第1話
初めてちゃんと物語を書くため、拙い箇所ばかりだとは思いますが、どうか広い心でお読みくださいませ。
「いつからだろう」
1人の女がふと呟いた。
「いつからこんなにも目の前が空っぽになってしまったのだろうか」
女は自分のいる部屋をぐるっと見回し、自分の体に手を当てた。
そして頭上に佇む一匹のフェレットに向けて叫んだ。
「ねぇケーゼ、私のお腹はこんなにも空いているというのに、どうしても冷蔵庫が空っぽなのー!」
「呆れた…冷蔵庫が空っぽなのは昨日イルヴィが、面倒だからって買い物にもいかずに残り物を全部食べちゃったからでしょう?そのせいで僕のチーズもないし…」
冷蔵庫の上からフェレットのケーゼが呆れた顔をイルヴィに向けていた。
しかし当の本人はお腹が空きすぎて、そんなケーゼの表情には目もくれず必死に冷蔵庫の中を睨んでいる。
イルヴィにとって空腹というのは死活問題である。なぜならばお腹が空くと何も考えられないからだ。
とにかくご飯が食べたい。強いて言うならオムライスが…デミグラスソースがたっぷりとかかり、とろ〜りチーズの乗ったオムライスが食べたい。イルヴィの頭はそれでいっぱいなのである。
「ケーゼ!ご飯食べ行こ!私が動けるうちに!!」
「この会話週に2回はやってるよ」
***
イルヴィ・ヘルフォードは有名人である。
たとえ適性があったとしても、滅多になれない賢者だからである。
賢者というのは、魔導士の完全上位職で苦手な属性がない。もちろん得意な属性はそれぞれ違うが、明確な弱点が存在しないのである。
そんな有名人が街に出ればもちろん注目されるものだが、行きつけのオムライス店のことしか頭にないイルヴィには視線も噂をする声も届かない。いつものように青白磁色のローブを羽織り、肩に白いフェレットを乗せ、かざまつり亭に足を運んだ。
そしてなれた様子でデミグラスチーズのオムライスと一欠片のチーズを注文した。
料理が届いたそばから口いっぱいに頬張り、怪物のように雄叫びをあげていたお腹を落ち着かせていく。
「ん~!やっぱりここのオムライスはさいっこ~に美味しい!」
「あらあら、イルヴィちゃんの食べっぷりにはいつも元気をもらうわあ」
かざまつり亭の女将さんは、にこにことイルヴィ達を見守っている。
「あら、そうだ。イルヴィちゃん、最近また流れが増えたらしいから、気をつけてちょうだいね。まぁ、よっぽどのことがない限り大丈夫だとは思うけど」
「僕もいるからね」
「ふふふ、そうね。頼もしいケーゼちゃんもいるものね」
そう笑う女将さんにケーゼはとても満足そうである。その間イルヴィはというと先ほどまで目の前にあったはずのオムライスがいつのまにか無くなっていることに悲しみを覚えていた。
もちろん自分が食べたことはわかっているのだが、あまりに一瞬のようでいつも悲しくなる。
食べ終わってなお眉を八の字にするイルヴィにケーゼは呆れ、女将さんは笑って口を開く。
「また稼いで、いつでもきてくれればいいのよ。氷狼の賢者様?」