1.不思議なカード。
ここから第1章。
「……ふわぁ」
「おはよ……わ、大きな欠伸! 星野さん、もしかして寝不足?」
「んー、そうね。ちょっとだけ、夜は遅かったかも」
その日、私が登校して席に着いた時。
先にきていた宮原さんが、挨拶もほどほどにそう訊いてきた。寝不足かどうかで聞かれれば、実のところ三時間ほどしか寝ていない。
今日は小テストがあると聞いていたけど、大丈夫かな……。
「もしかして、勉強してたの? 小テストの」
「……え、えぇ。そんなところよ」
そう考えていたら、親友はそう首を傾げて言った。
私はとっさにそう答えたが、実際はまったく理由が違うので恥ずかしい。だからといって、正直に答えるわけにはいかなかった。
だって、言えるはずがない。
明け方までずっと『厨二病的な設定を練っていた』なんて。
「すごいなぁ、星野さん。いつも一生懸命だから、成績も良いんだね!」
「あ、あはは……」
そんな私に、純粋無垢な憧れの眼差しを向ける宮原女史。
これといって悪事を働いているわけでもないのに、この溢れ出る罪悪感はなんだろう。すみません、私は運が良いだけなのです。
なんとなく『ここが出題されそう』と思ってたら、本当にそうなるだけなのです。
勝手に『天啓』と呼んでいるこんな幸運が、いつまで続くか分からない。そのため、そろそろしっかり予習復習はするべきかもしれなかった。
「んー……でも、疲れてるなら次の機会かな……?」
「次の機会? もしかして、また占いかしら」
そんな冷や汗を拭っていると、宮原さんは不意にそう口にする。
もしかしたら、意中の殿方と何かあったのかもしれない。そう思って訊ねると、彼女はしばらく考え込んでから言った。
「ううん。これは占いというより、純粋な相談、になると思う」
「……純粋な、相談?」
私が首を傾げると、気遣いを諦めたらしい。
親友は意を決したように一枚のカードを取り出して、こちらに見せてきた。そこに描かれていたのは、不揃いだが統一性を感じさせる不思議な図形。
見ようによっては『魔法陣』にも受け取れた。
それを手に取ると、何やら背筋が凍るような錯覚に襲われた。
「あのね、例の人が最近それを何枚も持ち歩くようになってね? なんというか不気味だったから、もしかしたらカルトじゃないか、って……」
「なるほど。それで私に相談、ってことね?」
「うん。星野さんたしか、オカルト研究会でしょ? えっと……干し鮎の発射?」
「星闇の覇者、ね?」
「あ、それそれ! そこに詳しい人いないかな、って!」
……ふむむ、なるほど。
私は一通り彼女の話を聞いてから、しばし考えた。たしかにオカルト研究会であれば、こういった類の情報は集まりやすい。だけども私のいる『星闇の覇者』は、各々の妄想を語らうだけの集団。
果たして、その中でカードの正体を見つけられるだろうか……。
「どう、かな……?」
「……そうね。今日の放課後だけ、このカードを借りても良いかしら」
そうは思ったけど、他でもない親友のお願いだった。
ここで手を引くようでは到底、宮原さんからの『恩』に報いることはできない。
私は一つ覚悟を決めて、彼女にそう訊ねた。すると親友は不安げな表情から、一気に花のような笑顔になって頷く。
「ありがとう、星野さん!!」
そして、心の底からの感謝を口にするのだった。
こうなったら何が何でも、星屑のみんなから協力を得ないといけない。私はそう決心して、宮原さんに頷き返したのだ。