薬草ダンジョン 六階層
スケルトンダンジョンに入った翌日、
雨木はまた別のダンジョンに来ていた。
関東某所にあるダンジョン。
通称、薬草ダンジョン。
ダンジョン黎明期、冒険者が殺到した場所だ。
だがそれはもう、少し昔の話になる。
現在の薬草ダンジョンは、そこまで人を集めていない。
ゲームで言うところの回復ポーション。
その作成が、未だ実現していないからだ。
ダンジョンの魔物からは、各種ポーションがドロップすることがある。
そしてここではその名の通り、傷を癒やす効果などを持つ特殊な草花が採取できる。
ダンジョン内で使用すれば、確かに傷は塞がる。
だが、そこまでだ。
製薬会社はこぞって薬草を買い求め、回復ポーションの量産を目指した。
低階層の薬草ですら高値で取引され、冒険者は潤った。
しかし現在に至るまで、ポーションの作成に成功した例はない。
それは日本だけでなく、ダンジョンが出現した世界各国で同様だった。
そしてドロップ品のポーションも万能ではない。
ダンジョンの外では効果を発揮しない。
世界の医療を変えるかと期待されたそれは、
結局のところ、冒険者がダンジョンを進むための補助でしかなかった。
もちろん有用ではある。
あるとないでは生存率が段違いだ。
だがダンジョンには回復魔法がある。
それはスキルカードという形で存在する。
使い捨てのポーションより、
冒険者は恒常的に使える回復魔法を求める。
世間は、外で使えない回復ポーションになど見向きもしない。
買取単価は下がり続け、薬草ダンジョンは徐々に過疎っていった。
雨木楓真は、その薬草ダンジョンを
簡易的にマッピングしながら最短距離で奥へ進んでいる。
現在地は六階層。
ここまで他の冒険者とは出会っていない。
だが完全な無人というわけではないのだろう。
三階層の小ボスには遭遇しなかった。
五階層のボス部屋は開放済みだった。
最盛期には十五階層のボスまで討伐されている。
多くに見限られたとはいえ、知名度はまだ高い。
イージスマップには八階層までの地図が売りに出されている。
掲示板での情報も、豊富なダンジョンだ。
「さて、第一目標の六階層ポータルまでは、あっさり来れちまったな。今日はどうすっかな~」
今回の目的、その一つもマッピングだった。
ただし前回とは少し事情が違う。
今回は精密な地図を作ることではなく、
最短ルートの把握が目的だ。
既に完成品が売られているダンジョンで、
今さら同じものを作る意味は薄い。
自分が目的地へ辿り着ける程度でいい。
講習の復習として、一度地図を買って比較するのも悪くはない。
だが今は数をこなす方が優先だ。
経験を積む。
地図を書く量を増やす。
このダンジョンに深く拘る必要もない。
もしここを本気で書くなら、八階層以降だろう。
「もっとも、そこまで進むのもどうなんだって話なんだけど」
ダンジョンの傾向は似うる。
この薬草ダンジョンは単独の魔物が出るダンジョンではないが、
六階層を超えると魔物は群れて現れるダンジョンだ。
奥に進めば進むほど、それは顕著になる。
単独冒険者の雨木には、少しばかり分が悪い。
蝶のモンスターカード――リフェリア。
その力があっても、数の前では限界がある。
個は強くなれる。
だが群れは、それだけで理不尽だ。
それくらいは、雨木にも分かっている。
「正面から当たれば、だけどな。
数回なら、やりようはある」
だが、安定はしない。
単独での攻略が厳しいのは事実だ。
「ふむ……」
顎に手を当てる。
「……誰か誘うしかないか。
まず、その当てを探すとこからなんだけど」
自然と溜め息が漏れる。
「はぁ……ほんと。冒険者になってから、ろくな出会いがねぇ」
脳裏に知り合いの冒険者たちが浮かぶ。
戦力としてなら、数人は思い浮かぶ。
だが――。
それが自分の戦力になるかは、別問題だ。
信頼関係が足りない。
向こうが受けるとも思えない。
そして自分も、そこまで他人を信用していない。
それが雨木楓真だ。
「……しょうがねぇ。
進むのはここまでにしといて、今日はいくつか試してみるか。
折角用意したのに、出番がないものが多すぎる。
ま、それだけ順調ってことなんだろうけど」
作業服に安全靴。
バールとトンファー。
見た目は、ダンジョンに入り始めた頃と大きくは変わらない。
だが細かく見れば、確実に変わっている。
安全靴は、ホームセンターのスニーカー型量販品から、
脛まで覆うハイカットの革製編み上げブーツになった。
先端は強化プラスチックではなく、鋼鉄芯。
靴底も厚く、衝撃に強い。
軍手だった手元は、今は革手袋だ。
デメリットもある。
重く、機動力は落ちた。
革手は馴染むまで滑るし、軍手よりも蒸れる。
だが、防御力は確実に上がっている。
作業服のインナーも、防刃仕様に変えた。
トンファーは木製から鉄製へ。
一つ一つは小さな変化だ。
だが確実に、雨木楓真はバージョンアップしている。
そして今回、新たに手を入れたのは武器だ。
風魔法という攻撃手段を得て、
遠距離攻撃の有用性を改めて実感した。
だが雨木の魔法は、基本は“纏う”運用だ。
射出型の風魔法も手に入れた。
だがレベルは2。
最大射程は、四メートル。
「……魔法は効果的だけど、実用的とは言い難い。
微妙な距離だな」
四メートルは遠距離とは呼べない。
雨木にとって、まだ間合いの中と呼べる距離だ。
欲しいのはそれより外にいる、敵への攻撃手段。
ではどうするか。
魔法が届かないなら、
回収できるものを飛ばせば良い。
雨木は六階層のポータルから少し離れ、
手頃な場所を探した。
薬草ダンジョンは草木が生い茂っているダンジョン。
適度に開け、的に出来そうな大木もすぐ見つかった。
腰の後ろに、新しく増設した専用ポーチを開く。
そこから取り出したそれを、無言で投げた。
回転。
空気を裂く音。
鈍い衝撃。
手斧が、大木に深く食い込む。
ホームセンターで売られている量販品だ。
ダンジョン産の戦闘用でも、特別な魔道具でもない。
だが重量はある。
刃厚も十分だ。
雨木は歩いて回収し、斧が刺さっていた箇所を確かめる。
「……悪くねぇ。有りだな。
そもそもトンファーは投げるものじゃねぇしな。
まぁ……何度も投げてるんだけど」
ナイフも考えたが、雨木には少し軽い。
スケルトンのような存在には、弾かれる可能性がある。
その点、斧は質量がある。
当たりさえすれば、骨にも響く。
ゴブリンや狼の頭くらいなら、軽くカチ割るだろう。
近接武器として、振り回すことも出来る。
「あとはコントロールと、
……魔法が乗るとどうなるか? だけど」
斧の柄に指を掛け、軽く振る。
「……ま、やってみるしかないか」
※本作は作者による構成・執筆を基に、一部AIを利用して調整しています。
少し立て込んでいるため、しばらくは週末更新で書き貯めます。
引き続きよろしくお願いします。




