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水上楽園の秘密

作者: 陸篠

主人公の山田優希は、妹の山田晴香と水上楽園に遊びにやってきた。しかし、直前に謎の人物から「絶対に水に入るな」という警告メッセージが届く。その言葉通り、楽園の水が寄生生物に汚染され、人々が次々と異形の存在へと変貌していく。


出口は封鎖され、外界との連絡も途絶。楽園から脱出するため、優希と晴香は二人で助け合い、生き残りをかけて行動する。猜疑心と恐怖が渦巻く中、姉妹は、この惨劇を引き起こした恐ろしい陰謀の存在を知ることになる。


次々と迫りくる危機。そして、絶望的な状況下で送られてくる謎のメッセージの真意とは?命をかけた姉妹の脱出劇が、今、始まる。

1

水上楽園に到着したばかりのとき、私は見知らぬ人からテキストメッセージを受け取った。

【絶対に水に入らないでください!絶対に水に入らないでください!】

【水の中には命にかかわる寄生虫がいます! 】

【死にますよ!!!!!】

水に足を踏み入れようとしていた私は、足を引っ込めてその番号にかけ直したが、電話の向こうからは、「申し訳ありませんが、おかけになった番号は使われておりません…」と聞こえてきた。

真夏の炎天下なのに、私は全身が凍えるような寒さを感じた。

どういうこと?

使われていない番号がどうやってテキストメッセージを送るんだ?

それに、水の中に命にかかわる寄生虫がいるって?

私は岸からプールの水を眺めた。

ネットでは、水上楽園の水はほとんどが漂白剤で処理されていると言われている。

確かに清潔ではないかもしれないが、虫がいるほどではないだろう。

それに、プールの水は底まで見通せるほど澄んでいて、髪の毛一本も見当たらなかったし、ましてや虫なんていなかった。

しかし…あの数通のメッセージは本当に不気味だった。

「お姉ちゃん、水に入らずにここで何を見ているの?」

水着に着替えた山田晴香やまだ はるかは、もう水に入るのが待ちきれない様子だった。

思わず、私は彼女の手を引っ張った。

「えっと、暑すぎて少し熱中症気味だから、先に家に帰らない?」

あれはただのいたずらメッセージだと自分に言い聞かせたい気持ちだったが、不安はまるでトゲのように心の中で何度も突き刺さってきた。

山田晴香は少し不機嫌そうだった。

「やだ、せっかく大学受験が終わってゆっくりしたかったのに。すごく刺激的なアトラクションがあるって聞いたよ。お姉ちゃんもきっと好きだよ」

私は少し苛立ちながら言った。

「もういいって言ってるでしょ、先に帰るって…」

話しているうちに、プールの真ん中から悲鳴が聞こえてきた。

続いて、ウォータースライダーや流れるプールからも…

次から次へと悲鳴が上がった。

「何があったんだろう?」

岸にいた多くの人が野次馬として水の中へ向かった。

山田晴香も行きたがったが、私は彼女の手首をしっかりと掴んでいた。

「行っちゃだめ、中にはもしかしたら…もしかしたら…」

「命にかかわる寄生虫」という言葉が、まるで拡大鏡で照らされたかのように、私の頭の中で無限に拡大された。

突然、先ほどの悲鳴を上げていた人々が、私たちの目の前で血を吸い尽くされた死体へと変わった。

そして、その体からは前腕ほどの大きさの白い肉虫が次々と湧き出てきた。

それがびっしりと群がっている光景は、恐ろしいものだった。

岸に下りて野次馬をしていた人々もそれを見て、向きを変えて岸に向かって泳ぎ始めた。

しかし、もう手遅れだった。

肉虫はまるで餌を見つけたかのように、水流に乗って彼らの口の中に侵入していった。

「助けて!助けて!」

口を大きく開けるほど、より多くの虫が入り込んでいった。

2

私は目の前の光景にゾッとした。

水の中にいる人々は溺れる亡者のように、必死に岸に向かって泳いでいた。

岸にいる人々はパニックになり、叫びながら逃げ惑っていた。

私は考える間もなく、山田晴香を掴んで人々の流れに乗って水上楽園の出口へと向かった。

しかし、そのとき、正門は固く閉ざされ、さらに電線が張り巡らされていた。

館内放送からは冷たい声が聞こえてきた。

「水上楽園で大きな事変が発生しましたので、社会の治安に影響を与えないため、一時的に全面封鎖を行います。

「お客様各位のご理解をお願い申し上げます」。

このニュースは、熱い油が冷たい水に注がれたかのように、人々の間で大混乱を引き起こした。

「理解だぁ?ふざけんな!門を開けろ!」

「開けないなら力ずくで突破するぞ!」

機敏な男性が十数人、フェンスに登り始めたが、全員が電線に感電して落ちていった。

例外は一人もいなかった。

3

水から逃げ出した人々が次々と現れ、門の前でひざまずき、職員に少しでも慈悲を示すよう懇願した。

しかし、放送からは何の音も聞こえてこなかった。

「くそっ!」

私はもはやここに希望を託さず、山田晴香を引っ張って園内へと走り出した。

幸い、私たちはすぐにブティックを見つけた。

私たちと一緒に、他の十数人の生存者も中に逃げ込んだ。

肉虫が入ってこないように、私たちは内側からガラスのドアに鍵をかけた。

一時的に安全であることを確認すると、全員が同時に安堵のため息をついた。

しかし、すぐに私たちの心は再び緊張した。

外を見ると、水から逃げ上がってきた多くの人々が、水に入っていない人々を追いかけていた。

追いかけると、吸血鬼のように彼らの血管に噛みつき、破裂させた。

彼らは他人の血が喉に流れ込むのを楽しんでいるかのように、満足そうな顔をしていた。

他人の血を吸い尽くして、黒ずんだ干からびた死体になるまで続いた。

私は少し歯が浮くような思いで、唾を吐き出した。

「一体何なんだ、この化け物は?」

山田晴香は怖がって泣き、私の後ろで震えながら、私の袖を掴んだ。

「お姉ちゃん、前に時事ニュースで、アメリカのある研究所のサンプルが国内に流出したって言ってたけど、それじゃないかな…」

私は少し考え込み、イライラしながら携帯電話を取り出し、再びテキストメッセージを送ってきた番号に電話をかけた。

やはり、使われていない番号だった。

私はダメ元でメッセージを送ったが、常に操作エラーが表示された。

くそっ!

じゃあ、今はどうすればいいんだ?

この使われていない番号が自ら連絡してくるのを待つのか?

そのとき…私と山田晴香はまだ生きているだろうか?

突然、血まみれの手がガラスのドアを叩いた。

妊娠している女性がドアの前でひざまずき、泣きながら懇願した。

「お願い、ドアを開けて中に入れてください。怖いです!」

4

山田晴香は心が優しいので、かわいそうな人を見ると心を動かされることを私は知っていた。

だから、私は早めに彼女の手を掴んで言った。

「今ドアを開けたら、もしあの虫に寄生された人が入ってきたらどうする?

「そうなったら、私たち全員死ぬことになる!」

山田晴香は私の真剣な表情に怯え、しばらく口をパクパクさせたが、結局何もできなかった。

そのとき、部屋の中からひときわ可愛らしい女の子が立ち上がって、眉間にしわを寄せながら私を睨みつけて言った。

「あなたって本当に冷酷な人ね。あれは妊婦なのよ、あの化け物に血を吸われたらどうするの?」

そう言って、彼女は鍵を開けようとしたので、私は彼女の手を掴んで冷たく言った。

「死にたければ止めないけど、私を巻き込まないで」

その女の子は目が潤んでいて、今にも泣き出しそうだった。

彼女は私を見るのをやめ、周りの人々に目を向けた。

「せっかく私たちは一緒にいる運命なのだから、見殺しにするなんてあり得ないでしょ?

「今日ドアの外にいるのは彼女だけど、明日は私たちかもしれないわ!」

私はやむを得ずこめかみを揉んだ。

くそっ!

こんな大事なときに、なぜこんな奴に出会うんだ?

「乱世ではまず聖母を殺せ」と言うが、私は…

私が行動を起こす前に、大柄でたくましい男が立ち上がった。

彼は身を守るために持っていたおもちゃの銃を手に、女の子に言った。

「いいだろう、少しだけドアを開けて妊婦さんを入れてやれ。俺がそばで見張って、何かあったら銃を撃つ」

私は鼻で笑った。

おもちゃの銃をまるでAK47のように扱っている。

私は少し離れたテーブルをちらりと見た。

果物ナイフ一本では、この二人の愚か者をどうすることもできないだろう。

しかし、幸いにも彼らの動きは機敏で、妊婦はすぐに中に入ることができた。

だが、彼女には九死に一生を得たという安堵感はなく、ガラスのドアにへばりついて向かいのスナックバーをじっと見つめていた。

後で分かったことだが、彼女の夫と子供はあの店に閉じ込められていたのだ。

5

妊婦は私たちに中村恵美と呼んでほしいと言った。

先ほどの混乱で、彼女の夫と子供は人々にスナックバーに押し込まれてしまった。

誰かがドアに鍵をかけたせいで、中村恵美と中の夫がどんなに泣き叫んでも、誰もドアを開けてくれなかった。

中村恵美は私たちに助けを求めに来たのだ。

「大丈夫、ここの人たちはほとんどが親切だから、見殺しになんてしないわ」

その聖母…いや、伊藤明いと あきらは誇らしげに言った。

隣でおもちゃの銃を持っていた高橋志織たかはし しおり も、間抜けそうにうなずいていた。

山田晴香は私の手をしっかりと握り、必死に泣いた。

「お姉ちゃん、どうしよう?私たちここで死んじゃうのかな?お父さんとお母さん、きっと心配してるよ。怖いよ、お姉ちゃん…」

彼女が泣けば泣くほど、私はさらにイライラした。

私は鋭い声で叫んだ。

「黙りなさい!」

この一言で、山田晴香だけでなく、部屋にいた全員が静かになった。

伊藤明は鼻で笑った。

「この人は、自分の妹さえも気にかけないなんて、なんて身勝手な人なの」

私は彼女を見る気にもなれず、ずっと冷静さを保ちながら警察に電話をかけていた。

しかし、同時に通報している人が多すぎたので、電話はずっと話し中だった。

でも、今私には警察に通報する以外に何ができるというんだ?

繋がらなくても、私はかけ続けた。

山田晴香はもう泣き止み、怯えた小鳥のように私のそばに隠れていた。

ちっ、本当に面倒だ。

どうして今日、彼女を水上楽園に連れてくることを承諾したんだろう?

彼女が清華大学・北京大学に合格したから?

それとも、彼女が両親の宝物だから?

何かあるとすぐ泣くだけで、何の役にも立たない。

私はいつものように、山田晴香の姉として生まれたことを再び後悔した。

もし一人っ子だったら、こんな面倒なことはなかったのに…

しかし、私が「黙りなさい」と怒鳴った直後に後悔したことも事実だ。

結局、彼女は私と血のつながった家族だ。

今、私が完全に信頼できるのは彼女だけだ。

私はひどくため息をつき、顔をそむけて、空いているもう片方の手で乱暴に彼女の頭をなでた。

そのとき、携帯電話についにメッセージが届いた。

やはり、あの見知らぬ番号からだった。

そこには【誰のことも信じるな!】と書かれていた。

これはどういう意味だ?

私は彼女の頭をなでる手を止めた。

突然、向かいのスナックバーから悲鳴が聞こえてきた。

まるで水に一滴の油が落ちたかのように、瞬く間に、水上楽園全体に悲鳴が響き渡った。

2枚のガラスドア越しに、人々の間で一人が突然飛び上がり、歯を剥き出しにして別の人の血管に噛みついたのがかすかに見えた。

続いて、また一人飛び出してきて血管に噛みついた…

あっという間に、スナックバーの固く閉ざされたドアは血で真っ赤に染まった。

小さな白い手が必死にドアを叩き、その子供は私たちの方を見つめながら、「ママ」と泣き叫んでいた。

私たちは、彼女が中村恵美なかむら えみを呼んでいることを知っていた。

6

中村恵美は気が狂ったようにドアを開けに行こうとしたが、今回は誰も賛成しなかった。

ただ、伊藤明だけが再び同情心を見せた。

「ドアを開けてあの子供を助けてあげましょうよ、中村恵美の子供なんだから。

「もし私たちの家族もこんな状況になったら…」

高橋志織 は今になって状況を理解し、言った。

「今外に出たら、私たち全員が死んでしまう!」

「でも、私の子供が…」

中村恵美は、自分の子供が血の海に沈んでいくのを目の前で見ていた。

彼女は瞬時に目が血走り、ガラスに頭を打ちつけようとした。

私は止めず、ただ淡々と言った。

「ぶつかればいい。どうせ最後は一屍二命だ」

この言葉は、まるで休止符のように、中村恵美の動きを無理やり止めさせた。

私は彼女が止まるだろうと分かっていた。なぜなら、ここにはまだ彼女が大切にしているものがいるからだ。

私たちが生きているのは、彼らを無事に逃がすためではないのか?

たとえ、この人が全く好きでなくても。

私は腕の中の山田晴香をちらりと見て、皆に言った。

「私たちは、寄生虫に憑りつかれた人は、血を吸い尽くされるか、寄生虫に操られて他人の血を吸うかのどちらかだと思っていた。

「でも、さっき一つ思いついたことがある。

「自分たちを部屋に閉じ込めていた人たちが、明らかに寄生虫に憑りつかれている人を入れるはずがない」

山田晴香はすぐに私の意図を理解した。

「つまり、憑りつかれた人の中には、普通の人間に偽装して私たちの間で活動している可能性があるってこと?」

私は否定しなかった。

「仮に、これらの憑りつかれた人たちが私たちの血を飲むことでしか生きられないとしよう。では、血を飲んだ後はどうなる?必ず移行期間があるはずだ。

「つまり、その間は普通の人と何ら変わりがないんだ」

後半を話していると、頭の皮がゾッとするのを感じた。

これは、私が今まで見てきたゾンビ映画よりも厄介だ。

普通の人と変わらない変異人…どうやって正確に判断すればいいんだ?

高橋志織 の目がキラリと光り、部屋の中の人々を見回しながら、一語一語はっきりと口にした。

「じゃあ、私たちの中にも寄生虫に憑りつかれている人が混ざっているということか?」

その言葉が終わると、部屋の中の雰囲気は不気味なものになった。

元々身を寄せ合っていた人々は徐々に離れていき、誰も隣の人を信じられなくなった。

突然、山田晴香が一人の女の子をじっと見つめて言った。

「口元から血が出ているけど、怪我したの?」

私は声のする方を見ると、そこにいたのは15、6歳くらいの少女だった。

髪は少し乱れ、顔色は青白く、口元には薄い血の跡がついていた。

彼女は少し戸惑いながら血を拭き、優しい声で言った。

「さっきうっかり転んで、何人かに踏まれちゃったんです」

彼女が話している間、私はずっと彼女の歯を見ていた。

彼女の歯の隙間には、明らかに血が混じっていた。

私は山田晴香を自分の後ろに引き寄せ、皆に向かって言った。

「彼女は寄生虫に憑りつかれている!」

7

私の言葉を聞いて、少女は涙をぽろぽろと流した。

「私を濡れ衣を着せないで。私は友達とはぐれて、怪我もしているのに、今ここで私を追い出したら死んでしまうわ!」

伊藤明は私を横目で睨みつけ、私の真似をして少女を自分の後ろに引き寄せた。

「あなた、もう少し証拠を持って話したらどうなの?こんなにかわいそうな女の子が、どうして寄生虫に憑りつかれているっていうの?」

案の定、私以外に少女の口の中の血に気づいた人はいなかった。

私は急いで説明しようとは思わなかった。

なぜなら、そのとき少女は伊藤明の血管をうっとりと見つめ、目が光っていたからだ。

彼女はひび割れた唇をなめ、つぶやいた。「喉が渇いた、喉が渇いた…」

そう言うと、彼女は突然飛び上がり、伊藤明を押し倒した。

彼女の薄い皮膚の下には、何かがうごめいているのがかすかに見えた。

伊藤明は完全にパニックになり、悲鳴を上げた。「助けて!」

少女はほとんど理性を失っていたが、十数歳の体の力は信じられないほど強く、伊藤明は全く抵抗できなかった。

少女の歯が伊藤明の血管を噛み破る寸前、高橋志織 はおもちゃの銃の銃床で少女の後頭部を直接殴りつけた。

少女は痛みに苦しみ、力が少し緩んだので、伊藤明はすぐに彼女を突き飛ばし、高橋志織 の後ろに隠れた。

「喉が渇いた、誰か助けて、死にたくない!」

少女は全身が感電したように痙攣し、両目にはクモの巣のような赤い血管が張り巡らされていた。

突然、彼女は再び伊藤明に飛びかかった。

伊藤明は悲鳴を上げた後、なんと山田晴香を突き飛ばした。

くそっ!

私は考える間もなく、足で少女を数メートル蹴り飛ばした。

彼女の体の中の何かがさらに速く動き回り、痩せた皮膚にはいくつかの動くこぶが盛り上がっていた。

「どうして…どうして誰も私を助けてくれないの?」

少女の目にはまだ涙が残っていたが、彼女の全身の血はすぐに吸い尽くされた。

元々生き生きとしていた少女は、黒ずんだ干からびた死体になってしまった!

同時に、彼女の目、鼻、口、耳、そしてお尻から、数十匹の肉虫が飛び出してきた。

そして、まっすぐに私たちに向かって突進してきた!

そのとき、群衆の中にいた他の憑りつかれた人たちも我慢できなくなり、次々と私たちに飛びかかってきた。

わずか10平方メートルにも満たない部屋の中は、一瞬にして大混乱に陥った。

うなり声、悲鳴、懇願の声が一つになり、命を奪う悪鬼よりも恐ろしかった。

細かな恐怖が心の中で猛烈に増殖し、私は高橋志織 の手からおもちゃの銃を奪い、銃床で固く閉ざされたガラスのドアを叩き割った。

残った生存者がどれだけいるかなど気にせず、私は振り返ることなく山田晴香の手を引いて外に走り出した。

しかし、外も安全ではなかった。

至る所に血を吸い尽くされた死体が転がっており、血が一片に広がっていた。

干からびた死体から無数の肉虫が這い出てきて、人を見ると血を見たかのように興奮し、私たちに向かってきた。

どうすればいい?

水上楽園全体にまだ安全な場所はあるのか?!

突然、あの見知らぬ番号から再びテキストメッセージが届いた。

【恐れるな!水から離れた寄生虫は人間に近づくことができない!】

8

やはり!

岸に上がった肉虫たちは、私たちの周りをうろついていたが、私たちに近づくことはできなかった。

なるほど。

寄生虫に憑りつかれる条件は、水でなければならないのだ。

だから、最初からメッセージは私に水に入らないように警告していたんだ。

だから、最初に憑りつかれたのは、水に入った人々だったんだ。

こうなると、水源や憑りつかれた人から遠ざかっていれば、私と山田晴香は一時的に安全だ。

私は手の中の銃をしっかりと握り、次から次へと寄生虫に憑りつかれた人々を躊躇なく撃ち殺した。

ある者は血を飛び散らせ、ある者は脳漿を飛び散らせた。

あっという間に、私の体には吐き気を催すような汚物が付着した。

山田晴香は混乱の中で足を捻り、地面に倒れて泣き出した。

「お姉ちゃん、早く逃げて。私のことはもういいから」

私は少し腹を立てた。

「起きなさい!私が死んでも、あんたは死ぬんじゃない!」

家では、山田晴香は成績優秀な優等生だった。

一方、私はどうしようもない人間で、高校すら卒業できなかった。

両親は、山田晴香のように私が出世してくれたら、と何度も言っていた。

もし彼らが選ぶとしたら、ここで死ぬのは私であってほしいと思うだろう。

山田晴香は明らかに呆然としていた。「お姉ちゃん…」

「早く!ぐずぐずしないで!」

私の両腕は痛み始めたが、少しも気を抜くことはできなかった。

ようやく、何人の変異人を殺したか分からないほどになった後、私たちはプールの裏側にある小さな作業部屋にたどり着いた。

そこには水源はなく、干からびた死体と無数の肉虫がいるだけだった。

私と山田晴香の二人だけがいるこの場所ほど安全な場所はなかった。

私が振り返って鍵をかけようとしたとき、伊藤明と高橋志織 がドアの前に立っていた。

二人はひどく汚れていて、伊藤明は靴を片方なくし、整っていた化粧はすでにぐちゃぐちゃになっていた。

彼女は怒り狂ったように私を指差して、高橋志織 に言った。

「陳さん、やっぱりこの人怪しいでしょ。こんな虫を怖がらないなんて!

「彼女は何か知っているに違いない…というか、この寄生虫は彼女が持ち込んだのよ!」

9

作業部屋のドアは高橋志織 たち二人によって内側から鍵がかけられた。

伊藤明は私に一歩一歩詰め寄り、その目には濃密な憎しみが渦巻いていた。

「あなたがおかしいって前から思ってたのよ。こんな状況で冷静さを保てるなんて。

「それに、何をするにも私たちより反応が早すぎる。まるで…

「最初からすべての答えを知っているみたい」

高橋志織 も私をじっと見つめていたが、伊藤明のような憤慨はなく、むしろ少しの畏怖と探求心が混じっていた。

私は心が震え、ポケットの中の携帯電話をこっそりと握りしめた。

メッセージのことは、他の人には知られてはならない!

伊藤明は私の手首を掴み、冷たい声で言った。

「これ全部、あなたがやったんでしょ!

「今すぐやめなさい。じゃないと、絶対に警察に通報してやるから!」

ちっ、本当に頭が単純な奴だ。

通報する前に、電話が話し中じゃないか確認しなさい。

山田晴香は私の後ろに隠れていたが、伊藤明の言葉が攻撃的だったので、彼女を突き飛ばした。

「馬鹿じゃないの、お姉ちゃんに何の関係があるっていうの!

「狂犬みたいに噛みつかないで。そうでなきゃ、容赦しないから!」

「あなた!」

伊藤明は怒って顔を真っ赤にしたが、高橋志織 に止められた。

彼は私に向かって言った。

「今、生存者はどんどん少なくなっています。私たちで内輪揉めしている場合ではないでしょう。

「お互い助け合って、この忌まわしい場所から一緒に脱出するべきです」

私は黙っていた。

高橋志織 の言う通りだ。

外では変異した生存者が増え、生存者は減っている。

その上、私たちは偽装した変異人がいないか見破るのに神経を使わなければならない。

味方が一人増えるのは、確かに損はない。

高橋志織 はまあいいとして、この伊藤明は頭が悪すぎる。それに聖母だ。彼女と協力するのは、ただ死にに行くようなものだ。

そう考えていると、作業部屋のドアがノックされた。

ドアの外からは中村恵美の声がした。

「小明、小陳、中にいるのはあなたたち?

「お願い、中に入れて。お腹がすごく痛いの、もうすぐ生まれそう!」

10

作業部屋のドアは木製だったので、伊藤明はドアの隙間から外を見て、外にいるのが中村恵美であることを確認できた。

「彼女、すごく苦しそうよ。陳さん、私たちは彼女を助けないと!」

高橋志織 は口を固く結んで黙っていたが、しばらくして言った。

「でも、彼女が寄生虫に憑りつかれていないか確信が持てない…」

伊藤明は彼の言葉を遮った。

「そんなことないわ。さっき私たちも気づいたでしょ。変異した人から這い出てきた虫は、人間に憑りつかないのよ。

「それに、彼女はまだ生きてるし、変異した人に噛まれてもいない。

「彼女がかわいそうよ、陳さん、助けてあげて」

そうは言っても、伊藤明はドアから遠く離れた場所に立っていた。

彼女は山田晴香を指差して言った。

「あなた!ドアを開けて!」

私は笑ってしまった。

良い人ぶるのは彼女で、死にに行くのは私たちってわけか。

幸い、山田晴香はそこまで馬鹿ではなかった。彼女は伊藤明に言った。

「中村恵美が呼んでいるのはあなたで、私じゃない」

伊藤明は瞬時に怒りで顔を真っ赤にした。

ドアの外では、中村恵美が力いっぱいドアを叩き続けていた。

「ああああ、寄生虫に憑りつかれた人がこっちに来たわ、小明、早くドアを開けて!私のお腹の中の子供は無実よ、死なせたくない!」

伊藤明も焦り、私たち一人一人を指差して憤慨して言った。

「あなたたち、どうしてそんなに冷酷なの?外には二つの命がかかっているのよ!」

分かった、分かった。彼女だけが優しくて高貴ってわけだ。

私はドアを少しだけ開け、躊躇なく伊藤明を外に蹴り出した。

「そんなに良いことをしたいなら、叶えてあげる」

案の定、伊藤明は耳障りな悲鳴を上げた。

「このクソ女、何をするのよ!」

視界の隅で、私は中村恵美の服の裾がびしょ濡れになっているのを見た。

彼女の髪は乱れて顔にへばりついていたが、伊藤明を見た途端、そのくすんだ目が突然光を放った。

「へへ、小明、喉が渇いたわ。お腹の中の子供も喉が渇いて…」

中村恵美のお腹は、ブティックにいたときよりもさらに大きくなっていて、今にも破裂しそうな風船のようだった。

かすかに、薄いお腹の皮の下で肉虫がうごめいているのが見えた。

何度も何度も、そのお腹をさらに大きく膨らませていた。

ドアが閉まる瞬間、私は伊藤明の悲鳴を聞いた。

「あああああ、噛みつかないで!あなたたちクソども、絶対に許さない!」

11

高橋志織 は目の前の急な事態に怯え、尻もちをついて地面に倒れた。

「彼女…彼女は死んだのか?」

高橋志織 は篩のように震え、股間には濡れたシミができていた。

「お前が彼女を殺したのか?!」

彼は目を丸くして、私をまっすぐに見つめた。

山田晴香は私の前に立って反論した。

「伊藤明が自分で助けに行ったんだ。お姉ちゃんは関係ない!」

私は高橋志織 がどう思おうと気にせず、ただ淡々と言った。

「ここは少しの不注意が命を落とす場所だ。他人のことを考えていたら、自分の死を早めるだけだ。

「彼女はああいう性格で、また私の妹を突き飛ばしたらどうする?私はただ自分を守っただけだ。

「そうでなければ、君が外に出て彼女を助けてやるか?」

高橋志織 は口を固く結び、顔を真っ青にしていた。

しばらくして、彼は私の前にひざまずいて懇願した。

「協力しよう。足を引っ張らないと誓う!

「俺はただ、生きたいんだ…」

生きたい?誰もがそうだ。

私は高橋志織 をじっくりと見て、地面から彼を引き起こした。

正直なところ、私は彼を完全に信用しているわけではない。

こんな環境では、山田晴香以外、誰も信じられない。

私は自分が知っている情報をすべて彼に教えた。

しかし、メッセージのことは一言も触れなかった。

それを聞いた高橋志織 は、明らかに安堵のため息をついた。

「じゃあ、私たち3人がここにいれば安全ってことか?」

私は部屋の壁に這い上がっている肉虫をちらりと見て、ため息をついた。

「一時的になら、ね」

救助隊がいつ来るのか、水上楽園がいつ開放されるのか、私には分からなかった。

もし外の生存者が全員死んで、私たちだけになったら…

この小さな小屋は、数百匹の変異人の攻撃に耐えられるだろうか?

そう考えていると、高橋志織 が私たちに飲み物を2本差し出した。

「こんなに走って喉が渇いただろう。前にブティックから取ってきたんだ。少し飲んで体力を回復してくれ。

「じゃないと、変異人に襲われる前に脱水症状で死んでしまう」

私はその2本の飲み物を見て、心に違和感が浮かんだ。

何かが…見落とされているような気がした。

山田晴香はまだ恐怖の中にいて、唇はすでにひび割れていた。彼女は何も考えずに水を受け取った。

彼女が蓋をひねろうとしたとき、私のポケットの中の携帯電話がまるで爆発するかのように激しく振動した。

開いてみると、画面にはびっしりと3つの文字が繰り返されていた——

【彼女に飲ませろ!彼女に飲ませろ!彼女に飲ませろ!】

12

突然、私の頭の中で閃光が走った。

何かが映画のように頭の中で再生された。

瓶の蓋がひねられそうになったとき、私は山田晴香の手を掴んだ。

瓶の中の水がわずかに揺れた。

私は顔を高橋志織 に向けて、鋭い目つきで言った。

「水の中に寄生虫がいるんだな?」

13

高橋志織 の瞳孔が急激に収縮した。

分かった、私の推測は正しかった。

最初、あの見知らぬメッセージは、私が水に入るのをひどく恐れていた。

そして、水の中に恐ろしい寄生虫が現れた。

私は当時、念入りに確認したが、水の中には何もいなかった。

しかし、人体から落ちてきた肉虫は前腕ほどの太さだった。

それは一つのことしか説明できない。寄生虫の幼体は、水の中では形がなく、目に見えないのだ。

水流に乗って人体に入ると、血液で栄養を得て急速に成長し、あの吐き気を催すような肉虫に変わるのだ。

そして、さっき私は高橋志織 に、肉虫は水源から離れると何もできないと教えた。

すると彼は、私たちに2本の水を差し出してきた。

あまりにもタイミングが良すぎる!

見破られたことを知ると、高橋志織 は焦りもせず、笑いながら言った。

「やるな、山田優希。見くびっていたよ。

「でも、不思議だね。どうしてこんな情報を知っているんだ?

「僕たち数人しか知らないはずなのに…」

そう言いながらも、彼の笑顔はますます深まっていった。

まるで人を食べる悪鬼のようだった。

「じゃあ、君たちには仲間がいるんだな?」

私は後ろにいる山田晴香をちらりと見て、窓の外を見た。

まさかこんな些細な行動も高橋志織 に見抜かれていたとは。

「救助を待っているのか?」

彼は体を横にずらし、外の状況を私にはっきりと見せた。

変異人の数はほとんど変わっておらず、地面に倒れている干からびた死体はすべて生存者のものだった。

「君たちに逃げ道はない」

彼の声はとても静かだったが、どこか嘲笑が混じっていた。

私は山田晴香の手を握りしめ、強がって尋ねた。

「どうして寄生虫を持ち込んだんだ?

「こんなことをして、君たちに何のメリットがある?」

高橋志織 は目を伏せてタバコに火をつけた。薄暗い光の下で、それは血を流すホタルのようだった。

「ふん、妹が君に言ったんじゃないのか?

「僕と友人たちは、研究所で軽んじられていた大学院生だったが、幸運にもあの外国のサンプルを手に入れた…」

彼は話しながら笑い始めた。

「へへへ…この騒動が大きくなれば、僕たちが解毒剤を開発すれば…

「もう誰も僕たちを見下すことはない!

「僕たちこそが、世界を救うヒーローなんだ!」

私は信じられない思いで、二歩後ろに下がった。

狂っている!

彼は完全に狂っている!

14

「自分たちの虚栄心のために、こんなに多くの人を殺したのか?!

「ここに遊びに来ていたのは子供が多いのに、よくそんな残酷なことができたな!」

高橋志織 は肩をすくめ、平然と言った。

「どうせ水上楽園の水は汚くて、何年も交換されないんだ。

「僕たちはただ流れに乗っただけで、この件の後、全国の水のアトラクションが衛生管理に気を配るようになるかもしれない。

「僕たちは知らないうちに良いことをしたんだよ」

彼はクスクス笑い、その目の奥には隠しきれない狂気があった。

「このクソ野郎、夢でも見てろ!」

高橋志織 が自画自賛している隙に、私はこっそりと自分の飲み物の蓋を開け、彼の頭から水をかけた。

しかし、彼はまるで予期していたかのように、体をかわして避けた。

飲み物は私の向かいの壁にかかり、飛び散ったわずかな水滴も彼にはかからなかった。

そして、彼は私に突進してきて、一発で私を地面に蹴り倒した。

腹部がナイフで切られたように痛かった。

高橋志織 は勢いに乗って、私の顔に拳を振り下ろした。

私が体を横に転がすと、拳は地面を叩いた。

私はわずかに骨が砕ける音を聞いた。

これは絶対に痛いだろう。高橋志織 の心は怒りで満ちているに違いない。

案の定、私が地面から起き上がるとすぐに高橋志織 に髪を掴まれ、力いっぱい後ろに引っ張られ、私は激しく地面に倒れた。

高橋志織 は私を壁に押しつけ、何度も私の顔を平手打ちしながら、口汚く罵った。

「このクソ女、お前さえいなければ、僕たちの計画はとっくに成功していたんだ!

「言え、一体誰が裏で情報を漏らしたんだ?!」

私は何度も平手打ちされて目がくらみ、口の中の血の味がどんどん濃くなった。

しかし、私の口元の笑みは止まらなかった。

高橋志織 は少し戸惑い、ついに手を止めた。

私は言った。

「これらのことを知っているのは、君たちのグループの数人しかいないだろう。

「ここで私を殴るよりも、その人が僕にだけ情報を漏らしたのか、それとも

「とっくにすべてを警察に話しているのか、よく考えたほうがいい。

「高橋志織 、園が開いたとき、君を待っているのは警察かもしれないぞ」

私の言葉は案の定、高橋志織 をだまらせた。

彼は一瞬呆然とし、つぶやいた。

「まさか吉田悟 (よしだ さとる)じゃないだろうな、一番付き合いが長いのに…もしかして斎藤か、くそ、いつも女のことばかり考えているバカは秘密を守れないって分かってたんだ…」

彼は短時間で、私がまだ彼の手にいることを忘れていた。

同時に、私は高橋志織 の後ろをちらりと見て、笑いながら言った。

「高橋志織 、寄生虫の解毒剤はまだ開発できていないんだろう?」

高橋志織 は不思議そうに私を見つめ、そして、彼の瞳孔はどんどん大きくなっていった。

彼が何かに気づいたときには、私はすでに全力を出して彼の股間を蹴り上げていた。

彼は魂を失ったかのように痛みに叫び声を上げた。

彼が手を放した隙に、私はすぐに横に身をかわした。

そして、彼の後ろでは、山田晴香が窓から引き込んだ水管を持って、高橋志織 に一気に水を浴びせた。

「お姉ちゃんをいじめるなんて、命はないものと思え!」


15

私にとって、泣いてばかりいる山田晴香よりも、私の方が高橋志織 にとって脅威だったのだろう。だから、私が彼に話しかけている間に、私は山田晴香に窓の外に水道管があることを示唆した。その水道管はプールの水と繋がっていた。混乱に乗じて窓を少し開ければ、水道管を引き込むことができる。私の役目は、高橋志織 の注意をずっと私に引きつけておくことだった。水道の蛇口をひねると、水道管から水が噴き出し、高橋志織 の全身を濡らした。

「山田優希、お前を殺してやる!」

凄まじい叫び声が空中に響き渡り、まるで怨霊の叫び声のようだった。高橋志織 は必死に喉をかきむしり、飲み込んだ水をすべて吐き出そうとした。しかし、もう手遅れだった。彼は私よりもよく知っていた。ここのプールの水に触れただけで、目に見えない寄生虫が彼の七竅(目、耳、鼻、口)から入り込んでしまうことを。

おそらく今頃、血に育まれた肉虫はすでに形を成しているだろう。彼はついに、寄生虫に憑りつかれた人々の苦しみを身をもって体験できるようになったのだ。これらはすべて、彼の報いだった。

16

仕事部屋から出たとき、山田晴香はにこにこしていた。

私が尋ねた。

「足首をひねっただけで、頭までやられたわけじゃないだろう?何をにやにやしているんだ?」

山田晴香は親しげに私の腕を絡め、優しく言った。

「お姉ちゃん、私たち、さっきすごく息が合ってたね!お母さんが言ってた通り、私たちには生まれつきテレパシーがあって、お互いを理解できるんだ」

はぁ、まさかお母さんとこの優秀な山田晴香まで、そんなことを信じるとは思わなかった。

山田晴香は突然何かを思い出したように、私の手を強く引っ張った。私が耳を近づけると、彼女は声を潜めて言った。

「でも、お姉ちゃん、寄生虫のこと、どうしてそんなに詳しいの?」

私はあたりを見回した。私たちがいるのは滑り台の入り口で、水からは遠く、周りには干からびた死体しかなかった。寄生虫に憑りつかれた者たちは、まだ岸で人々を捕まえることに夢中になっていた。周りが安全であることを確認した後、私は山田晴香にメッセージのことを一部始終話した。

山田晴香がこれらのメッセージを見たとき、彼女は一瞬ぼんやりした。

「この文章、どこかで見たような…」

その時、私はただ逃げることだけを考えていて、この言葉を注意深く聞く暇はなかった。

私が立っている場所は、この公園で最も高い場所で、あらゆる場所を見渡すことができた。

私は言った。

「高橋志織 は片付いたけど、彼にはまだ仲間がどこかに隠れているはずだ。彼らは何としてでも生き残ろうとするだろうし、私たちを見つけたら口封じをするに違いない。だから、彼らが口封じをする前に、私たちが先に彼らを始末する方法を考えないと」

私は喉が渇くまで話したが、何の返事もなかった。振り返ると、山田晴香というこの生意気な子はまだメッセージをじっと見ていた。私が指を鳴らすと、ようやく彼女の目が私に焦点を合わせた。しかし、彼女は質問に答える代わりに言った。

「お姉ちゃん、メッセージはあの水を飲むように言ってたのに、どうして信じなかったの?」

そのことに関しては、私も不思議に思っていた。システムにエラーが起きたのだろうか?なぜメッセージは間違った情報を送ってきたのだろう。もし私がすぐに気づかなかったら、山田晴香はきっと…。

私は彼女から顔を背けて言った。

「だって、お前は私の妹だからだ」

山田晴香の指先が震え、目が赤くなった。

「逃げよう」

彼女が突然つぶやいた言葉に、私はさらに戸惑った。

「ここからどうやって逃げるんだ?」

山田晴香はあたりを見回し、言った。

「ついてきて!」

なぜか、今の山田晴香は少しおかしいと感じた。彼女はいつも優柔不断で、怖がると泣くばかりだった。しかし、今は信じられないほど冷静で、まるでここの地形を熟知しているかのようだった。しかし、一瞬のうちに、彼女はまるで別人になったかのようだった。

しかし、私には深く考える時間がなかった。どんなに変わろうと、彼女は私にとって悩みの種である妹であることに変わりはないだろう?

17

山田晴香が選んだのは、水上楽園の廃墟となった裏口だった。普段は誰も立ち入らないため、雑草が生い茂り、ドアはほとんど隠れていた。公園の観光客は、このドアの存在に気づいていないはずだ。山田晴香はいつこのドアを見つけたのだろうか?

木の葉や雑草をかき分けると、錆びたフェンスに電線が張られているのが見えた。私は少しがっかりした。

「前門と同じだ、逃げられないよ」

山田晴香は腕時計を見て言った。

「この電線は時々調子が悪くなるの。作業員たちは裏口は廃墟だから修理しなくてもいいと思ってるんだ。お姉ちゃん、私たちは賭けるしかない。この電線が今、壊れているかどうかを!」

山田晴香は終始信じられないほど冷静だった。

私は驚いて彼女を見つめた。

「いつからここにそんなに詳しくなったんだ?だって…」

だって、寄生虫が発生して以来、山田晴香は一度も私のそばを離れていない。彼女は一体どうやってこのドアを見つけたのだろう?

話している間に、血を吸い尽くしたばかりの変異者がちょうどこちらを見た。距離は遠かったが、それでも彼はこちらの異変に気づいた。彼は大声で叫び、他の変異者たちと一緒に私たちに向かって走ってきた。

「もう時間がない、何かあったら外に出てから話そう!」

そう言うと、山田晴香は私をドアに向かって突き出した。私もこだわる人ではないので、それを見てすぐにフェンスを登り始めた。半分以上登ったが、電線は作動しなかった。

どうやら、この賭けは正しかったようだ。

私が山田晴香よりも先に一番上まで登り、彼女に手を差し伸べた。しかし、突然、全身血まみれで髪が乱れた女性も一緒に登ってきた。彼女は山田晴香の足をしっかりと掴んでいた。

よく見ると、その女性の首は大きな肉片が食いちぎられ、血管だらけの筋肉がかすかに脈打っていた。まさか…伊藤明だ!彼女はまだ生きていたのか!?

18

「逃げられると思うな!ありえない!」

伊藤明は山田晴香を下に引きずり降ろそうと力を込めた。山田晴香は必死に足を振り払った。しかし、彼女はまるでガムのように山田晴香にしっかりとくっついていた。

「くそっ!」

私が飛び降りようとしたその時、山田晴香は力を込めて足を蹴った。ついに、伊藤明は地面に落ちた。しかし、私たちには安堵する暇はなかった。なぜなら、その時、寄生虫に憑りつかれた者たちがドアの下に駆けつけてきたからだ。

私たちを見ると、彼らはまるでネズミが猫を見たように、興奮した顔をしていた。伊藤明も逃げられず、彼らに地面に押し付けられ、またかみつかれた。破裂した血管から血が飛び散った。しかし、彼女は笑っていた。狂ったように笑っていた。

「どうせ死ぬなら、お前たち姉妹を道連れにしてやる。私が苦しいなら、誰にも楽はさせない!」

すぐに、彼女の体は変異者に覆い尽くされた。彼女の血さえも見えなくなった。

残りの変異者たちは素早くドアを登り始めた。一人上がってくるごとに山田晴香が一人蹴り落とした。しかし、彼女の力は弱く、一人でこれほどの数の変異者に抵抗することはできなかった。このままでは、彼女は遅かれ早かれ怪我をするだろう。

私は迷わず飛び降りようとしたが、山田晴香が私に向かって叫んだ。

「降りないで!」

彼女が顔を上げた瞬間、私は凍りついた。澄んだ瞳には涙があふれ、震える声で彼女は言った。

「お姉ちゃん、お願いだから」

私が呆然としている間に、突然、全身に電気が走った。私はしっかりと掴むことができず、電線に感電して外に投げ出された。

ちょうど、鉄のドアの外だった。

投げ出された瞬間、変異者と私の妹も感電したのを見た。私の妹が地面に倒れるとき、彼女の唇はかすかに動いていた。意識が遠のきそうになったとき、ようやく彼女が声なく言った言葉を思い出した。

「ついに、今度こそ私があなたを守れたね」

19

「山田晴香!」私は突然目を開けた。

目が覚めると、私は病院にいた。両親が私のベッドの前に立っていて、目に涙をためていた。彼らはひどく痩せ、髪も白くなっていた。

私は彼らが私を恨んでいるのではないかと思った。しかし、彼らはただ私を抱きしめて泣いた。「生きていてくれてよかった、生きていてくれてよかった…」と。

警察は、高橋志織 の仲間は全員逮捕されたと私に告げた。寄生虫に憑りつかれた人々については、専門家たちの努力の結果、ついに解毒剤が開発された。

生活は元に戻ったようだった。

ただ、山田晴香は死んでしまった。私を外に逃がすために、彼女は死んだのだ。

家に帰ると、両親は山田晴香の持ち物をすべて片付けていた。私が思い出して悲しまないように。

しかし、清華大学・北京大学の合格通知書が家に届くと、彼らは山田晴香の名前をなぞりながら、やはり泣き出してしまった。

私だけが泣かなかった。私はただぼんやりとその通知書を眺め、言葉を失っていた。

ある日、私の携帯電話がベッドサイドの隙間に落ちた。手を伸ばして取ろうとすると、私は黄色くなった一冊の日記帳に触れた。山田晴香のものだった。きっと母が片付けた時にうっかり落としたのだろう。

日記帳はとても厚かった。私は最初のページを開いた。日付は5年前の、ごく普通の日だった。

山田晴香はこう書いていた。【これはお姉ちゃんが私に初めてくれた日記帳だから、大切に保管しないと!】ああ、その時、山田晴香は学期末試験で100点を取ったと私に言った。私はあまりお金を持っていなかったので、彼女が何を好きかわからず、道端で適当に買った10元の日記帳だった。彼女はこんなにも大切にしていたのか。

…あるページが私の注意を引いた。

日付は私の誕生日だった。

【お姉ちゃんの誕生日と私の誕生日を組み合わせて暗号を作ったの。お姉ちゃんには、これは私たち2人の合図だから、絶対に覚えておくように言ったわ】

私はその見慣れた数字を見て、心臓がドキリとした。

これは、私にメッセージを送ってきた見知らぬ電話番号ではないか?!

私は震える手でページをめくり続けた。

日記の最後のページは、私たちが水上楽園に行く前日だった。

【お姉ちゃんが水上楽園に連れて行ってくれるって約束してくれた!表面上は私が面倒くさいって言ってるけど、本当は誰よりも私のことを大切に思ってるって知ってる。お母さんに、私を清華大学・北京大学に行かせるための学費を貯金したって言ってるのを聞いたわ。お姉ちゃんは、自分が思っている以上に私のことを愛してるんだ。だから、私も頑張って強くなって、これからは私が守ってあげる!】

この瞬間、私は多くのことを理解したようだった。

「馬鹿、馬鹿…」

私はその見慣れた筆跡をなぞり、突然、一滴の涙が落ちた。インクが滲んでいった。

これは、私が水上楽園から逃げ出して以来、初めて泣いたのだった。

「どうしてそんなに馬鹿なの…馬鹿…」

しかし、部屋にはもう彼女のうるさい声はなかった。私の妹は、私を生きさせるために、誰よりも勇敢な決断を下したのだ。

20. 番外編・山田晴香

私は小さい頃から泣き虫だった。

食べたいものが食べられなくて、泣いた。

お姉ちゃんのおもちゃで遊べなくて、泣いた。

お姉ちゃんに少し大声を出されても、泣いた。

お姉ちゃんはいつも、もううんざりだと言っていた。もし来世があるなら、私のような面倒くさい妹は欲しくない、と。

お姉ちゃんは勉強が好きじゃなくて、両親も無理強いしなかった。ただ、幸せでいてくれればいいと。

でも、私は小さい頃から勉強の才能があったので、両親はとても喜んだ。どうしてもお姉ちゃんを少しけなすようなことを言ってしまった。

私は知っていた。彼女はもっと私のことを嫌いになった。

あの日、私はお姉ちゃんに3日間お願いして、ようやく水上楽園に連れて行ってもらう約束をした。

お姉ちゃんは私が遊びたいからだと思っていたが、本当は彼女が教科書に挟んでいたチラシを見たからだった。

私は、彼女が水上楽園にとても興味を持っていることを知っていた。

私たちが初めて行ったとき、私は動作が遅く、私が水着に着替えている間に、お姉ちゃんは水に入ってしまった。

その後、彼女は水の中の他の人々と一緒に、正体不明の寄生虫に憑りつかれた。

私は彼女に最も近い場所にいた。彼女は私の血を先に吸うこともできた。しかし、彼女は体の中の寄生虫が操る衝動を必死に抑え込んだ。

彼女は私を段ボール箱の中に隠し、数冊の本で箱の口を塞いだ。

私は警察が救助に来るまで耐え抜いたが、お姉ちゃんはすでに干からびた死体になっていた。

両親は泣きすぎて気を失いそうになったが、私が余計なことを考えないように、私を抱きしめて慰めてくれた。

「生きていてくれてよかった、生きていてくれてよかった!」

しかし、これらの言葉は私の心の悲しみを消すことはできなかった。

私は何度も夜中に自問自答した。なぜ私が姉を守れなかったのだろう?なぜ生きているのが私なのだろう?

そして、目が覚めると、また水上楽園に行く日だった。

しかし、私は実体を持たず、誰も見ることのできない幽霊だった。

私はその時の私が水着に着替えるのを見て、お姉ちゃんが水に入るのを見て、寄生虫を見て、お姉ちゃんが私を守るのを見た…。

また、お姉ちゃんは死んだ。

…これは私が101回目のループだった。

私が携帯電話のSIMカードのない携帯電話を操作できることに気づいたとき、すぐにメッセージでお姉ちゃんに警告を送った。

私はこの100回以上の経験と警告をすべて彼女に送った。

そして、その空間の私は、相変わらず泣き虫だった。

まったく、お姉ちゃんを心配させないようにできないのかしら?

幸い、今回はお姉ちゃんが私のヒントのおかげで、危険からどんどん遠ざかっていった。

その時、高橋志織 がその空間の私に水を差し出したとき、私はお姉ちゃんに構わないでほしかった。

なぜなら、この何百回ものループで、私はあるきっかけを掴んでいた。半死の状態になって初めて、私の魂を見ることができるのだ。そうすれば、私はその時の私とコミュニケーションを取り、お姉ちゃんを助けてもらうことができる。

しかし、賢いお姉ちゃんはすぐに違和感に気づいた。

その後、お姉ちゃんがその私にメッセージを見せたとき、何百回ものループの記憶がすべて彼女の脳裏に蘇った。

彼女は私を見ることはできなかったが、私がここにいることを知っていた。

彼女は以前私が探した記憶を頼りに、裏口を見つけた。

結局、彼女は逃げられなかったが、幸い、お姉ちゃんは感電して外に投げ出された。

変異者たちは彼女の血を貪欲に吸い、ゆっくりと彼女の目はぼんやりとし、まっすぐに私を見つめた。

彼女はついに私を見ることができたのだ。

彼女は笑った。

「ついに、お姉ちゃんを救えたね」

私はドアの外に到着したばかりのパトカーを見て、安堵のため息をついた。

警察がいれば、お姉ちゃんが中に入ろうとしてももう遅い。

その時の私のうめき声はどんどん小さくなり、私の手足もゆっくりと消えていった。

お姉ちゃん、あなたはいつも知らなかったけど、両親は、ある面では私よりもあなたの方がずっと賢いと言っていたんだよ。

だから、この小さな秘密は、あなたが一生気づかないでいてくれることを願っている。

安心して残りの人生を過ごして。

永遠にあなたを愛している。

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