3.闇の中の戦い。
――夜の帳は下りた。
日常の世界は漆黒に包まれ、非日常に生きる者たちが活動を始める。
「はぁ、はぁ……! はっ、ははは! バカな奴らめ!!」
ビルが立ち並ぶ都内の街並み。
その中を息を切らしながら駆け抜け、周囲に人がいないことを確認してほくそ笑む男性がいた。異国からやってきたのであろう黒いスーツ姿の彼は、大切そうに革の鞄を抱きしめている。
相当に興奮しているのが見て取れた。
いまの彼を一般人が認めれば、少なくとも二度見してしまう。場合によっては不審人物として、通報されても何ら不思議ではなかった。
「こ、ここまでくれば……!」
そんな男性が辿り着いたのは、かつてこの国で最も高いとされていた電波塔。
暗がりでも分かりやすい赤色をライトで照らし、屹立する様はまさに象徴といって良いと思われる荘厳さだった。異国出身である彼も、その迫力に思わず息を呑む。
これ自体は近代の建造物ではあるが、もしかしたら何か魔的な要素があるのかもしれない。事実として、男性はその『赤』に魅了されていた。
「はは、はははは! なるほど、これが――」
そして、何かを口にしようとした。
その時である。
「見つけたぞ、哀れな教団員よ」
「……な、にっ!?」
ひときわ暗い物陰から、鷹の面を被った男が姿を現したのは。
いいや、一人ではなかった。いつの間にか男性は、白い面を着用した者たちによって取り囲まれている。まるで足音一つなく、彼らは高揚感に満ちた彼を嘲笑っていたのだ。その不気味さは、おそらく彼にしか分からない。
それを示すように、男性は手にした鞄をさらに強く抱きしめていた。
彼のそんな様子を確認したのだろう。
鷹の面を被った男は、低い声でこのように告げた。
「どうやら、それが今回の『鍵』……ということか」――と。
その言葉に、男性は引きつった笑みを浮かべる。
決して正否を口にすることはない。しかしその表情は、他の何よりも相手の発言を肯定しているようでもあった。そして彼は、震える声でこう訊ねる。
「貴様らは、何者だ……?」
「我々か? ――そうだな。冥途の土産に、教えてやろう」
すると鷹の面の男は、どこか相手を嘲笑するように。
「我々の名は『星闇の覇者』――」
かつ、威厳を示すかのように答えるのだった。
「真に『星闇』を理解し、陰から世界を支配する存在だ」――と。
漆黒の世界に、その声は高らかに響き渡った。
男性はそんな鷹の面の言葉に対して、明らかな動揺をみせる。そして、
「どうして、貴様らが『星闇』を知っている……?」
震える声で、さらにそう続けた。
しかし鷹の面の男は、小さく笑った後にこう口にする。
「貴様が知る必要はない。すべては、我らが覇者様の御心のままに」
「覇者、だと……? いったい、何を言っている」
「すでに答えた。貴様が知る必要はない」
そして、困惑する男性に告げた。
「その『鍵』……渡してもらおう」
「……なっ!?」
――瞬間、鷹の面の男の姿が掻き消える。
男性が驚愕した直後、すでにその姿は彼の眼前にあり――。
「気付かなかったのか? たとえ夜といえど、人気があまりにもない、という不自然さに」
「ひ……!?」
「貴様は逃げているつもりで、私の『結界』に足を踏み入れていたのだ」
「が、は……!!」
どこから出現したのだろうか。
いくつもの長い十字架を模した剣が、彼の胴を貫いていた。回避不可能の攻撃によって男性は力なく倒れて、やがて息絶える。
鷹の面の男はそれを見下ろし、しかし関心をすぐに鞄へと向けた。
慎重にそれを開くと、彼はこう小さく言うのだった。
「なるほど……塔の正位置が意味するのは、予期せぬ変化。我々の失態も、そして新たな手掛かりを得ることさえ、覇者様は見通しておられたのだ」――と。
鞄を他の星屑に手渡しながら、鷹の面は感嘆の声を漏らす。
そして、夜空の星々を見上げて呟いた。
「覇者様はやはり、底の知れぬ御方だ」――と。
覇者様、そこまで考えてないと思うよ。
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