アップルパイとメロン-パイ2(意味深)
浮遊型環状都市。
それは、毒の雨が降る荒廃した地上を逃れ、人々が“空”に託した、果実型の居住都市だった。
その内部。オービタ・タウンの人工プールでは、 ゆるやかな午後の光が水面をきらめかせている。
「ロイさん、なんか変なジェムット拾ったって、本当?」
ビーチパラソルの下。黒のビキニをまとった女性が、カクテルを片手に言った。
「ええ、まぁ……」
ロイは日焼け止めを塗りながら、苦笑いで答える。
「未認可でも……もし何かあったら、うちにいらっしゃい。 それなりに、どうにかなるかもしれないから」
「……助かります、クローバーさん」
彼女の白い肌に、緑のラインが映えるスタイリッシュなビキニ。細身ながらも、豊かな曲線が目を惹く。
「おぉ……“立派な果実”だな。さすが黄昏の林檎!」
「それを言うなら、メロンでねぇか?」
近くのデッキチェアで昼間から飲んでいた中年男たちが、陽気に笑う。
「うちの犬もマロンって名前でさ」
「それは……母音が違うって」
「いや、むしろ“BOIN”だろ」
視線の先にいるクローバーをちらりと見て、二人はまた笑い合った。
「……」
ロイは少し呆れつつ、肩をすくめる。
「相変わらず、賑やかですね……この街は」
「ふふっ。“最後の楽園”って言う人もいるくらいよ」 「……ちょっと大げさすぎません?」
「どうかしら」
クローバーは、彼らの視線を少しだけ気にする素振りを見せたが、ロイにはそれは演技にも見えなくもなかった。
「そこのキミ、追加でオレンジアップルを一つくださいな」
「はい!トッピングはいかがなさいますか?」
「レモン、プラムで」 「了解です」
「……ジュースだったんですかそれ。ていうか、酸っぱそうですね。無茶苦茶」
「あら。クエン酸はお肌にいいのよ?」
クローバーは何気なく髪をかき上げ、そのまま視線をロイに向ける。陽射しの反射で、睫毛の影が頬に揺れた。
「でも、ほんと……ロイくん、やるじゃない」
「えっ、なにがですか?」
そのとき、クローバーの豊かなバストが、くすぐるように揺れた。まるで、言葉の代わりに何かを伝えるように。
……けれど、そのたおやかなゆらぎは、 きっとただの“偶然”だった。
「そのポーカーフェイス、どんな“お嬢さん”が崩すのかしらね……見物だわ」
クローバーはふっと口元をゆるめ、ほんのわずかに、いたずらっぽく微笑む。
ロイはなぜか、苦笑した。
「……別の意味でなら、もう崩れてますけどね。無茶苦茶なんですから、アイツ」
「……ん?」
そうして、ロイは小さくため息をついた。
人工の夕焼けが、街を赤く染めながらゆっくりと沈んでいく。
今日という一日もまた、どこか賑やかに――
けれど穏やかに、幕を下ろそうとしていた。