プロローグ
ある日のこと、いつものように都市部に誇る最大の室内プール――メアスに行っていた時のことだった。
その大型プールは一面マジックミラーのガラスに覆われた造りになおり、外からは見えないが中からは外の風景が一望できる。
そこには幾つもの種類のプールがあり、流水プールや子供用の浅いものや逆に水深の深いもの、競技用の短水路、長水路、飛び込み、滑り台など、競技の練習から遊ぶものまでさまざまな設備がされている。
またメアスには、他の室内プールとは違い至る所に水着のまま入れるフードコートや店が存在するあたりは珍しいところともいえる。泳ぐのに疲れたらそのまま飲み食いでき、飽きたらショッピングも可能なのだ。
その店の一つで、彼女が愛用しているカフェテリアで休憩していた時だった。大型プールの周辺には大きなビルは建設されておらず、人が行き交う公園のようになっている。
5階からの風景はとても見晴らしも良い。いつものように何気なく外の風景を眺めると目に入ったのは、彼女の唯一の肉親であり、育ての親である叔父の姿と怪しげな黒いスーツを身にまとった二人と話している場面だった。
彼の職種を考えると特に大した構図ではなかった。
FBIである叔父が怪しげな人物を見かけて職務質問しているだけだと考えることもできる。
そう考えるのが普通だろう。
それなのに、彼女は何か引っかかりを感じた。
何かがおかしいのだ。
そのなにかが彼女には分からず、知らず知らずに眉間に皺を寄せる。肝心の叔父の表情は後ろ姿で見えず、正面にいる怪しげなスーツの二人は黒のサングラスをしているのでよくわからなかった。
ただ分かるのは彼らが無表情だということ。
ああ、そうか……。
冷静に見ていて彼女はようやく気がついた。
FBIである叔父が相手であるのにもかかわらず彼らは避けることもなく、媚びることもなく、怯えるそぶりもなく、そして、逆上することもない。ごく一般の人間がするような雰囲気と表情ではなかった。
ただ冷静にどちらが優位の立場なのか思わせる雰囲気があった。優位なのは、叔父ではなく怪しげな黒いスーツの二人組のほうだった。
そう気づくと同時に彼女の体に戦慄が走った。
彼らの間に何があったのだろう。
これから続くと思っていた平穏な日々が失われてしまう不吉な予感を感じた。
つたない文章で申し訳ありませんが、お付き合いいただけれたらと思います。