ゴブリンダンジョン 上㊦左右
ゴブリンダンジョン五階層、ボス部屋の前。
その扉から少し離れた場所に、二人の男がいた。
周囲の魔物はすでに掃討済みだが、油断はない。
一人は細身で長身、手足の長い男。
槍を手に、周囲を警戒している。
冒険者ネームはコンゴー。
もう一人は、剣を自分の前に置いて座っている。
だが気は緩めていない。
いつでも戦闘に戻れる体勢だ。
背はそれほど高くないが、筋肉自慢のパワー型。
冒険者ネームはギンジ。
二人は、毎日このゴブリンダンジョンに通うのが日課になっている。
だが目的はダンジョンの攻略ではない。
ろくなレアのないゴブリンダンジョンなどに興味はなく、最短距離でここまで来ている。
魔石こそ集めてはいるが、五階層ボスまでの分では、二人で分ければ大した額にはならない。
「ちっ、今日も来ねぇかな」
コンゴーが、通路の奥へつまらなそうに言葉を投げる。
「悪りぃな、付き合わせて」
その言葉に、申し訳なさを覚え、ギンジは俯いたまま返した。
このゴブリンダンジョンに来ている目的。
それは金ではない。端的に言えば、人だ。
目的の男――冒険者ネームはアマギ。
二人は一度だけ、同じサークル臨時に参加している。
誰とも組まず、バールとトンファーを振り回し、一人で暴れまわっていた男。
「別におまえに文句言ってるわけじゃねぇさ。
悪いな、愚痴っぽいこと言っちまって」
コンゴーはギンジに詫びる。
だが正直なところ、アマギにはあまり興味はなかった。
あの時、アマギは中盤にいた。
そこで多少良い動きをしていたかな――その程度の認識だ。
そして途中で最後尾に下がった。
ふざけた態度だと思うが、サークル臨時ではよくあることだ。
単独冒険者は、押し付けられやすい。
それを嫌がって最後尾に下がるのは、ある意味当然でもある。
ここに一緒に来ているのは、仲間であり相棒のギンジが暴走し、やり過ぎるのを抑えるためだ。
「こっちこそすまねぇ。
でもおかしいんだよな。コメットちゃんの話じゃ、週に何度もここに来てるって言ってたのに」
コメット。
京風の言葉を使う、可愛らしい女性冒険者。
どこか男の庇護欲をくすぐる、そんな女だ。
コンゴーとギンジは普段、他の女性冒険者二人とチームを組んでいる。
あの日、最後尾に雨木が下がったあと、コメットは目に見えて落ち込んでいた。
周囲の取り巻きたちが必死に励ましていたが、ダンジョンを出るまで戻らなかった。
ダンジョンを出たあと、コメットはアマギを飲みに誘った。
参加者全員の前で。
だがアマギは一切相手にせず、そのまま一人で帰った。
アマギが帰ったあと、コメットは涙ぐみ、やがて決壊した。
泣き止まないコメットに、ギンジが声を掛けたことが、きっかけだったのかもしれない。
アマギを気に入らないと思っているのは、ギンジの方だ。
それ以降、コンゴーやギンジたちのグループは、コメットのグループと行動を共にすることになる。
上手くやれていたのは最初だけ。
それも、ほんのわずかな間だ。長くは続かなかった。
コメットたちのグループとでは、前に出る比率がまるで違ったからだ。
コメットのグループは、口だけの雑魚。カスの集まりだった。
コンゴーは、(そりゃアマギも嫌がるわな)と思っている。
同じチームの女性冒険者二人も、同意見だった。
だがギンジは違う。
コメットが可哀想だと言う。
彼女を一人放り出して逃げたアマギが、許せないらしい。
『元々はあっちから持ちかけて来た話だったんだ。
一緒にやろうってさ、アマギが言ってきたんだぜ』
『そうそう。なのになんか勝手に拗ねやがってさ。
一緒に来たのに、放り出して帰ったんだよ』
『本当、無責任な奴だよなー。
……ま、多分、嫉妬だろ。
コメットちゃんと他の男が仲良くしてるのが、面白くねぇんだよ、あいつ』
――という、コメットの取り巻きのでたらめを信じている。
素直なギンジは、曲がったことが大嫌いだ。
「……ったく、薄情モンが。裏切り野郎は許せねぇ。
一度ぶん殴ってやらなきゃ、気が済まねぇよ」
そう言って、今も握った右こぶしを左の手のひらに打ち付けている。
コンゴーは一つ、ため息を吐いて言う。
「……頼むから、殺すなよ?」
待ち伏せている目的は、殺人でも強盗でもない。
説得だ。
アマギに、コメットへもう一度チャンスをやってくれ――
そう頼むつもりだ。
もちろん、そのまま戻らせるつもりはない。
自分たち四人に、アマギ。
そしてコメットだけを引き抜く。
コメットの取り巻きは切り捨てる。
コンゴーたちは、上を目指しているチームだ。
戦闘力はそこそこ高い。
横殴り組などと、組んでいるつもりはない。
コンゴー個人の本音としては、アマギもコメットも、どちらも不要だ。
面倒な仲間など要らない。
だが、ギンジがコメットを気に入ってしまっている。
それは他の二人も分かっている。
四人の中で一番強いのがギンジで、チームのエース。
そして冒険者になってからの付き合いだが、大事な友達でもあった。
なるべく尊重してやりたいと思っている。
アマギは、ぼっち気質で人と上手くやれないようだが、戦闘力はそこそこあった。
そこはこちらが折れてやる。
多少なら我慢して、付き合ってやる。
悪い話ではないはずだ。
こんな過疎ダンジョンで、一人で細々やるより、よほどいい話だ。
(……ギンジの気が済むよう、数発は殴らせてやるつもりだがな。
……それが終わったら、俺が上手く間に入って……。
……偏屈そうだけどな、アマギ。
まぁ多少痛い目を見れば、少しは素直になれるだろうよ)
そんなことを考えながら、コンゴーは通路の先を注意深く見張り続けた。
※本作は作者による構成・執筆を基に、一部AIを補助的に利用しています。
しばらくは週末(土日0時)更新を目標に進めていきます。
難しい週もあるかと思いますが、引き続きよろしくお願いいたします。




