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第25話:施しと、埋まらない溝

目の前で、かつての仲間たちが、無様に崩れ落ちていく。

 特に、ゴードンは危険な状態だった。脇腹の傷は深く、このまま放置すれば、失血で間違いなく死ぬだろう。

 俺の隣で、シルフィたちが戸惑いの表情を浮かべていた。彼らは、俺がこの状況をどう収めるのか、固唾を飲んで見守っている。


「……シルフィ」

 俺が声をかけると、彼女は「なに?」と緊張した面持ちで答えた。

「薬草を取ってきてくれないか。一番、効き目のいいやつを。それから、ネルは清潔な布と、お湯を。ミオは、ザーグと一緒に、彼らが休める簡単な寝床を、少し離れた場所に作ってやってくれ」

「え……?」

 俺の言葉に、三人の少女は驚いた顔をした。

「……助けるの?」

 シルフィが、代表するように尋ねる。その声には、わずかな不満と、納得のいかない響きが混じっていた。

「うん。死なれるのは、さすがに寝覚めが悪い」

 俺は、できるだけ軽く、そう言った。

「それに、俺はここの生活が気に入ってる。俺の家の前で、勇者様一行が野垂れ死んでました、なんてことになったら、後々、面倒くさいことになるのは目に見えてるだろ?」


 俺の言葉は、半分が本心で、半分は彼女たちを納得させるための言い訳だった。

 俺が彼らに同情しているわけではない。だが、彼らが俺にしたことと、彼らが今、目の前で死にかけていることは、別の問題だった。

 俺の仲間たちは、俺のその真意を汲み取ってくれたのか、何も言わずに、それぞれの役割を果たすために、素早く動き始めた。


 俺は、一人、崩れ落ちた勇者パーティーの元へと歩み寄る。

 唯一、まだ意識を保っていたアレクが、俺を睨みつけた。その瞳には、屈辱と、そして、助けを乞わなければならない自分自身への、激しい怒りが渦巻いていた。

「……何の、つもりだ。施しの、つもりか……?」

「そうだよ」

 俺は、あっさりと認めた。

「あんたたちが、俺にしたことを考えれば、ここで見殺しにしても、誰も俺を責めないだろうな。でも、俺は、あんたたちみたいに、後味の悪いことはしたくない。……ただ、それだけだ」

「……ッ!」

 俺の言葉に、アレクは唇を噛み締め、何も言えなくなった。

. . . . . . . . . . . . . . . . . . .

. . . . . . . . . . . . . . . . . . .

 すぐに、シルフィたちが戻ってきた。

 彼女たちの手際の良さは、さすがだった。シルフィが持ってきた薬草は、王都の宮廷薬師ですら滅多にお目にかかれない、伝説級の治癒草。ネルが持ってきた布は、どんな傷も清浄に保つ魔法の繊維で織られており、お湯は、完璧な温度に保たれている。

 俺は、それらを受け取ると、まず、意識のないゴードンの元へ向かった。


「……ソフィア」

 俺は、彼の隣で泣きじゃくっているだけの聖女に、声をかけた。

「……ひっく……ユウキ、さん……ごめんなさい、ごめんなさい……!」

「謝罪は、後で聞く。あんた、聖女なんだろ? 仕事の時間だ」

 俺は、薬草を彼女の手に押し付けた。

「俺には、治療の知識はない。あんたが、やるんだ。この薬草を使えば、あんたの聖魔法の力も、少しはましになるはずだ」

 ソフィアは、俺の言葉と、手の中にある薬草の、尋常ならざる生命力に、はっとした顔で顔を上げた。そして、涙を拭い、聖女としての、か細いが、しかし凛とした表情を取り戻した。

「……はい!」

 彼女は、ゴードンの傷口に手をかざし、祈りを捧げ始める。薬草の力も相まって、傷口は、目に見えて塞がっていった。


 次に、俺は、魔力を使い果たしてぐったりしているリナの元へ行き、ネルが作った栄養満点の携帯食と、ミオが見つけてきた泉の水を差し出した。

「……」

 リナは、無言でそれを受け取り、ゆっくりと口に運ぶ。その一口で、彼女の目に、わずかに生気が戻った。


 そして、最後に、アレク。

 彼には、俺たちの拠点で作った、一番硬くて、味のない黒パンを、ひとかけら、投げてやった。

「……なんだ、これは」

「食料だ。ありがたく食えよ。今のあんたたちには、それくらいが、ちょうどいい」

「……貴様……!」

 アレクは、屈辱に顔を歪ませながらも、震える手でそのパンを拾い、飢えには抗えず、かじりついた。

. . . . . . . . . . . . . . . . . . .

 その日の夜。

 勇者パーティーは、俺たちが急ごしらえで作った、ログハウスから少し離れた場所にある、簡素な東屋で、眠りについた。

 俺たちの拠点に、彼らを入れることは、絶対にしない。それは、俺の新しい家族を守るための、絶対的な一線だった。


 ログハウスの暖炉の前で、俺は、仲間たちと、静かな時間を過ごしていた。

「……ユウキは、優しいのね」

 シルフィが、ぽつりと呟いた。

「まさか。ただの、自己満足だよ」

 俺は、そう言って、肩をすくめた。

 彼らを助けたことで、俺の心の中にあった、過去へのわだかまりが、少しだけ、軽くなったような気がした。

 だが、同時に、はっきりと理解した。

 俺たちと、彼らとの間に横たわる溝は、あまりにも深く、決して埋まることはないのだ、と。


'彼らが回復したら、すぐに、ここから出て行ってもらう。

 それが、お互いにとって、最良の選択だ。

 俺は、揺れる炎を見つめながら、そう、心に決めた。

 この楽園に、彼らの居場所は、もう、ないのだから。

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