4.一方その頃、御令嬢。
ここまでオープニング。
「ふわぁ……あ、おはよう。お父様」
「おはよう、玲華。今日は悪いけど、先に朝ごはんいただいたよ」
――翌朝。
私が目を覚ましてリビングへ向かうと、お父様がすでにスーツ姿になって新聞を読んでいた。どうやら、今朝は昨日と違って忙しいらしい。テーブルに置かれている二人分の朝食は、片方がすでに平らげられていた。
そのことをかすむ目で確かめてから、私はお父様に応える。
「ううん。今日は遅くなりそう?」
「あー……どうだろうな。少し読めないかもしれない」
「もしかして、お仕事先でトラブルとか?」
そのついでに訊ねると、お父様はちょっとだけ難しい表情を浮かべた。
そして、新聞を綺麗にたたみながら事情を口にする。
「実は大きなプロジェクトを預けていた相手が、事故に遭ったらしくてね。その代役を立てたり、取引先の相手との日程調整とか……」
「あぁ、本当にお疲れ様な感じだ」
「そんな感じだから、今日は遅くなるかもしれない」
お父様は申し訳なさそうに頭を下げていた。
しかし、こういったことは、もう慣れっこになっている。
「大丈夫、気にしないで。お手伝いさんもいるし、夕食は何とかする」
「悪いな玲華……っと、もうこんな時間か。それじゃ、行ってきます!」
私が努めて笑みを浮かべて言うと、彼は心の底からの謝罪をしていた。
だけど時計を見ると、それも吹き飛んでしまったらしい。襟を正しながら、パタパタと出て行ってしまった。本当に我が家の大黒柱は、時間に追われている。
そんな足音を耳で追いかけつつ、私は小さく息をついた。
「……そっか、今日は――」
そしてふと、カレンダーを見て気付く。
お父様が申し訳なさそうに、そして寂しげに語っていた理由に。
「お母様の、誕生日」
今日は私がまだ幼い頃、事故で亡くなってしまった母の誕生日だった。
そんな日に仕事の関係者が事故に遭ってしまうなんて、お父様はおそらく心中穏やかでなかったと思う。それと同時に、毎年一緒に祝っていたささやかな時間も、失われてしまった。
私はそんなことを考えながら、椅子に腰かけてテレビのリモコンを取る。
電源をつけると、いつもと変わらぬニュース番組が流れ始めた。
『えー……次のニュースです』
私はぼんやりとしながら、用意されている食事を一口。
『昨夜未明、郊外で事故が発生しました。被害男性は外国籍の男性、ニックス・アルフレッド氏。監視カメラのない見通しの良い道で、飲酒運転をしいた容疑者の車両に轢かれたらしく、その場で死亡が確認されました』
すると、いきなり何やら凄惨な情報が飛び込んできた。
しかもまた『事故』だという。
「…………世の中、物騒ね」
私はそんな偶然に眉をひそめつつ、思わずそう呟いた。
何の変哲もない、忙しない朝。
ただ少しだけ珍しく、ニュースの出来事を身近に感じる朝なのだった。
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