタ感があるのは・・・鼻と口と輪郭!!つまり、顔の目以外!!小さい鼻、絵文字とかでよく使われるωの形の口をへの字にしている、丸っぽい輪郭!身長もさっき見た限りでは、多分155cmぐらいだろう。つまり・・・172.0cmの俺より大体十五センチ低い。女子校生の中でも小柄な萌海でも160cmはある。なるほど、上着が大きいからショタ度が急上昇してるか。腕のところは縫うなりしているのかぴったりだが、それ以外のところはかなりダボダボ。モス校は派手でなければ上着は自由だ。このショタ少年は紺色のダッフルコートを来ていて、前はボタンを一つもしめずに開けている。そこから直に制服が見える。セーターを着ないとはショタとして惜しい。ちなみに、萌海は上着を着ずに紅梅色のセーターカーディガンを着ている。
「・・・紫恩、気持ち悪い。」
こ、こやつ・・・・いきなりなんて失礼なことを!!
「萌海、もしかしてお前読心術が・・・・・っ!?」
「あるわけないでしょ・・・・全部、声に出てた・・・。」
なっ・・・!?気づかなかった。これから何か考えるときは・・・・お、なんかショタ少年が話し始めた。
「というかさ、君が染めてるか染めてないかなんてどうでもいいんだけど。さっさと誰なのか自己紹介してくれないかな?僕、人と話すの嫌いだからさ。」
「どうでもよくない!!俺にとっては深刻な問題!」
『名乗って欲しければお前が先に名乗れ』と伝えるべく再び少年を睨む。
「・・・氷野 紫恩。」
萌海が口を開いた。何を口走ってる!こっちは敵意をぶつけていたのに!!少年が目を見開き萌海を見た。そのあと、怪しげにニヤリと笑い俺の方を向き直し睨んできた。
「氷野ってことは弟か。やぁ、し・お・ん・く・ん」
イラッ。やばい殴りたい、何この満面の笑み。
「あ?なんだ~?ショタ少年く~ん」
俺も怒りを含めた笑顔で対抗する。
「・・・・・・・二人とも、いい加減にしないと氷漬けにするよ・・・?」
そこにガチ怒りモードの萌海。
「それは困るな。僕はそいつとは違って髪の毛毎日セットしてるわけだしさ」
セットしてるからこんなまとまってるわけね、は~あ。・・・・・やばい、殴りたい。
「僕は笹山 勇乃。ショタとかほざいてたから今すぐにでも痛い目に合わせてやりたいけど、萌海に氷漬けにされたくないしさ。ここに連れて来るってことは選ばれし者とかそのあたりなわけでしょ?百歩譲って『笹山様』呼びで許してやるよ」
そうだ。怒りで忘れていたけど、ここに来た目的は選ばれし者やらビーストテイマーやらについて聞くためだ。
「様はやだ。勇乃な、勇乃!よろしくな勇乃」
「そんなに軽々しく名前を呼ばないでくれる?あとよろしくはしない」
ムカっときて言い返そうとしたが、萌海から冷たい視線と凍えてしまいそうなほどの冷気が漂ってきたので諦める。
そのあと説明をしてもらった。二人の話をまとめると、この世界には『表世界ピース』と『裏世界アストラル』があるらしい。平和なピースは英語のpeaceに由来、アストラルはアストラル投射に由来して。まぁ、結局どちらも英語由来だが。ピースは俺らが生きてる世界で、アストラルには伝説上の生物達とそれが造り出した生命がいる。ピースの世界の者からアストラル者の姿は見ることはできない。アストラル自体も見ることはできない。だが、選ばれし者・協力者になれば見れるらしい。ここからはアストラルの話だ。
アストラルには皆をまとめる一人の女神様がいた。しかし、長い月日が経ち老いた女神様はある日突然死んでしまう。アストラルの皆は悲しんだ。皆はとても女神を愛していたからだ。女神様が死んだあと、遺体をどこに葬るかでアストラルは二つに分かれた。女神様はアストラルの北にある最も自然豊かな美しい『聖なる森』と南にある常に夜空・オーロラ・空気の澄んだ『夢の天空』の二つを好いて、交互に訪れていた。遺体は、生前すいていた場所に葬るが一番と思われた。そこで問題が起きた。二つはアストラルの北と南。どちらに葬るかの問題だ。そこでアストラル全体の意見はきっぱり、丁度二つに分かれた。何度も話し合いが行われたが、全く決まらなくてついに女神様の遺体は腐敗し粉々になり消えてしまった。皆女神様を愛していたがゆえ、悲しんだ。そして『向こうが折れなかったからだ』、と対立し争うようになってしまった。それからアストラルは北と南に分けられた。しかしアストラルの住民は女神様の愛したこの世界で戦ってはいけないと、ピースで戦うようになった。ピースで戦えば、元はアストラルの生命なのでそこで何をしてもピースの世界にダメージはない。
・・・まぁ、その戦力として協力者ができた、というわけで。選ばれし者は、自分で協力者になるかどうかを決めれる。協力者になればアストラルに一時的に行く方法や、人間の粋を超えた能力・・・アストラルモードを得ることができる。つまり、テスト中にわからないところがあればアストラルに事前に準備した教科書を見たり、能力を少しだけ開放して超人技を繰り出したりできるのだ。その見返りが戦うこと。伝説の生物たちは自分たちでは戦わない。戦うのは協力者とモンスターたちだ。勇乃と萌海は聖なる森派の協力者で、勇乃はペガサス、萌海はマーメイドらしい。
静まり返った美術室じみた部屋に夕焼けチャイムが静かに流れ込んでくる。エアコンの暖房機能によって温められた部屋の空気と流れる時間が、僅かに淀んだ気がした。そのあと俺は萌海にもう遅いから帰ろう、と半強制的に一緒に帰らされた。まだ知りたいことはあったが、家に帰ったあとは何回部屋を訪れて聞いてみても『今日はもうしゃべる力がない』と部屋を追い出されるだけで、結局今日はこれ以上は知れなかった。あー・・・明日から冬休みなのに掃除当番で学校行かなきゃじゃん。
「ふぁあ・・・眠・・・・・」
いつもどおり萌海に起こされた俺は、制服の学ランに着替えて学校に向かった。めんどーだなー、と呟きつつ一通り掃除を終わらせる。あとひとつだけ、ゴミ箱の中身をゴミ捨て場に捨てていくだけで終わり。リュックを片腕にかけて、ゴミ箱を両手で持つ。
「誰か代わりやってくれないかな~」
ゴミ捨て場までの最短ルート、体育館の裏を通っていると少女の叫び声じみた声が聞こえた。
「きゃあぁ!そこの人、避けてくださいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~い!」
何事~?と思い後ろを振り返ると、鮫。
「・・・・・・・・・・はぁああああああああああああああああああ!?」
恐怖というよりは、驚きの方が大きかった。鮫?なんで学校に!?しかもあれ結構でかいし浮いてるじゃん!!鮫がとてつもないスピードでこちらに来る。途端頭に圧迫感と大きくて鋭利なものが刺さる痛み。俺は混乱して反応ができなかった、というよりは鮫が速すぎて行動できなかった。
〈少女side〉
ボクは協力者として人間として、とっても弱いんです。だから、毎日学校の体育館の裏でアストラルから夢の天空派のモンスターをおびき寄せて戦うんです。なぜ体育館の裏?いやだって、ここにいる時が一番平和で落ち着くんです!というわけで、今日もおびき寄せて日課をしていたんです。そしたら、今日のモンスターさんはとっても強かったんです!いや、普通の協力者だったら普通の強さなんですけど、ボクは弱いもので・・・あはは。というわけで逃げ回っていたら、急に鮫さんがボクを追いかけるのをやめておかしな方向に行ってしまいました。おびき寄せたのに逃がすのは後々お兄ちゃんとか氷野先輩に迷惑がかかるので、怖いけど追いかけます!ボク、勇敢!逃げるのに精一杯で溶けてしまったアストラルモード・鎌鼬・・・つまり能力を完全開放して、鮫さんを追いかけます。
「アストラルモード・鎌鼬っ!」
そう唱えればボクの体を一瞬つむじ風が包み込んで、ボクには髪の毛と同じ黄橡色の鼬さん耳と鼬さん尻尾がはえます。それから、全ての指に10cmくらいの長い尖った爪。10cmですよ?十五個並べたら僕と同じですよ!?
「誰か代わりやってくれないかな~」
独り言にしては大きめの、落ち着いたテノールの声が聞こえて・・・って・・・・・・ひ、人ぉ!?アストラル・モードして良かったです!見られたら変な人だと思われちゃいますから!!アストラルモードは伝説の生物から与えられた能力を完全開放することによって、一時的にアストラルの住民・協力者に対抗する力を得ます。その間はアストラルの住民(伝説の生物)の代行人なわけですから、アストラルの代行人さん=代行中はアストラルの人。普通の人にアストラル、モンスターさんが見えないのと同じで、アストラルモード中はアストラルに関係している人間とアストラルの住民さんにしか見えません。ちなみにそれと同じような原理で、アストラル住民さんはただのピース住民さんには反応しません。まぁ、珍しく体育館裏に人がいますが気にしなくてい・・・いや、あの人アストラルの力が体に染み込んで・・・・選ばれし者・協力者ですか!?うわああああああああ!ダメダメ!このままじゃダメです!
「きゃあぁ!そこの人、避けてくださいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~い!」
そのあと、少年が叫び声をあげたのと同時に、鮫さんが少年の頭にかぶりつきました。
「は、早くアストラルモードをっ!」
少年が地面に仰向けになりがらも鮫に抵抗しています!早く助けないと・・・でも何もできないじゃないですか、ボク!!あの少年くん、もしや協力者じゃなくて選ばれし者!?
〈萌海side〉
・・・高校も、明日から冬休み。今日は終業式だけで、直ぐに終わった。まだ、十時過ぎ。昨日は大変だった。・・・・私は勇乃と作戦会議を電話でしなきゃいけないのに、紫恩が何回も部屋に来たから。何の作戦会議かっていうと、それは・・・・・・。
「・・・僕はあいつが心配できたわけじゃないからな。あの紫恩バカが僕のことショタ呼ばわりしたから、その罰にあいつの初アストラルモード後の間抜け面拝みに来ただけなんだからな。」
そう、紫恩の初アストラルモードこと。紫恩の話からすれば、名前を二文字聞き取れたらしい。伝説の生物の名前は、・・・・初めてのアストラルモードの前に初めて聞き取れるもの。なのに、もう二文字も聞き取れてしまったらしい。全部で何文字かは知らないけれど、少し聞き取れてしまった時点でアストラルモードが近いことを示している。アストラルモードが近いということは、協力者になる日が近いということ。・・・運命的に。
「・・・・・・・・わかった。」
勇乃と私はお互い無口という共通点から、よく協力し合っている。勇乃は話すのが嫌いで、私は話すのが苦手。聖なる森派の協力者だから、ということもあるけどそれだけでは勇乃は協力してくれない。現に、勇乃は双子の妹の結友音に一切協力しない。
「あのバカが夢の天空派だったら、即コロスからさ。覚悟しておいてね」
「・・・それは、私も同じ。」
敵だったら、ころさないといない。・・・・・・・・・私は協力者だから、しょうがないこと。あ、紫恩が学校から出てきた。私は息を飲んだ。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・体育館裏!」」
勇乃と同時に同じことを言ってしまったが、それどころじゃない。勇乃曰くただのポンコツトラブルメーカーの結友音は、いつもここで夢の天空派と戦っている。やっぱり今日も・・・・。
「きゃあぁ!そこの人、避けてくださいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~い!」
・・・思ったとおり勇乃と同じ色の肌、同じ黄橡色の目、目と同じ色の髪の少女・・・・・と、鮫みたいなモンスター。私と勇乃は、それを屋上から見ている。なぜ応戦にいかないのか?それは、私たちの目的が紫恩の初アストラルモードの対応だから。初アストラルモードは、初めてなだけ力がうまく制御できない。だから、そのせいで力がモンスター以外に届きかねない。壊れた壁などは、簡単に直せるが生命をあるものは治せない。だから、生命あるものに力が向かいそうになった時に同じ威力の力をぶつけて相殺し、傷つけないためにいる。私たちは目的を果たすためにここにいる。だから、地上で繰り広げられる、血飛沫舞う残酷で一方的な暴力・攻撃をただ見るしかなかった。
〈紫恩side〉
俺は今、昨日夢で見たのと同じ場所にいた。
「やぁ、ピースの体の体調はどうだい?・・・・なんて、聞くまでもないか」
無邪気な少年の声。
「説明はもう君のお義姉さんたちに聞いたんでしょう?」
「・・・あぁ。」
こんな時に何のん気に話してんだ俺は・・・・・っ!!さっきまで鮫に食われていた。しかし、意識が飛びそうになったところで、急にこっちの世界に来ていたのだ。多分、ここは裏世界アストラルとかいうところのどこかなのだろう。
「で、何か用か?」
少年のクスス・・・という笑いが聞こえた。
「ねぇ、君の姿借りていい?ここでしか使わないからさ。早く話しして欲しいなら承諾してほしいな!」
・・・・姿を借りる?まぁ、いい。今はとりあえず従おう。
「あぁ。何のことかわからないが好きにしろ」
内心俺はイラついていた。こっちは命の危機なんだ、早くして欲しい。
「じゃあお言葉に甘えて・・・」
ボフンッ!と音がして現れたのは、幽霊みたいに宙に浮いた小三~小四ぐらいの時の俺の姿。
「えへへ・・・ドラゴ・・・じゃなくて本当の姿で出ると驚かれちゃうからさ。改めて・・・よろしく」
浮いてるがために、上から差し出された手を受け取って握手する。
「こ、こちらこそ、よろしく・・・・?」
あ、今思えばこいつの声って変声期前の俺の声じゃね・・・?
「で、単刀直入に聞いちゃうよ?」
俺が答えようとした時、間髪を入れずに幼少期の俺の姿をしたやつは言い放った。
「協力者になっちゃわない?」
´ω`)ノ こんにちは
えーまず一つ愚痴らせてください。
せっかく6000字かいたのに間違えてページ移動しちゃって1000字になるとかmjついてねぇ・・・・・!!・・・という話です。
いやそのあと頑張って書き直して6000字にしましたよ?辛いですorz
そして今回もまさかのバトルシーンなし・・・・次はあります!バトルシーン!!だから見捨てないでください(ジャンピング土下座)