柑橘のジャンク屋
居候型ジェムット、(拠点を)見つける。
6/21(土) 修正
オービタタウン中央区。
ジャンク屋【男麗ん地野郎】前。そこに少女は居た。
「おう、ロイか!今日はどうした? オレンジいるか?」
「いや……遠慮しておくよ、カンキツさん」
男麗ん地野郎の店主・カンキツは、
カウンターに山積みのオレンジをバスケットごとロイに差し出す。
店内はジェムット用のパーツや謎家電でゴチャゴチャ。
この店は、裏路地にあるジャンクショップだった。
「そうか。相変わらず、スーパ~!クールガイ!――だな!?」
テンションが不安定な店主、カンキツ。
ロイは入り口に目をやる。
店頭は半分以上がオレンジに占領されていた。
……だが八百屋ではない。
「今日は何の用だい? パーツだけなら売らねぇぜ? ハンサムちゃん!
……新作のジャムはどうだ?」
カンキツは瓶入りのオレンジジャムを差し出す。
「いえ、それは"絶対に"いらないです。
――実は妙なジェムットと遭遇しましてね。
カンキツさんにも見てもらいたいんですよ」
「ほぉ~~。A級ライセンス持ちのお前さんが……そこまで言うとはね?」
「で、どこにいるんだい?? そのジェムットちゃんは??」
「ちょっと、連れてきますね。外で遊んでると思うんで」
「なんだぁ!? 小せぇ子供みてぇな言い方だな!!?
お小遣いやろうか?!」
「いえ、大丈夫です。もう渡しましたから。
……細かいのがなかったんで、財布ごと渡しちゃったんですけど」
──その頃、男麗ん地野郎付近・自販機前。
ピッ。ピッ。ピッ。……ガシャンッ。ガシャガシャッ……。
ピッ──、ガシャッ!!
水色のポニーテールが、銀色の筐体の前にいた。
光を失った瞳。
何かに取り憑かれたように、ボタンを連打していた。
「お姉ちゃん! 早くしてよ!! どんだけ買うんだよ!?」
「うるさい。まだ42本だ。
スイの方が年上なんだから、犬のように待ちなさい」
スイはノイズをシャットアウトする。
ロイの財布を握りしめ、新たな獲物を狙う構えだ――。
既にレモネス300は狩りつくした。
残りは、200と100である。
周囲にたむろしていた小学生は、畏敬の念を向けていた。
一本でも飲めば嘔吐しかねない、超刺激おバカ系ドリンク・レモネス。
それを何本も……もはや狂人の所業。
ざわ……、ざわ……。
裏路地に現れた水色のケモノは、見向きもしない。
――王者の狩りは、止められない。
「……あ、あの子。ブッとんでるぜ……?!」
「救急車!?先に、呼んどきます?!」
「あれ……さっきロイといた女の子じゃねぇか……!!
あのヤロウ。あんな純真そうな子を弄びやがって!!」
じゅるりっ……。
スイの口の端からは、欲望の雫がぽたりと落ちた。
狩りが終われば、恍惚が始まる。
――解放の瞬間まで、あと少し。
「す、すい…………?!!!」
男麗ん地野郎を出た途端、ロイは目を疑った。
間抜けな男は、ようやく気付く。
自分の犯した過ちに。
「なにやってんだ?! お前!! そんなに買って……
またパーツが酸化するぞ?!」
「イヤァァァ……!!!!」
スイはまるで、魂を引き裂かれるような絶叫を上げた。
ロイは、スイの腕を掴む。
欲望の連打を止めたのだ。
スイは、駄々をこねる子供のように激しく抵抗した。
≪適性反応確認。バトルモードA・起動。≫
ウィィィィン……。
スイには、博士のおせっかいにより――
通常のジェムットには存在しない
"自主的な"AI切り替えモードが搭載されていた。
見た目の変化はほぼなし。
博士の意図とは大きく外れ、
スイは自身の欲望のためにこれを行使する。
おでこのあたりから、うっすら青い光が漏れる。
どこからか、わざとらしいガチャガチャという音が鳴った。
≪レモンマシンガン……装填完了。スケベブラックを抹殺します≫
内部から、淡々とした声が発せられる。
スイは、生気を失った瞳でレモネス缶を握った。
弾丸はパンパンに、自販機の口に格納されている。
ポニーテールに隙はなかった。
「おい……っ!!」
ロイは、すぐさまスイの頭を叩いた。
スイのモード切替は非常にアナログであり、
頭を叩く事で止めることが出来る。
数秒の静寂の後――
スイの瞳に、色が戻った。
≪……了解。電源を落とします≫
――ピピー、ピッ。プツン。
運命じゃない出会いから、数日。
スケベ・ブラックことロイの苦難の物語は、すでに走り出していた。
侮ることなかれ、ポンコツジェムット。
これはまだ序章——
明日の平和は、彼女が崩す。