始まりと別れ6
シェナが寝静まった頃、シェルは現場に戻り仲間と一緒に調査と進めていた。
静かに泣く彼女の手助けになればいいと思いながら必死に捜索していったがこれといって成果は出てこなかった。
そして調査が一段落付いたとき、
「シェル、今日はここまででいいから帰って休んでこい。
聴取はこっちでやるから」
「それにお前の家にあの子もいるだろう?
安全だとは言い切れないから早く帰れ」
上官に話しかけられていると、ルックが続けてそう言ってきた。
それを聞いた上官や周りの同僚も重々しく頷いている。
確かに、万全なセキュリティーを完備しているわけではないので安全とは言い切れない。
今さらながら、一人彼女を家に残してきたことに不安を覚える。
シェルは、真面目な顔で頷くと帰る支度をはじめ、ふと思いついたことを一番信頼している同僚であり親類でもあるルックを呼びとめた。
「なんだ?」
「少し頼みたいことがある。
いいか?」
「なんだ?
事によるぞ」
少し嫌そうな顔をしつつも乗ってくれる彼に苦笑する。
「シェナの家族について調べてくれないか?
少し引っ掛かる」
それを聞いたルックは呆れたような表情になり大げさに肩を落とした。
このような大げさな反応を示すことの多いこの男といると肩の荷が軽く感じる。
中には疲れるから嫌だという者もいるがそれは個人の感じ方によるのだろう。
思ったことをそのまま表情や動作に表してくれていると、表面を隠して内心どう思っているかなんて探る必要がないからだ。
嫌なら嫌だと言ってくれるのも分かっているから、無茶を承知の内容でも頼めてしまえる。
「まーた、お前のお節介か?
ようやるね」
「これは俺のやり方だから」
事件や周りの知り合いの事をそこまでしなくてもいいんじゃないかと周りに言われるが、自分が何かしたことによって、相手の心配事や悩みが解消されるなら良いと思って思わず、踏み込まなくてもいいところまで先に突っ走ってしまう。
だが、これをやめようとは思わない。
これは己が自分である証の様なものだからだ。
違いねぇといって笑う同僚が確定の返事を言ってくれるのを変わりつつ待つ。
「しょーがねー分かったよ。
いいだろ。
今度お前の奢りだからな」
「ええ、そりゃあないだろ?」
「バカいえ、安上がりだと思え!」
しょーもないようなやり取りをしつつ、楽しみながら了承を得た俺はシェナの待つ自宅へと急いで車を飛ばした。
いつものように過ぎていくこの時が、永遠に続いていくというのを信じて――――。
・ ・ ・
時は少し戻り、駐車場へと連れて行かれたカーマは車に案内されているところだった。
(まさかこんな車とは…どういう組織なんだ?
かなり昔に生産中止になったスイス・シルバーセラフを乗り回しているのは……
ん?……セラフ……)
考え事をしながら乗ろうとしたカーマに、車の中にいた一人の男が止める。
「おい、乗る前にこれを付けろ」
そして、有無を言わさず腕輪を付けられた。
その強引さに眉間に皺を寄せれば、はめられるのが嫌だというように捉えられたようだが訂正する必要も感じられなかったのでそのままにしておく。
その間違いを利用して、はめられた物を確かめた。
あたかもこんな物ははめたくないと反抗しているように見えるようにしつつ、はめられた物がどういった物なのか把握するために知識と照らし合わせる。
その男は、その反応に大した人間でないと思ったのかバカにしたような笑みを浮かべ車に乗り込んでいった。
それに他の男たちも続く。
(一見普通の腕輪にしか見えないな。
だが、通信機、遠隔操作の爆弾……そういう類の見た方が懸命だよな。
こんな事をしてどうするつもりだ?)
カーマは、すっと自分の背後に男が立ったのを感じ取り自然な動作で車へと乗り込んだ。
(シェナはどうなっただろうか……最後に伝えておきたかったことも伝えられなかった……あの青年が覚えている人物と同じだと良いのだが……)
「おい、聞いているのか?」
どうやら話しかけられていたのに、考え込んでいて気付かなかったようだ。
少し慌てつつ男の顔を見れば、別に気分を害しているようではなかったが、不思議なモノを見るかのような視線を向けられ、居心地が悪くなった。
「妙に冷静だからこっちの方が驚くぜ」
どうやら取り乱してもしょうがない状況であるのに喚きもせず、外の風景も眺めることもせずただ無表情で座り込んでしまったことで自分に不審を抱かせてしまったようだ。
男の言葉でハッと気がついたカーマは慌てたが、懸念は想いもしないところから助けがはいった。
「驚くことのほどでもないでしょう。
一人残してきた彼女を心配しているのではありませんか」
疑問形に問うてはいるが、言いきっている男に視線を向ければ不敵に笑っている男とミラー越しに目が合う。
先ほど会った時もいい感じをしなかったが、目があったことでさらに一番この中で気を抜いてはいけない人物だと確信した。
「今回は普段の奴らとは違いますからね、気を抜いてはいけませんよ」
遠回しに注意を受けたのは、自分の隣に座る先ほどからよくしゃべる男だった。
指摘を受けた男は気まずそうに奥歯を噛みしめていた。
「そういえば、俺が仲間に入れば教えるといっていたこと覚えているか?」
すっかり忘れていた条件を思い出し、忘れられては困るので今のうちに教えて貰わばければと切りだす。
それに答えたのは運転席に座る先ほどから気を抜けない人物だった。
運転しているが恐らくこの中で一番の実力者であり、決定権を持つ人物であると想定できる。
「忘れてはいませんよ。
あなたが“仲間に入れば”とお伝えしましたが、その解釈に若干の食い違いがあったのも把握しています」
「!!」
確かにあの時確認したが、不敵に笑ってはいたが頷いてはいなかった。
無表情から笑みに変わったことで了解と受け取ってしまったが、まさか己の間違いに笑われていたのかという事実と己の浅はかさに怒りが込上げる。
思わず殺気を出しつつ睨みつければ、朗らかに笑ってかわされる。
「そういきり立たないでください。
ハンドルを誤ったらどうしてくれるんですか」
私はまだ死にたくありませんよと笑いながらいう男に本当に殺意が湧いてくる。
この腕輪をしているが死を覚悟でこいつら含め暴挙に出ようかと思ったが、先手を打たれた。
「ですが、今回は上からの指示であなたには特別に話していいこととなりました。
幸運でしたね」
「どっちが」
ふふっと不敵に笑う男と殺意をみなぎらせた男の視線が絡み合う。
そんな異質な車内の中ではあるが、車は目的地に着々と近づいていた。
「時間がありませんよ」
助手席に座る男が初めて声を発すれば、運転席の男はいっそわざとらしいように外を眺め驚いた様子を見せる。
今までどこを見て走っていたのかと言いたくなるが、つられて思わず外を見れば思わず声を失った。
思いもしなかった所だった。
町はずれに向かっているかと思いきや逆だったようだ。
この国の最大都市『サベル』――ということは、この星の最大都市――が目に飛び込んできた。
運転手が面白そうに薄笑っていた。
前回の更新日時を見て衝撃を受けました。。。
まさか1年も更新してなかったなんて・・・
見に来てくださっていた方、申し訳ありません。




