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第10話:賑やかな日常と猫の探検隊

猫人の少女ミオが仲間になってから、俺たちの拠点は一言で言って、非常に賑やかになった。

 それまでの日常が「静かで穏やかなスローライフ」だったとすれば、今の日常は「ドタバタで騒がしいけど、やっぱり楽しいスローライフ」といったところか。

 その変化の中心にいるのは、もちろんミオだ。


「ユウキー! 見て見て! あんな高いところまで登れた!」

 朝、俺がのんびりと『辺境テレビ』を見ていると、窓の外からミオの元気な声が聞こえてくる。見上げれば、ログハウスの屋根よりも高い木のてっぺんで、彼女が小さな体を揺らしながら尻尾をぶんぶんと振っていた。猫譲りの、驚異的なバランス感覚だ。


「おーい、危ないから気をつけろよー」

「へーきへーき!」


 完全に回復したミオは、有り余る元気を爆発させるかのように、毎日森の中を駆け回っていた。その好奇心は底なしで、シルフィを質問攻めにしたり、ネルの工房を興味津々に覗き込んでは、槌の音にびくっと耳を跳ねさせたりしている。

 シルフィは、そんなミオをまるで妹のように優しく見守り、森の知識を教えてやっていた。人見知りのネルも、最初はミオの遠慮のない距離感にタジタジだったが、裏表のない素直な懐き方に、少しずつ心を開いているようだった。


 ただ、ミオ自身は少しだけ、思うところがあるらしかった。

 その日の昼食後、俺が工房の増築で余った木材を整理していると、ミオがしょんぼりとした様子で隣に座り込んだ。


「どうした、元気ないな」

「……あたし、この家でなんの役にも立ってないなって」

 彼女は、しょんぼりと猫耳を垂らしながら呟いた。

「シルフィは森のことに詳しいし、狩りもできる。ネルは、すごい道具をいっぱい作れる。クロだって、みんなを守れるくらい強い。でも、あたしは……食べて、寝て、遊んでるだけ」

 故郷の村を追い出された経験が、彼女に「役に立たなければならない」という強迫観念を植え付けているのかもしれない。

. . . . . . . . . . . . . . . . . . .

. . . . . . . . . . . . . . . . . . .

 俺はしゃがみ込み、ミオと視線を合わせる。

「そんなことないさ。ミオがここにいて、毎日元気いっぱい笑ってくれるだけで、俺たちはすごく楽しい。それだけで、十分すぎるくらい役に立ってる」

「……ほんと?」

「本当だ。でも、もしミオが何かやりたいなら、得意なことを活かしてみるのはどうだ?」

「得意なこと?」

「ああ。ミオは、誰よりも身軽で、すばしっこい。それに、耳も鼻もすごくいい。俺たちが行ったことのない場所を探検して、何か面白いものを見つけてきてくれる、『探検隊長』なんてどうだ?」


「たんけんたいちょー!」

 その言葉の響きが気に入ったのか、ミオの顔がぱあっと輝いた。しょんぼりしていた猫耳が、ぴんと力強く立ち上がる。

「うん、やる! あたし、探検隊長になる!」


 単純だが、素直でいい子だ。

 こうして、俺たちの拠点に、新たに『ミオ率いる辺境探検隊』が結成されることになった。隊員は、隊長のミオと、お目付け役兼荷物持ちの俺の二人だけだが。


. . . . . . . . . . . . . . . . . . .

 翌日、俺とミオは、少し遠出をしてみることにした。

 ミオは、まさに水を得た魚、いや、森を得た猫だった。木の枝から枝へと軽やかに飛び移り、俺では到底気づかないような獣の足跡や、珍しい植物を次々と見つけていく。その鋭い五感と身体能力は、間違いなく彼女だけの才能だった。


「ユウキ、こっち! なんだか、すっごく綺麗な水の音がする!」

 ミオに導かれるまま、鬱蒼とした茂みを抜ける。

 すると、俺たちの目の前に、今まで見たこともないほど美しい光景が広がった。


 そこは、柔らかな木漏れ日が降り注ぐ、円形の広場だった。

 中央には、水晶のように透き通った泉が静かに水を湛え、サラサラと心地よい音を立てている。周囲には色とりどりの花が咲き乱れ、蝶が舞う。まるで、おとぎ話に出てくる妖精の庭のようだった。


「すごい……こんな場所があったなんて」

 シルフィですら、この泉の存在は知らなかったらしい。ミオの探検隊長としての初手柄だ。

「でしょー!」

 ミオは自分のことのように胸を張っている。


 こんな素敵な場所を見つけたら、有効活用したくなるのが人情というものだ。

(いいな、ここ。みんなでお茶を飲んだり、昼寝したりするのに最高じゃないか。日差しを避けられる、オシャレな東屋……西洋風に言うと、ガゼボ? みたいな休憩所があれば完璧なんだが……)


 俺の思考を読み取ったかのように、世界が、またしても応えてくれた。

 ゴゴゴ……という地響きと共に、泉のほとりの地面が盛り上がり、白い木材が組み上がっていく。屋根には蔦が絡まり、床には座り心地の良さそうな椅子とテーブルまでが、あっという間に設えられた。

 自然の景観と完璧に調和した、あまりにもロマンチックなガゼボの完成だった。


「……また、生えた」

 ミオが、ぽかんとした顔で呟く。俺のスキルを見るのは、これが初めてではないが、何度見ても常識外の光景なのだろう。


 その日の午後は、早速シルフィとネルも呼び、完成したばかりのガゼボで、ささやかなお茶会を開くことになった。

 ネルが改良したポットで淹れた紅茶と、石窯で焼いたクッキーを囲みながら、泉のせせらぎに耳を澄ます。

「すごいよミオ! 大手柄だ!」

「こんな素敵な場所、よく見つけたわね」

 俺とシルフィに褒められ、ミオは照れくさそうに、しかし満面の笑みを浮かべていた。自分の力で、みんなの笑顔を作れたことが、彼女にとって何よりの喜びなのだろう。


 そんな和やかな雰囲気の中、ミオがふと、思い出したように言った。

「あ、そうだ! こっちに来る途中、もっとずーっと向こうの方にね、なんだか、古くて草がいっぱい生えた『道』みたいなのが見えたんだ!」


 その言葉に、シルフィの表情が、ほんのわずかに曇ったのを、俺は見逃さなかった。

「古い道……?」

「うん! 誰も通ってないみたいだったけど!」


 忘れられた森にある、忘れられた道。

 それは、この平和な楽園が、決して世界から完全に隔絶されているわけではないという、動かぬ証拠だった。

 その道が、いつか、俺たちの知らない誰かをここに導いてくるのかもしれない。

 そんな、ほんの小さな予感が胸をよぎったが、俺はすぐに首を振って、目の前のクッキーに手を伸ばした。今は、この幸せな時間を、仲間たちと共に満喫することだけを考えていたかったからだ。

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