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『ポンコツAI、拾いました。』  作者: れもんの騎士
《3章:イエロービッグバン編 ―1NTK: Fantasy Logic Overdrive―》
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イエロービッグバン ―黄金の海で嗤う少女と、覚醒(めざ)める引きこもり作家―

―—レモネスアモーレ、セイシュンスピリット工場。

生産ライン。 


「もっともっと、レモンを送ってくらさ~い!!

ラビが、ろんろん、潰しますよ~~!!」


レモン鉢巻を額に巻いた兎型ジェムットは、木の臼に次々と投げ込まれるレモンを、手で潰していった。


効率が悪いのでは……?

なんて、まともな突っ込みはしてはいけない。


これが彼らの、魂の作法なのだ。


「何本出荷できた?」

赤い制服の眼鏡の女性は、静かな声でそう言った。


「二割、れもねッス!!」

ラビの横で応援旗を振っていた現場隊長は、

元気に返事をした。

隊長クラスになると、レモネス以外の言葉を使う事も許されている。


「そう。流石に、レモンの方が足らなくなってきたわね……。

レモネス政府か、阿法檸檬あほうれもんに……備蓄の要請をするしか――」


赤服の女性は、ため息をついた。

またあのバカどもに、関わらないといけないのか――

彼女がそう思ったかどうかは、定かではない。


―—この事件を語る前に、一つ補足しておかなけれならない。


それは、共振という現象である。

ジェムットとの核も、まさにこれによるエネルギーで稼働している。

音叉のように、特定の周波数の音を出すと、干渉し合う現象だ。


この世界では、時折、特定の物質が共振反応を見せる事がある。

特に、黄昏の林檎の芯からは、特定物質に干渉する波が、定期的に放たれている。


これに関する理由で、レモネス1000は――

1トラックに乗る以上の量を同じ場所に積むことは、厳禁とされている。



―—同時刻。ロイ宅前。


「ワタシが……、レモンパイ――レモネスの王だ」


王は、段ボールと言う名の天高い玉座の上に、座していた。

昏い瞳に、常人ならざるリビドーを宿しながら――

その先に、奴隷たちを見据えていた。


そして……


異様な数のイエロートラックが、ロイの家の前の空間を占拠していた。


「ろ、ロイさん……、国家転覆でもさせるつもりかい?!」


「間違いねえ。アイツは、テロリストだったんだ!!」


「私にも、ひと箱くれないかしら?」


あたりは、すっかり騒ぎになってしまっていた。


最初に事態に気づいた誰よりも慎重な男、ロード・アルファ――

ガラス戸の中から、空弾のモデルガンをスイと侵入者たちに向かって、

交互に構えていた。

未だ、一歩も外には出ていない。


「れもねっす」「れもね~~っす」


レモネス野郎どもは、更に箱を積み上げる。

王の指示により、ロード・アルファ宅の庭先も、足の踏み場がなくなっていた。


実のところ。

レモネス野郎どもは、レモネス1000のルールに関しては良く知っていた。

悲しきは――

彼らは、会社の外では、まず人の指示に従うことを徹底教育されていたのだ。

つまり、特定ルールより、王の指示を優先したのである。


だが――


それは、唐突に起こった。


一瞬、大きく、空気が振動したのである。


「え?」


「ひぃぃっ……?!」


勘違いなんてレベルじゃない。

むしろ、その場にいた全員が、直感で強烈な違和感を感じ取っていた。


「な、なんだ今の……」


誰かが呟いた瞬間だった。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――――。


足元から伝わる、地鳴りのような低い振動。

空気が、音もなく圧縮される感覚。


レモネスの箱たちが、怯えるかのように一斉に軋みを上げた。


「やばいぞ!!」


「離れろっ!!全部離れろ!!」


誰かが叫んだ。

レモネス野郎たちが作業を止め、慌ててトラックへ飛び乗る。

一般市民たちも、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。


「?」


下々の混乱を、王はダンボールの頂上から不思議そうに見つめていた。

自らのコアが、発しているモノにも気づかずに。


世界の終わりというのは、常にそういうものなのかもしれない。

誰もに罪があり、誰にも罪はない。


気づいたときには、すべてが遅い。


それは個人ではなく、積み上げ来た歴史。

暴走を止められなかった――人類、そのものの敗北なのである。


そして――次の瞬間。


バンッ!!!!!!!


弾け飛ぶ段ボール。

飛び散るイエロードリンク。

爆風と共に、レモネスの甘酸っぱい香りが、街一帯を覆い尽くした。


さらに――


それは、空気の振動として、

大地を伝い、

大気を駆け抜け、

音もなく――世界へ広がっていった。


レモネス共振波。


その異常なエネルギーは、

72秒後には、シトラス海溝を越え、惑星を一周した。


気象衛星には、黄色い共振エネルギーの帯が、惑星を一周する様子が記録されていた。


その現象は、すべての大陸に、“何かしらの支障”をもたらした。

通信障害、体調不良、味覚異常、建築物の微振動……

各地のニュースは一様に、 「宇宙人の侵略が始まった」として報じていた。


黄色い帯が世界を覆ったその日。 惑星は――静かに、狂い始めていた。


そして……

オービタタウンでは――


レモネスの噴煙が、空を覆っていた。

辺り一面に撒き散らされる、黄色い豪雨。

ロイ宅はもちろん、周囲の家々も、道路も、全てレモネスまみれに。


王も同時に、玉座から吹き飛ばされていた。

人間なら即死だった可能もあるが、幸い、ジェムットは人間より少しだけ

頑丈だった。


「ぶふぉっっ……?!」


「な、なんじゃら……っ?!ジェムット……?!」


機体が畑に転がり、畑で作業をしていたファットなオタク系中年男性が

クッションになったので、運も味方した。


すべては一瞬だった――


人々は、啞然としていた。

この時点で、事態を正確に把握していた人間は、ほんの一握りだった。

ほとんどの人間が、ただ空からレモネスが降ってきたとだけしか、認識できなかった。


「な、なんてこった……」


ロード・アルファは、モデルガンを手に、呆然と立ち尽くしていた。

結局、彼は一歩も外に出ないまま、運命の瞬間を迎えたのだった。


――全てが終わると、彼はようやく、外へと踏み出した。

自然と、足が動いた。


被害者がいるかもしれない。

ロード・アルファは、モデルガンを床に置いた。

戸を開ける――


木製の一部の建物は、崩れかけていた。

幸いだったのは、共振波は人体にはそれほど強い影響は及ぼさないことだ。


だが――

ロイの家の前にあった、住宅の建設予定地。

そこには、まっ黄色な巨大プールが出来上がっていた。


ロード・アルファは、目を疑った。

その表面には、大の字になった少女がぷかぷかと浮かんでいたのである。

ボディは傷だらけで、"片腕を失って"いた。


「お、おい……?!だだだ、大丈夫か?!」


少女の反応はない。


ずずずっ。ずずずずっ……!


「……?」


何か、妙な音がしていた。

ドクンッ。

こ、これは――

ロード・アルファの心臓が、大げさに脈動した。


(……違う)

彼は、ようやく違和感に気付いた。


"酸の地獄"。その黄金海に浮かぶ、水色のポニーテールは……

嗤っていたのである。

レモネスプールに身を投げ出し、その生き血を啜りながら――


この世の全てを手に入れたような、猛り声をあげていた。


ロード・アルファが、生涯で最も――震撼した瞬間だった。

これほど恐ろしい悪魔は、自分の小説の中にも存在しない。



……後に、イエロービッグバン事件と名付けられるこの事件。

オービタタウン発の、最悪の共振事故として歴史に刻まれる事になる。


犯人は不明。

オービタでは、別地点でも連鎖的に共振爆発が起こったため――

レモン漬けになった被害住宅数、カウント不能。


死者、奇跡的にゼロ。

負傷者、十二名("犯人"含む)。


数年後、ロード・アルファが世に出す事になる、サスペンス超大作。


”黄色い悪魔”の、元になった事件である――。


イエロービッグバン編終了。次回、後日談へと続きます。

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