始まりと別れ2
それから、シェナは体にタオルを巻き、サンダルを 履いて叔父のカーマと一緒にエレベーターへと向かっていた。
実はこのプール、控え室が一,二階には少しのスペースしかなく、朝早く来た人か運のいい人にしかありつけない。
その他の人は、最上階にある控え室を使う。
その不便さから一回来ても来なくなる人もしばしばいが、プールの横にあるちょっとしたカフェテリアやカフェバー、レストランなどといった水着のままでも入れる店がある利便性もあるため常連客も多い。
それよりも、町のほぼ中心にあるからと行ってもいい。
それ故、至る所にエレベーターやエスカレーターが設備してある。
二人がエレベーター前まで行くと、タイミング良く三つあるエレベーターがずれることなく一度に開いた。
この時カーマは、何となく違和感を感じた。
ついた瞬間に開いたその扉が踏み出してはいけない入口のように感じたのだった。
何者かに操られ自分たちの平穏な日々を失う様な嫌な予感を感じさせる。
しかし、たまにはこんな事も時にはあるだろうと思い、嫌な予感を払拭させる。
だがしかし、この時気にすべき事だったと後悔するのだが……。
カーマは、一つのエレベーターに入ろうとして、途中で足を止めた。
エレベーターの中に居た人が多く、水着姿のシェナには悪いだろうと思ったからだ。
予期せぬ出来事にシェナは反応するとこが出来ず、カーマの背中に思いっきり顔面をぶつけたのだった。
「いたっ、何なの?」
転びはしなかったものの、思いっきりぶつけた顔に痛みがじんじんと波を打つ。
「ごめん、いっぱいだから…隣のに乗ろう」
「分かった」
そういうことならと、納得いったように頷いて二人は真ん中のエレベーターに乗り込んだ。
先ほどのエレベーターとは違ってそこには一人の青年しか入っていなかった。
青年はもうだれ誰も来ないと見て扉を閉めた。
そのまま軽やかに上に動き出すかと思いきや、ガコンッという音がしてエレベーターの動きが停止した。
異常な様子はなかったのになぜいきなり動かなくなったのか訝しげな表情で思わず互いにシェナとカーマは顔を見合わせた。
しかたがなく、カーマ様子を見ようと動いた瞬間のことだった。
両サイドのエレベーターから銃声とけたたましい悲鳴の声がした。
その音と声が止まるとともに、二つの足音が彼女らのいるエレベーターへと近づいてくるのが厚い扉の向こうから聞こえてくる。
次は自分たちの番なのだろうかと、徐々に近づいてくる足音に恐怖が募る。
恐怖に屈したシェナは、無意識のうちに叔父の腕をつかんで力強く握りしめた。
これから起こるだろう予感に身構えようとしたのだろう。
いきなり銃を突きつけられるのも恐ろしいが、その前に両サイドから耳に残る数多い悲鳴の声を聞いていればなおさらである。
しかし、シェナの心配をよそにカーマはシェナの手を放す。
そして、優しく手を添え…次になだめるかのようにシェナの頭をなでると己のスーツの下に隠れている銃を抜いた。
その顔は大切なモノを守りたい叔父の顔ではなく警察官の顔でもあった。
しかし、そんなカーマの心中にさきほどのシェナのことが気がかりだった。
その様子が顔に出ていたのだろう。
困っているのを見かねてか、先ほど先に乗車していた青年が声をかけてきた。
「あの……、よければ俺でよければ…………」
おずおずとかけてくる声に任せていいかと心配になったが、青年の顔を見て決意した。
この男なら大丈夫だと思い、無言で頷くことで肯定を表した。
それを確認した青年はシェナを己の背に庇うようにして、操作パネルの前に待機した。
こちらの準備を待っていたかのように、ガガガガという無理やり戸を開ける音と共に血まみれの二人の姿が目の前に現れた。
その男たちは、普通の人間とは思えないくらいにピリピリと殺気立っていた。
その殺気に呆然としていると、ようやく一人の男が口を開いた。
「シェナ・ニーナ。我々と一緒に来てもらおう」
まったく知りもしない残虐な男から自分の名が出てきてシェナは愕然とした。
しかし、混乱しているはずの頭の中で疑問が生まれ、彼らに問いかけたくなった。
なぜ?
と…。
それを遮るかのように、シェナの前にカーマは立ちはだかる。
「それはできない相談ごとだな」
その言葉を合図にして青年は閉まるボタンを押す。
それを見たシェナは自分たちを守り犠牲になろうとしている叔父のところに駆け寄ろうとした。
「カーマ!」
しかし、青年がシェナの手を寸前のところでつかみ取ることによりカーマ一人を残してエレベーターは上へと上昇していった。
しばらくの間、気まずい沈黙がエレベーターの中を支配した。
更新遅くなって申し訳ありません。
亀のように鈍足更新で申し訳ございません。
気を長くしてお付き合い頂けたらなと思います。




