第24話:再会、そして残酷な現実
音楽会が終わり、俺たちの楽園に、いつもの穏やかな時間が流れていた。
その、あまりにも突然で、唐突な形で、彼らは現れた。
森の木々が途切れた境界線に、亡霊のように立ち尽くす、四つの人影。
服は裂け、鎧は泥と血にまみれ、その顔は、疲労と絶望、そして、信じられないものを見たという驚愕によって、抜け殻のようだった。
だが、俺は、その顔に見覚えがあった。
忘れるはずもなかった。
勇者アレク。賢者リナ。聖騎士団長ゴードン。そして、聖女ソフィア。
俺を「無能」と罵り、パーティーから追放した、かつての仲間たちだった。
時が、止まった。
俺の隣で、シルフィが息をのむ。ネルは、さっと俺の後ろに隠れ、ミオは警戒して「フーッ」と猫のように喉を鳴らした。クロは、かつてないほどの低い唸り声を上げ、その巨体は、いつでも飛びかかれるように、低く沈んでいる。
リリとザーグだけが、状況を理解できず、怪訝な顔で侵入者たちを見ていた。
あまりにも残酷な対比だった。
光に満ちた楽園で、清潔な服を着て、健康的な笑顔を浮かべる俺たち。
地の底から這い上がってきたかのように、薄汚く、満身創痍の彼ら。
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沈黙を破ったのは、俺の、気の抜けた一言だった。
「……やあ。久しぶり。あんたたち、一体どうしたんだよ、その格好。ひどい有様だな」
怒りも、憎しみも、驚きもなかった。ただ、旧友(と呼ぶには、色々ありすぎたが)の、あまりの落ちぶれっぷりに対する、純粋な感想だった。
その、あまりに平然とした俺の態度が、彼らの最後の理性を揺さぶったようだった。
「ユ、ユウキ……!?」
ゴードンが、震える指で俺を指差す。
「な、何なんだ、これは……!? この場所は……この女たちは……! それに、なぜ、あの魔獣が、お前に……!」
彼の声は、怒りというより、理解不能な現実を前にした、子供のような混乱に満ちていた。
アレクも、リナも、ソフィアも、ただ呆然と立ち尽くしている。彼らの目に映っているのは、自分たちが捨てた「ガラクタ」が、いつの間にか、自分たちの知らない場所で、王侯貴族ですら手に入れられない至宝に囲まれて、幸せに暮らしているという、悪夢のような光景だった。
やがて、アレクが、はっと我に返った。
彼は、よろめきながら、一歩、前に進み出た。その瞳には、焦燥と、屈辱と、そして、最後の希望にしがみつくような、必死の色が浮かんでいた。
「……ユウキ」
かすれた声で、彼は言った。
「我々が……間違っていた」
その言葉は、彼にとって、どれほどのプライドを捨て去る、苦渋の決断だっただろうか。
だが、その言葉に、謝罪の響きはなかった。
「魔王討伐の旅は、困難を極めている。……君の力が必要だ。我々には、君の、そのスキルがなければ……!」
やはり、そうだ。彼らが欲しいのは、「俺」ではない。「俺の便利なスキル」だけだ。
「パーティーに戻ってこい。今度こそ、君を正当に評価する。相応の地位と、報酬を約束しよう。これは、個人的な感情の問題ではない。世界を救うためだ!」
彼は、独りよがりな「大義名分」を振りかざす。
俺は、ただ黙って、その空虚な言葉を聞いていた。
俺が口を開くより先に、俺の仲間たちが、俺の前に進み出た。
「待ちなさい」
冷たく、凛としたシルフィの声が響く。
「あなたたちが、ユウキを追放した人たちね。話は聞きました。自分たちの都合で彼を追い出し、今度は、自分たちの都合で、彼を連れ戻しに来たと? ……虫が良すぎるんじゃないかしら」
「ユウキの、居場所は……ここ。あんたたちとは、違う」
ネルが、俺の後ろから、しかしはっきりとした口調で言う。
「そうだそうだ! ユウキをいじめた奴らは、帰れー!」
ミオが、牙を剥き出しにして威嚇する。
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俺の新しい家族が、俺を守ろうとしてくれている。
その事実が、たまらなく、温かかった。
俺は、仲間たちの肩にそっと手を置き、アレクに向き直った。そして、できるだけ、穏やかな声で、告げた。
「悪いな、アレク。見ての通り、俺はここで、結構、忙しいんだ」
俺は、楽園全体を、親指で指し示してみせる。
「それに、正直言って、今の生活が、最高に気に入ってる。毎日怒鳴られたり、命の危険を感じたりする生活に、戻る気は、ないかな」
その、あまりにもあっさりとした、そして、微塵の未練も感じさせない拒絶の言葉が、彼らの最後の希望を、粉々に打ち砕いたようだった。
「なっ……何を、言っているんだ、貴様は……!」
アレクの顔が、絶望に歪む。
「世界の危機だぞ! 魔王が、世界を……! 貴様の個人的な感情など、些細なことだろうが!」
「俺にとっては、あんたたちが言う世界の危機より、ここの皆と、明日の夕食に何を食べるか相談する方が、ずっと重要なんだ」
「ふざけるなあああああ!!」
アレクが、ついに理性を失い、聖剣に手をかけようとした、その時だった。
ガクッ。
「……ぐ……ぁ……」
限界を超えていたゴードンの身体が、ついに崩れ落ちる。脇腹の傷が開き、どくどくと血が流れ出していた。
「ゴードンさん!」
ソフィアの悲鳴が響く。彼女もまた、泣き崩れ、その場にへたり込んでしまった。リナも、立っているのがやっとという様子で、顔面は蒼白だった。
彼らは、もう、限界だった。
目の前で、かつての仲間が、死にかけている。
俺の心の中に、喜びも、満足感も、なかった。
ただ、深い、深いため息が、胸の奥から込み上げてくるだけだった。
「……はぁ。本当に、あんたたちは、最後の最後まで、面倒くさい奴らだな」
俺は、頭をガシガシと掻きながら、天を仰いだ。
断罪は、終わった。
だが、目の前には、見捨てるには、あまりにも無様で、哀れな、かつての仲間たちの姿があった。
俺のスローライフに、またしても、最大の厄介事が、転がり込んできた瞬間だった。




