1:少女へ向けられた銃口
激鉄を起こす音と殺気を出すタイミングが同化した射撃を私は今、初めて目にした。
発射後、遅れて音が耳に届く。別段、私が打たれたわけでもない。思考が遅れていた。
こんな射撃を見るのは初めてだったが、それ以上に驚くべきことがあったから私は思考が停止していたといっていい。なんせ、射撃した張本人は遂数時間前まで銃など撃ったこともなさそうな少年だったから。
その少年が今、純粋な殺意を纏っている。
機械的に引き金を引くわけでもなく、復讐者のような憎しみに満ちているわけでもない。
少年はレンズ越しに自分が見た相手へ、一瞬で殺意を抱き、狙って撃っている。
まさにプロ殺し屋。
会ったことはないが、多分、殺しのプロはこうやってあかの他人を殺しているんだろう。
怖い。
もし、自分にその銃口が向いたとき、彼は私を何のためらいもなく撃つのだろうか。
いや、確実にこの少年は私を撃つ。
眉間に風穴を開けられるに決まってる。その恐怖は私を私でなくさせた。
右足に取り付けたホルスターからオートマチックの銃を抜き、ちょうど少年の死角に当たる後方に回り込んでから頭上に銃口を向けた。
すると・・
「何の真似ですか、ベスターシックスさん?」
少年は鋭く言った。殺意も混じっていた気がする。
「怖いんです。あなたという人が・・」
「怖い?何を馬鹿なことを言ってるです。あんたは僕を弱小者とか、軟弱者と罵っていたでしょうに。それなのに僕を殺そうって?可笑しな思考ですねー」
「それは撃つ前のあなたでしょう。撃った後のあなたはあなたじゃない。まるで殺し屋だ」
「だから、僕を殺す、ということでうね・・・・」
「いいぜ。撃てるもんなら撃ちな、ベスターシックス。俺はあんたが撃てるとは思えない」
「いいでしょう。撃てないとお思いなら何の抵抗もせずにただ撃たれてもらうだけです!」
激鉄を起こし、2秒の迷い後、即座に発砲した。
迷いはあれども、恐怖が勝った。それほど、少年の腹の底は見えない。
そして、見たくはなかった。
数時間前までの少年は今とは異なり過ぎている。
倒れた老婆に駆け寄り、助けていた少年とはもう違うのだ。
「一発で満足かい?」
「なっ!?」
刹那、銃が手元から弾けると同時に、少年の持つスナイパーライフルの銃口が私の首筋に立てられる。
「動かないほうが賢明ですよ、ベスターシックス」
突き刺さるようなライフルの銃口。しかし、その先に見えたものは衝撃だった。
少年の顔の右側が黒く染まっており、僅かに光沢も見て取れた。
―――この症状・・・、私はこの症状を知っている。
偶然だった。たった三日前に総務次長から聞いた話では、これは硬化。
皮膚表面を黒く硬化してダイヤモンドよりも硬い硬質へと転換する欧化十三家の奥義に匹敵するスキル。
―――これで、私の放った弾丸から身を守ったというわけね。
自然と、笑みをこぼしていたことも知らずに私は言った。
「どうやって弾丸を回避したかは愚問ね」
「ふーん、お姉さんは僕のこれを知っているのかー珍しいね。これを知っているのは今は政府機関の一部と西欧の一部区域と俺達を狩るハンターぐらいなんだけど、お姉さんは一体どれなのかなー?」
「さー、どうかしらね・・・」
そう答えた途端、引き金に指が掛かり、不敵な笑みも消えた。
「真面目に質問してるんだよー。返答によってはこのままお姉さんを撃たなきゃいけないから」
意を決して、銃口を掴み
「ハンターと言っておくわ」
直後、銃声が鳴り響く。