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始まりと別れ3

「……どうして、放してくれなかったの?」


 しばらくしてようやくシェナが口を開いた。

 その表情と声音は、泣きたいのか怒っているのか分からなかった。

 青年は一瞬うろたえたようだったが、はっきりとした口調で答えた。

「どう…してって……

 君は分かっているだろう。

 彼は何としても君だけは守りたかった。

 でも、あの状況で守りながらは難しい。

 下手したら二人して殺されに行くようなものだ。

 だから近くにいた俺が手を貸した。

 さっきの男の人も最初は気付かなかったみたいだけど、こう見えても俺はFBI捜査官なんだよ」


「え?」


 てっきり十八歳前後だと思っていたシェナは間違いだったかと俯いていた顔を上げ、相手の顔を見た。

 だが目に入ってきたのは、黒色の髪を真ん中で分けている少し丸顔の整った顔立ちに緑色の妙に光を帯びたひとみ瞳だった。

 まるで少年のようにキラキラと光りを帯びている瞳が彼を幼く見せていたようだ。


(何なの…?この人の目…)


 彼も同じようにシェナの美貌が目に入るとともに、一瞬意識が遠くに行った。

 彼にはシェナの美貌は強すぎたらしい。

 しかし、何とか理性を取り戻し少し冗談ぽくいった。

「カーマ捜査官に頼まれたからには、あなたをお守りいたします」

 まるで昔の紳士のようにレイをしながら言う青年の発言にシェナはびっくりしたが、すぐに微笑した。いまの彼女にはその言葉が何より嬉しかった。


 カーマは行ってしまった。

 二人を守るために……いや、自分のせいで。


 こんな状況で一人にはなりたくなかった。

 己の存在のせいで誰かが犠牲になるなど、自分自身を追い詰めたくなる。

「ありがとう。

 あなたの名前を教えてくれない?

 私はシェナ。シェナ・ニーナ」

「俺はシェル・ネグア。

 君は……シェナは何で狙われているんだい?」

 シェナは分からないと首を横に振った。

「でも、……何で私の名前を知っていたんだろう?」

(あの人たちは、あの時の人だろうか……でも、なぜ自分を――――?)

 シェナは、あの時見た男たちと似ていることに気づいていたが、シェルには言わなかった。

 彼をすべてにおいて信用しているわけでもないし、なりよりこれ以上自分に関わって巻き込まれてほしくなかった。


 以前あの男たちを目撃した時に感じた不吉な予感は当たっていたのだから――――。


「さぁ、ああゆうやみ闇の奴はいろいろなところから情報を得るからな。

 まぁ、取りあえずここから出て警察かFBIの所のどっちかに行こう」

 シェナが隠し事をしていることに気付きもしないで、呑気にこれからの事を話しながら無意識に懐からタバコを取り出して何気なく吸い始めた。

 シェナはその光景をじっと見ていた。

 別に許可なく吸い始めた事に対して咎めたいとかそういう訳ではない。

 思わず煙草を吸う人物が脳裏に浮かんでしまったからだ。

 その視線に気付いたのかシェルは問う。

「どうかした?」

「え? あ……タバ、コ……」

 自分の手元に目をやると火のついたばかりのタバコがあると今さらながら気がついた。

 急いで携帯灰皿を取り出してもみ消そうとした。

「ごめん。嫌いだった?」

 慌てて気遣うシェルを見て、シェナもそんなつもりはなかったと慌てて止めた。

「ちっ、ちがうのっ…ただ…………ただ、叔父さんも吸っていたから…男の人はそういうの、好きなのかなって…………」

 今どうしているんだろうと、ふいに不安に駆られる。

 シェルは落ち込んだシェナを落ち着かせるように優しい声音でシェナの不安から出た問いに答える。

「人にもよるんじゃないのかな。

 神経を落ち着かせたいときとかに吸ったりするみたいだよ」

 自分も吸っているのにも関わらず他人事みたいに言った。

「そっか」

 自分の不安を感じて優しくなったシェルに感謝の意をこめて微笑みかけた。

 それと同時に、エレベーターが付いたというようにチンっという甲高い音を鳴らして扉を開いていった。



 シェナを一度見かけたことのあるFBI捜査官に託して上へ昇っていくエレベーターを傍らに、カーマは彼らは睨み合っていた。

 しばらくすると相手側が痺れを切らしたのか持っていた銃を懐へとしまった。

 応戦する気はないらしい。しかし気を抜けないカーマは銃を下したが懐には仕舞わなかった。

 こういった奴らに甘い顔を見せれば、己の身の破滅を招くことになる。


「そう警戒しなくていい。

 あなたを殺す気はない」


 一人がゆっくりと落ち着いた口調で言った。

 以前メアスの前で出会ったあの男だ。

「なぜこんなことをした?」

「ふっ…IFBI捜査官のわりに頭が悪いですね。

 あなたが我々の要求に従わなかったから」

「シェナのことか?」

「ええ、少しは頭がいいらしい。

 ですが、軽率でしたね。

 なぜ、今日我々との約束を破ったのですか?」

 ピクッとカーマのまゆ眉が動いた。

 気付いても彼らは気にもとめなかった。

「何も言わずに行けと?」

「まあまあ、怒らないでくださいよ。

 普段おとなしい人が怒ると怖いですから。

 ですが、約束は約束。

 もっとも、初めからこうなることは分かっていましたがね……」

「!」

「驚いたか?

  無理もないが…だが、我々を見くびってもらっては困る」

「そう。

 あなたのことも彼女のこともすべて調べて知っているのですから。

 彼女に何も告げることもなく姿を消すようなことはしない人物だということも」

 カーマは相手を睨んだ。

 自分の守りたい者を残す事がどれだけ彼にとって苦痛なのか分かっていてやっているのだ。

 それなのに理不尽な条件を突き付けて呑みこませた。

「いったい、何を企んでいる?」

 クスッと鼻で笑っていう。

「まずは、ただの序盤ですよ。

 これから多くの事が動いていく――――彼女も巻き込んでね」

「なっ」

 シェナを巻き込まないという条件だったのにも関わらず、それを守ろうとしない相手に反射的にカーマは身体を構えた。

「おっと、抵抗はしない方が身のためですよ。

 最も身体が動かなくなってもいいと言うなら話は別ですが……」

「くそっ!」

「それでは参りましょうか。

 我が基地へ」


 薄気味悪いうすら笑いを浮かべる二人が薄気味悪くていつの間にか後ずさりをしていた。

 それに気がついた二人はうすら笑いを浮かべたまま、常人の早さとはいえぬ早さで彼の前後を囲い込み羽交い絞めにした。

「抵抗はやめた方がいいと、先ほどいいましたよね。

 それに、行くことについては同意していましたよね。

 してもいいですが、抵抗するだけ痛みも伴いますよ」

「くっ」

 案に動けない身体になると言われ、仕方なくカーマは一気に肩の力を落とした。

 これからの事を考え、今はいうとおりにするしかなかった。

「あっあきら諦めてくれましたか?

 それは良かった」

 腹に一物だけでなく、それ以上の物を持っていそうな笑いを浮かべた男ともう一人の男に囲われてカーマはメアスを後にした。


ものすごく更新遅くなり申し訳ありません。

「想い~」の方を中心に更新したいと思っていますので、こちらはおろそかになってしまうことも多いかとは思いますがご了承願います。

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