喫茶店にて②
※本作は作者による構成・執筆を基に、一部AIを利用して調整しています。
雨木は、美濃原と狼山に向けて、
新人の立場から見えたサークル臨時の内情を語った。
サークル臨時という仕組みは、いわゆる押し付け組が幅を利かせている。
それが、新規参入を確実に妨げていると、雨木は感じていた。
実際、先行組の男に、こんなことを言われたことがある。
「サークル臨時の参加者は、別に仲間じゃない」
「だから、戦い方を教える筋合いはない」
それ自体には、雨木も同意する。
自分だって、仲間が欲しくてサークル臨時に参加した訳じゃない。
稼ぐ手段が欲しかっただけだ。
だが――。
数は、力になる。
いずれ先に進んだ時、
自分一人の力ではどうにもならない場面が、必ず来る。
その時、誰かの手を借りることもあるだろう。
それが同期であれば話は早い。
どうせなら、自分と同じように、
自力で開拓してきた人間である方がいい。
だから、他の新人冒険者に育って欲しくない訳ではない。
「新人のおまえ目線で、今の冒険者界隈がどう見えたか?」
と問われたならば、
中堅層が変に肥大し、上と下が少なく思えた。
ひどくアンバランスな人数比率だと思えている、と雨木は答える。
中堅。
それを、大半が押し付け組であり、
そうでなくとも、横殴りを平気でする連中が占めている。
自分で魔物の正面に立たない。
危険な役目を、常に誰かに回す。
そんな連中が、サークル臨時に群がっている。
新人に魔物を押し付け、
自分は安全圏から経験値を稼ぐ。
だから新人が居つかない。
そして、そんなやり方を当然のようにする人間が、
トップに成り上がることはないだろう。
経験を積んでも、
卑怯者は、卑怯者の階段を上るだけだ。
ダンジョンには、ボスが君臨する部屋がある。
そこは、逃げ場のない密室空間だ。
雨木は、そこでふっと笑って言った。
「自論ですけどね。
それまで、まともに戦ってこなかった人間が、
ボス部屋に入った瞬間、急に戦えるようになる。
……そんな都合のいい話、無いでしょ」
だから、トップ層も増えない。
今、冒険者が何人いるかは知らない。
だが、サークル臨時がこれだけ賑わっている現状を見る限り、
そこに参加した新人の大半は、その空気に染まっていくのだろう。
押し付けられた新人は、居つかない。
残った者も、やがて同じことをするようになる。
トップは、限られたままだ。
その一方で、横殴りをする中堅だけが、確実に増えていく。
そんな、いびつな比率が、
サークル臨時によって、さらに拡張されていく。
雨木は、冒険者の世界も、
本来はピラミッド型であるべきだと考えている。
裾野が広く、競争がある。
その競争を勝ち上がった者が、強者になる。
競技人口が多い世界は、だからこそ栄える。
――少なくとも、
今のサークル臨時の空気は、
その形から、どんどん遠ざかっているように見えていることを伝えた。
「――ふむ。興味深い話だった」
美濃原は、コーヒーを一口飲み、カップを置いてから言った。
細い目がさらに細まり、口元が裂けるように吊り上がる。
「小僧の話だと、一笑に付すのは簡単だ。
だが――、聞くべきところはあった。
サークル臨時の実態など、職員に聞いたところで、誰も答えられん」
狼山も、くくくっと笑う。
その表情も、美濃原と同じく、決して人の良いものではない。
こうして並んで薄く笑っている二人を見ると、
雨木には、悪党が悪だくみをしているようにしか見えなかった。
(知らん人が見たら、絶対に公務員には見えないよな、この二人)
そう思い、貸し切りで良かったと、初めて思う。
「それでだ」
美濃原が、雨木を見る。
「おまえが単独でダンジョンに入っているのは、それが理由か」
「いや、単に稼ぎを独占したいのと、近いからってのが一番ですけど。
……まぁ、それも無いって言ったら嘘になるかな。
俺みたいなのは、結構、押し付けられるんで」
苦く笑いながら、雨木は答える。
これまで四度参加したサークル臨時では、
例外なく、魔物を摺り付けられてきた。
単独の魔物なら、即座に処理すればいい。
だが、サークル臨時で使われるダンジョンは、
五階層を超えると、複数の魔物が出現する場所が選ばれる。
稼ぐためだ。
だがその選択が、押し付け行為を、さらに加速させてもいる。
「ふむ……そうか」
狼山が、低く頷く。
「てっきり小僧は、『橘 維心』にでも憧れているのかと思っていたがな。
だが、そういう理由なら、単独の方が楽だと考える者の気持ちも分かる」
そう言って、狼山は続けた。
「今日は、それを聞けただけでも収穫だ」
だが、その直後。
「もっとも」
狼山は、軽く笑って言う。
「単独で入る冒険者の死亡率が、最も高いのも事実だ。
だから精々、気を付けることだ」
『橘 維心』
それは、現代の冒険者界隈で知られるトップランナーの名だ。
冒険者のアイコン、深淵十二紋。
橘はその八番手。
前アイコン、『残照八座』と呼ばれていた時代から、その位置に君臨している。
冒険者のトップ層の中で、
唯一、単独で十九階層を突破しているという、異色の存在。
名門・橘家の出身。
高身長、高学歴、そして色男。
マスコミも、世間も、放っておかない存在だ。
「単独という点もあって、何かと話題になりやすい男だがな」
美濃原が、淡々と続ける。
「だからこそ、真似する者も多い。
橘 維心が頭角を現す前と後とでは、
単独潜航での死亡率が、文字通り桁違いになった」
そう言って、美濃原は小さく息を吐いた。
「だから、俺たち特殊空間管理省からすれば、
橘は頭が痛い存在でもある」
そして、鋭い視線を、雨木に向ける。
「いずれ、おまえにも注意はしようと思っていた。
だが、いい機会だ」
一拍、置いて。
「叶うなら、信用できる仲間と潜れ。
……叶うなら、だがな」
そう言って、美濃原は、ふっと視線を外した。
それが、雨木にとっては最も難しい。
美濃原も、それは何となく分かっているのだろう。
そんな美濃原を見て、
雨木は、痛む背中が少しむずかゆくなった。




