始まりと別れ5
「おーい、シェル」
その呼びかけに、シェルは声のする方へと向いた。
ようやく来た応援ということと見知っている同僚の人物だということに気付いていつの間にか力の入っていた肩の力が抜けたように感じた。
「お、ルック早く来い。
それと無線で他の奴らに一階で待機していろといってくれ」
走ってくる同僚ルック・ケナーに頼んだ。
ようやくたどり着いたシェルの隣で、若干息切れをしながら不思議そうにルックに問う。
「何で、一階なんだ?」
「事件があったのが、そこだからだ」
「何でお前がそんなことを知ってる?」
「俺たちがそこのエレベーターの真ん中にいたんだ」
「!?
…なら何で無傷なんだ?
そこにいたのなら、お前だって巻き込まれただろ?」
「それはそうだが、カーマさんもいたんだ。それで助かったんだよ」
「!?」
それを聞いた同僚のルックは驚きの表情を浮かべて声を失った。
「あっ……あの、カーマさんに……?」
同僚の顔を見れば信じられないという声に出なかった言葉が浮かんでいた。
「ああっ……今さら思うが、よく助かったなと思うよ。
これもあの人のおかげだ」
そういって、シェルは苦い物を潰したような表情でエレベーターの方を見ろという動作をした。
それを見たルックは言われるがまま彼の指している方を見た。
何気なく――ルックはエレベーターの方を見たとたん声を失った。まあ、それは無理もないと思うが…。
「――シェル、お待たせ」
小さな荷物を持つシェナが戻ってきた。
「おお、よくここが分かったな」
「うん、叔父さんも事件があったら現場で指示出してたから、こういうのは慣れてるし……この人は誰?」
「ああ、同僚のルック・ケナーだ」
「よろしく」
シェナとルックは互いに顔を見て挨拶をしあった。
「それじゃ、一階に行くか」
「あれ……? ここじゃなくて?」
「事件が起こったのは、ここじゃないだろ?」
「そっか……」
「それじゃあ、お願いします」
シェルがルックの隣にいた営業者の人に頼んだ。
それに対して、ルックは人がいたことに今気づいたのか、驚いた顔をしていた。
経営者の人もなるべく光景を見ないように違う方を見ていたのだろう。
とっさに声をかけられて取り乱していた。
「全部でよろしいですか?」
「ええ」
「では……」
おそらく管理システムで動かすのだろう。
手に持っていた無線で連絡を取っていた。
経営者含めシェナたち四人は、真ん中のエレベーターへ乗り込んで下へと下って行った。
エレベーターの中に入り、今さらながらルックは一つ疑問に思った。
「ところであなたは?」
自分の名前は言ったのに聞くのを忘れていた。
先ほど同僚が複数形で話しているのを見て、事件に関与している人物に見受けれるが本当にそうなのか分からなかった。
「あっ、私はシェナ・ニーナです」
「シェナ?」
「はい」
「君もこのエレベーターに乗っていたのかい?」
「ええ……」
「…………」
質問に答えたシェナは落ち込んだ様子を見せ、ルックは彼女の名前にどこか引っかかりを覚えた。
「どうかしたのか?」
いきなり黙り込んだルックを見てシェルが声をかけた。
「んー、どっかで聞いたことがあったような気がして……」
「それはそうだろ……。
カーマさんと同じ名字だからな。
それに、たまに出入りしているところも見たことあるから、聞いたことがあるんじゃないのか?」
「えっ! そうなの?」
ルックは驚きに声を荒げ、すぐさまシェナを見た。
「ええ」
「なんだぁ、そういうことか…おれてっきり違うことかと思っちゃって…」
はははっと笑いながら、ルックは頭をかいた。
二人は、違うことってなんなんだよっと思っていたが、聞くことは出来なかった。
少しするとようやくエレベーターが一階へと着き外へ出ることが出来た。
すでにそこは他のFBIの人達が現場だったところ周辺をテープで囲い外部の人たちが立ち入ることが出来ないようにされていた。
シェナとシェルは、目撃者として現場だと思わしき周辺があっているか念のために確認をした。
確認をするといっても、自分たちの見えていたところが少ないのであまり意味はなかったが、やらないよりはましだろう……。
シェルは、シェナが落ち着いていないことに気が付いた。
ずっとあたりを見回して何かを探している。
まるで、母親と別れてしまった小さな子とものようだ。
それでも彼女は泣くそぶりを見せず、ただいなくなってしまった人物を静かに探し続けている。
その光景がとても切なく感じた。
「シェナ?」
シェナは、声をかけられた方へと素早く方向転回した。
しかし、望み通りのものとは違って、彼女は肩をガクンと落として、弱々しい声でいった。
「カーマ……」
「……」
「ごめんね」
切なそうな表情をされていわれ、見ている方が悲しくなりそうな――今にも泣いてしまいそうな表情だった。
「せっかく声をかけてくれたのに……すごく、胸騒ぎがするの……もう、いままでと同じ生活に戻れないような気がして…………どうしてもあの時、引き留めておくべきだったって……思っちゃ…って…………ごめんなさい……………こんなこという、つもりじゃぁ……」
シェナは、シェルの行動に目を見開いた。
シェルは、彼女が泣きそうになるのを堪えていっているのを見て、とっさに彼女を引きよせていた。 支えてあげなくてはいけないと思ったその思いが、彼を動かしていた。
過去の自分に似た彼女をほかっておけなかった――――。
シェナの耳の元でシェルの声が響いく。
「大丈夫。
カーマさんがいない間、俺がいる……俺を叔父さんだと思ってもいいよ。
ものすごく頼りないけど……それとね、泣きたいときは泣いていいんだ――」
温かい温もりと、必要以上に優しい声音がシェナのすでに緩みがちだった涙腺を開いた。
彼に身を任せて、シェナは静かにシェルの腕の中で泣いた。
泣いている最中、ふとシェナの頭の中にあるビィジョンが頭の中に浮かんだ。
いつだったか忘れ去られた遠い記憶の光景だった。
(あれは……カーマ?
いつ?
……そうか…………こうして人の中で泣くのは、両親が死んでしまったとき以来……。
カーマの腕の中で……)
しばらくしてようやくシェナは涙が引いた。
その間ずっとシェルは、何もいわずに抱きしめていてくれた。
そして、泣き終わった後も深く追求せずに付き添っていてくれる彼に感謝の念を抱かずにはいられなかった。
その後、シェルと共にシェルの家へと向かった。
その自宅はメアスから車で五分と掛からないところにあった。
鍵で家を開けて綺麗に整頓されている室内にシェナはびっくりした。
ただ物が少なく閑散としていて淋しい印象を感じた。
シェルが軽く夕食を作って二人でゆっくり食べ終えると、シェルのベッドをシェナが使い就寝することとなった。
寝ようと思っても今日会った出来ことが頭に浮かんで眠れないと思っていたシェナだったが、いつの間にか意識を手放していた。
実は昨日ここまで投稿する予定が出来ませんでした・・・^^;
ちなみに、シェルのシェナを気遣う様子は恋というより過去の自分を見ているようでほっておけないのと彼自身の優しさがあるからだと思います(ちゃんとわかっているようで分かっていません……ダメでしょ……思わず自分で突っ込み)




