2.星闇の覇者。
――『星闇の覇者』というのは、要するにオカルト研究会の名前。
私の趣味が高じて設立されたのだけれど、あっという間に人員が増えてきた。定期的にこうやって会議、すなわち『星屑の審議会』を開いている。私の厨二病的な妄想から端を発した世界観を共有し、世界の様々な陰謀について語り合っていた。
いまではこうやって、みんなが私を『覇者様』と崇めてくれる。
設定とはいえ、これはこれで楽しかった。
「さて、此度はどのように星が動いたのかしら?」
私はソファーの腰かけ、頬杖をつきながら意味深に微笑む。
すると部員こと『星屑』のみんなは一度、緊張したように息を呑んだ。そういったアドリブも、実にいい。最近では星屑たちも、演技が堂に入り始めていた。
そうして、しばしの沈黙が流れた後――。
「大変申し訳ございません、覇者様。……星屑の一人が、下手を打ちました」
「…………まぁ、いいわ。ひとまず聞きましょう」
星屑の中でもリーダー的なポジションに立つ『鷹の面』は、その重苦しい空気を破るようにして発言する。
何やら深刻な様子ではあるけれど、いったいどうしたのだろうか。
私はあえて間を空けてから、抑え気味な声のトーンは変えずに答えを促した。
すると鷹の面は、ゆっくりと口にする。
「追跡していた教団員を逃がし、その行方を見失いました」――と。
一部の星屑には知らせていなかったのだろう。
瞬間、オカルト研究会の部室にどよめきが起こった。中には責任を追及する声もあったが、私はそれを制するようにして手を上げる。
それを見た星屑たちは、ハッとしたのか、再び静かに頭を垂れた。
その様子を確認してから私は、鷹の面に訊ねる。
「それで、鷹……? 貴方は私に、どうしてほしいのかしら」
「…………それは、わたくしの口からはとても――」
「構わないわ。いまだけ、許しましょう」
言いよどむ彼の言葉を遮って、私はそう言った。
すると鷹の面は、
「――あぁ、慈悲深いそのお心に感謝いたします」
片膝をついて、他の者よりもいっそう深く頭を下げる。
それを見た星屑はみな、その姿に倣うのだった。
その光景に、私は意識的に口角を上げる。
「では、改めて訊くわ。……貴方は私に、どうしてほしい?」
そして再度、鷹の面に同じ問いを投げた。
彼はそれでも畏敬に溢れた態度を崩さないまま、こう進言したのだ。
「どうか覇者様の『幻星の詔』のお力をお貸しください」――と。
それには、私と彼を除く誰もが息を呑む。
分かってはいた。だが、口にするのも怖ろしい、とばかりに。
しかし私はその言葉に対して、怒りを見せることはしない。むしろ――。
「く、くく、くっくくくくくくく……!」
堪えるように笑った後、このように返すのだった。
「……えぇ、えぇ! 良いわ、特別に赦しましょう!」
大袈裟に空いている方の手を払って、これでもかと星屑たちを見下すように。
その振る舞いに対して、普通であれば顰蹙を買う場面だ。だけどこの場に集まっているのは、そういった空気が大好きな人たちばかり。むしろ私の態度に威厳すら感じたようで、どこか恍惚とした声すら漏れていた。
そんな部員たちに満足して、私は懐に仕舞っておいた『タロット』を取り出し、無作法に目の前のテーブルにぶちまける。当然、意味なんてない。
ただ、その後のセリフには意味があった。
「さぁ……星よ、我に導きを示しなさい――」
払った手で片目を覆い、邪悪な笑みを浮かべながら。
「この目に映るは、星闇の真実……!」――と。
その言葉を口にした瞬間。
私の視界は一瞬、本当に束の間の暗転をした。そして、
「ふ、ふふ……哀れな者たちだこと」
「…………覇者様?」
次に視界が戻った時、私は第一声にそう口にする。
その意図が汲み取れないらしい鷹の面は、少しだけ探るように言った。だけどそれを無視して、私はぶちまけた『タロット』の中から、それっぽいのを探す。
えーっと……あ、これなんか良いんじゃない?
「ここへ向かいなさい」
「これは、塔……ですか?」
私が鷹の面に差し出したのは、塔のイラストが描かれたもの。
彼に向かって正位置で出したけど、何度も言うが、私はその意味がまったく分からない。ただ、こちらが言いたいのは一つだけだった。
「この都市にはかつて、国家を代表する鮮血の塔があった」
――まぁ、要するに某電波塔の付近を探せ、ってこと。
私がそう告げると、鷹の面も納得したらしい。
「……やはり、覇者様は素晴らしいお方だ」
そう一言すると、おもむろに立ち上がって他の星屑に告げた。
「聞いたか、親愛なる星屑たちよ! ここに我々の向かうべき道は示された! 今宵こそは愚かな教団に、裁きを!!」――と。
喝采はない。
だが、その場の誰もに異存もなかった。
星屑たちは『覇者様に栄光を!』と声を揃えた後、続々と部屋を出て行く。
「それでは、覇者様。……わたくしも、これにて」
「えぇ、速やかに」
「御意」
最後に残った鷹の面も、そう言い残して出て行ってしまった。
私は彼らを見送ってから一つ、
「ふわぁ……」
思わず気が抜けて、欠伸をしてしまう。
そして程よい眠気を感じながら、こう言うのだった。
「本当に、みんなノリが良いわよねぇ……」――と。
果たして、壮大に何も始まらない?
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