初鍋
同棲中の2人。始めての冬。始めての鍋。
互いに食材を買ってこようと楽しみにしていたイベントは口喧嘩から始まった。
「なにこれ」とユウキが、アカリの買って来た食材を見て言った。
「餃子とウインナーよ。知らない?」と応える。
「なによ。これ」とアカリが、テーブル中央の、湯の張られた鍋の中にある昆布を指さす。
「昆布だよ。出汁を知らないの?」
アカリは、むっ。とした顔をしてユウキの対面に座った。テーブルには切られた野菜とお豆腐、切り身の鱈などが用意してあった。
アカリは「ユウキってベジタリアンか何か?お肉がないじゃない」と言いながら、切られた野菜を掴み鍋に入れた。
「鱈があるじゃないか。魚と肉を一緒くたにしたら味が濁るだろ?」とユウキ。
2人の怒りと、テーブルの鍋がグツグツ煮えだす。
始めての鍋は、互いにそっぽを向きながら始まった。
「わざわざ出汁をとらなくても、鍋の味なんておんなじでしょ。男の癖にユウキは細かいのよ」
「水菜はシャキシャキが美味いのに勝手に最初に入れるからクタクタじゃないか。ほら、餃子なんか入れるから水菜と絡まって大変な事になってる。ガサツな女だな。アカリは」
ぱくっ。
「美味しい。出汁が入ってると、味がグレードアップして食べ飽きないね。深い味がする」
「美味いね。餃子のこってりを水菜のさっぱりした味が中和してる」
「ごめんなさい」
「ごめんな」
「ビール飲む?」
「ウインナー足そうか?」
くつくつと煮える鍋の音が、仲直りした2人を笑っているように聞こえた。




