1億個のレモンを手で潰せ!野郎どものすっぱい青春
彼らは言った。
「俺達に、絞れねぇレモンなんてねぇ!!!!」
――第13棟 絞り職人(31) 熱血童貞
「いつだって全力で、レモネスドリンクを限界まで生産する覚悟です!!!!」
――第6棟 癒し枠 (13) 兎型ジェムット
「それが、俺達の正義だ。女?そんなんもんはいねぇよ!!!!
ドリンク製造こそが甘く酸っぱい、レモネス野郎達の、青春なのさ――」
――第2棟 現場隊長 (42) 独身
―—悲劇とは、善意のある所に生まれるものである——
シトラスト教団教祖 シトラストブラック
セイシュンスピリット工場、14棟前。
普段は稼働していないこのラインで、レモネス・アモーレ現場社員たち
の朝会が行われていた。
「レモネぇ~っす。」
「れもねぇーっす!!!!」「レモネーッス!!!!」「レモネェーっす!!!!」
その場に集まったモノは、10000人。
彼らは皆、緊急出勤した社員たちだ。
それにも関わらず、誰一人文句も言わず、まるで軍隊のような規律を保ち整列していた。
それぞれの額の鉢巻には、日の丸のようにレモンが刺繍されていた。
端には、市長の阿法檸檬の名前入り判子が押されている。
「よく、集まってくれた。諸君!!休日だというのに、ご苦労!!」
レモン色の長いローブを着た、無毛の男はゆっくりと壇上に立った。
備え付けられていたマイクを蹴り飛ばすと、社員一同に激励を飛ばした。
「レもねぇ~っす!!!!」「レモネーっス!!!!」「レモネェ~~す!!!!」
「れ、れもー!!!!」
鉢巻の男たちは、両手を後ろに、腹から魂を叫んだ。
「そこ!!!!挨拶が、なってない。」
「す、すみませんですぅ~~。ら、ラビは発音が、苦手なんれす~~」
男に怒鳴られた変わった風体をした小柄な少年は、真っ白な手で頭を抑えながら、
懸命に謝罪した。
真っ赤な制服に身を包んだ女性が、一歩前に出る。
眼鏡をくいっと上げながら、冷静に言った。
「社長!いいから、続けてください!」
「レモォン!」
社長と呼ばれた男は、謎の返事をし、咳払いをした。
「ちっ……、レモンレモン」
メガネの女性も、謎の言語を返す。
「——本日とんでもないオーダーが入った。聞いたところによると、
どこかの大国の王様のようだ!!」
誇らしげな無毛の男。鉢巻男たちからは、静かに歓声が上がる。
「その数、1億。知っての通り、わが社のレモネスドリンクは、市販の宗教的な
色付き砂糖水の工程とはあまりにも異なる!!」
「——1億というのはつまり、限界も限界……。肉体を超越し、
己の魂と戦う領域になるっ!!」
「魂を、超越せよっ!!!!利益など出なくてもいいっ、
とにかくレモンを手で搾りまくって、生産ラインを回せ!!!!」
「レもねぇ~っす!!!!」「レモネーっス!!!!」「レモネェ~~す!!!!」
「れ、れも~………えす!!!!」
同時刻。
―— バンペイユ西インター ——
レモネス野郎たちの決意集会から、数日後。
彼らのイエロートラックが、オービタの街道を埋め尽くしていた。
「な、なんだぁ?!ど、どうなってやがんだ?!
レモネス野郎のトラックで、視界が真っ黄色だぞ?!」
クラクションが鳴り響き、苛立った市民たちの怒号が飛び交う。
「おーい、ふざけんな!!」
「お前らのせいで、仕事に間に合わねえじゃねえか!!
謝れよ、レモネス野郎ども!!」
「れもねぇ~ッス……」
「レモネーッス……」
レモネスドライバー達は、元気なく言葉を発した。
パトカーのサイレンが遠くから鳴りはじめ、上空をパトロール
ドローンが旋回し始める。
「警備隊まで来たぞ!」
「ええい、レモン野郎ども、早くどけぇ!!」
「ママ、なんであのオジサン達、皆レモンを齧ってるの?」
「見ちゃだめ!!」
場は混迷を極めていた。
…………
……
「本当に、何が起こってるのかしら?」
ロイの仕事の関係者である、助手席に座っていたブラウンの髪の女性は、
異様な光景に心配そうな声を上げた。
「どこかの業者が、大量に誤発注でもしたんじゃないかぁ?ははっ!」
風を受けながら、ロイは呑気な言葉を口にした。
「困ったわねぇ。このままだと、次のオーバーホールに間に合わないわ」
その場にいる誰も、まだ事態を把握出来ていなかった。
オービタタウンを震撼させる、伝説の爆破事件まで
――あと121分。