「ごめんね?」
あの日は噎せ返るような暑い暑い夏の日の朝だった。
「お姉ちゃん、あたしも魔法少女になれるかな?ホワイトちゃんみたいにパレードで手を振って、グリーンちゃんみたいにしゅばばばーって敵を倒していくの!」
私と五つ離れた妹はまだ小学二年生だった。
テレビで見る魔法少女の活躍に目を輝かせ、魔法少女になる夢を毎日のように語っていた。
この時はまだ、魔法少女になれる人は限られていた。今のように国が運営する『魔法少女採用試験』というものは存在していなかった。
「魔法少女になったらお姉ちゃんのこと助けてあげる!だから、お姉ちゃんは無理しちゃだめだよ?」
それと、妹は私の持病に気を使ってくれていた。
走ることも外で遊ぶこともできなかった私に、毎日病院に来て、魔法少女のことについて楽しそうに話してくれてた。私が小学六年生になってやっと学校に行けるようになると、妹は私の手を引っ張って連れて行ってくれた。
「うん、そうだね」
「あーあー、もう学校に着いちゃったぁ。お姉ちゃんともっとお話したかったのにー」
「家に帰ったら、また聞かせてね」
………一秒でも遅く学校に着いていたら、未来は変わってたのかな。妹は死ななくて済んだんじゃないかな。
「またね、お姉ちゃん!」
学校の校門をくぐっていく妹をもう少しだけ引き止められたら良かったのに。
「怪物が来た!」
「チッ。魔法少女はまだ来ないのか!?」
「誰か助けて!」
小学校に背を向けた瞬間に、雨のように降り注いだ言葉が今でも耳に残って消えない。
「ひ、ひとがっ、子どもたちがっ」
妹の通う小学校に現れた怪物は、子供を喰い殺す化物だった。見た目は人型に近く、手にみえる部位で子供を掴んで口の中に放り込んでいた。
それはまるで、人間が何も考えずに菓子を食うようだった。
「……!」
自分の目を信じたくなかった。
「早く逃げろ!」
「あっ魔法少女だ!」
「助けに来てくれたんだ!」
_妹は喰われた。
「みんなおまたせ!永遠に17歳ピチピチ魔法少女のホワイトちゃんが助けに来たよ!」
脳天気なその声に私は希望を見い出せなかった。
_だが、周囲の人間は地獄の空間に現れた光の存在のような魔法少女に『助かった』と安堵した。
「3・2・1!そーれっ!」
魔法少女がステッキを振る。
妹を喰った怪物は消えた。
「ありがとう、ホワイトちゃん」
「かっこいいー!」
妹は、死んだ。死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ。
「魔法少女に、…魔法少女に殺された_!」




