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Fruit of Darkness☾ ポンコツAI、世界を救う?  作者: 木天蓼れもん
《1章:何もしない美食家AIスイ編》【スイーツコメディ】
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スイの論破日記

「ティータイムはまだですか」


 スケベ・ブラックことロイは、珍しく高圧的なスイの声を耳にした。

「は?」


 間抜けな顔になるのも無理はない。仕事を始めて、まだ一時間しか経過していない。廃棄場から拾ってきたパーツの修理も、工程はほとんど進んでいなかった。


「博士が主人だったときは、ティータイムは毎日ありましたよ」


(――なるほど、そう来たか)


 ロイは思わず感心した。これほど図々しいジェムットは、稀に見る。

 ジェムットは基本的に犬より主人に従順だからだ。ところがスイの場合、これが標準動作だった。


 作業場に目をやるロイ。スイが掃除を担当していたはずだが、思い違いだったのだろうか。簡単な仕事を任せたはずなのに、ロイの寝室は魔界のような汚濁に濡れていた。


「掃除が終わっていないようだが?」


「それとこれとは関係ありません。ティータイムは、いついかなる時も行われるべきなのです。」


「それは、どういった根拠で?」


 しばしの沈黙。

 ……


≪バトルモード起動、タイプB。論破≫

  カリッ。カリカリカリ…………!


 スイの瞳が暗転し、頭部から機械音が鳴り響く。


≪論破準備完了。エネルギー節約の為、一旦、電源を落とします。≫

 ――ピピッ。プツン。


 静寂。やがて、電源が戻り、スイはロボットのように淡々と告げた。


「マスター、御存じですか?働かざる者食うべからずというのは、対価とは無関係なのです。仕事をすれば、食べられる。この論理構造、理解できますか?」


「……なるほど。こりゃ一本取られた。だが、お前のそれは仕事というより、作業かもしれないぞ?」


 ――ウィィィン……ピッ。

 カリッ。カリカリカリ…………!


≪再起動、確認。演算完了。スケベ・ブラックの論破準備が完了しました。≫


「私は博士に"仕事"をして、対価を貰っていました。対価を貰っているなら、それは作業ではなく仕事です」

「うむ。論点は悪くない。でも、さっきの話とは矛盾が起きないか?」


「起きません。私は、一秒でも早く新鮮なレモンケーキが食べたいからです」

 スイは言い切った。


「なるほど。そりゃそうだ!」


「では、そういうことで。早くレモンケーキを用意してください」


≪スケベ・ブラック。論破完了。≫

 ――ピピッ。プツン。


 自主的なモード切替は、故障のリスクが高い。博士には多用を禁止されていたが、ロイは知らなかった。

 スイは、食べ物の事になると構わずこれを起動する。


 論破モード中、論理は鋭くなるが、節約設計の為前後の文脈には弱い。

 ――最終的に論理が破綻しても、自らの欲求を押し付けて終了。要求先行型ジェムット、スイの黄金の勝ちパターンである。


 食卓に座して待つスイは、まるで王者の風格。キングは動かない。フォークを両手に、下僕に急かす。

 耳障りな金属音は、その鋼のボディにはただの軽やかなメロディに過ぎない。


 レモンケーキへの執念が、スケベ・ブラックを打ち倒した。


 たとえロイが、毎回譲歩していたとしても。勝利の美学は揺るがない。


 王者のログの記録はこう告げる。


【スケベ・ブラックとのrefute duel。14勝0負。】


 無敗無敵のジェムットが、今日もまた1勝を積み上げた。 




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