表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代にダンジョンが出来たので好色に生きようと思います  作者: 木虎海人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/62

 喫茶店にて①


※本作は作者による構成・執筆を基に、一部AIを利用して調整しています。


都内の外れ、柔道場から少し歩いた場所にある小さな喫茶店。

店内にはコーヒーの香りと、落ち着いた静けさだけが漂っている。


その一角で、雨木楓真はブラックコーヒーを口に運びながら、

まだ残る背中の痛みに小さく顔をしかめていた。


「痛むか。受け身が甘い証拠だな。

もっとも、学校の授業程度しかやっていないなら、今日は上出来だ」


向かいの席には、美濃原道三。

柔道場で見せていた無表情のまま、コーヒーカップを手にしている。


「分かってるよ。

それを承知で頼んだのは俺だし。文句を言う気はないよ」


「そうか」


「……まぁ、言いたいことがあるとすれば一つだけ」


「言ってみろ」


「入口の札、準備中だったけど。

入って大丈夫なの?」


柔道場で散々投げられ続けたあと、連れられてこの店に来た。

美濃原が当たり前のように店のドアを開けて入ったので、

雨木も続いて入ったが、ドアに掛けられた札は、確かに準備中だった。


「問題ない。

ここの店主は元警察官僚だ。親が亡くなって、この店を継いだ。

俺たちが来る日は、貸し切りにしてくれている。それだけだ」


美濃原は一瞬だけ視線を上げ、

それから何でもないことのように言った。


貸し切り。

店主の素性。

当たり前のように通る注文。

出された珈琲。


雨木は、少しだけ居心地の悪さを覚える。

そのとき、扉が開き、鈴の音が静かに鳴った。


反射的に顔を向けた雨木の視界に入ったのは、

先ほど、自分を何度も畳に叩きつけた、岩のような男だった。


男は周囲を一瞥すると、そのまま真っ直ぐこちらへ来る。

美濃原の横の椅子を引き、当然のように腰を下ろした。


「待たせたか。

休みだってのに、電話が鳴り止まなくてな。

どいつもこいつも、遠慮ってものを知らん」


「今さらだな」


美濃原が淡々と返す。


「ダンジョンがある限り、俺たちの仕事は終わらん。諦めろ」


店主が無言で現れ、男の前にコーヒーを置いた。

そのやり取りが、あまりに自然だった。

そのせいで、雨木の居心地はさらに悪くなる。


自分を何度も畳に叩きつけた男が、

今は当たり前の顔で、同じテーブルに座っている。


ため息を一つ。

雨木は、素直に問いかける。


「で、誰なんですか。

そろそろ教えて欲しいんですけど」


問いかけられて、美濃原は細い目をわずかに見開いた。


「なんだ。説明していなかったか。

相変わらず、意地が悪い」


そう言って、岩のような男がくくっと笑い、珈琲を一口飲む。


「教えただろ。

俺と一緒に、特殊空間管理省を牛耳っていた政治家の息子を追い出した。

その一人だ」


その言葉で、美濃原から以前聞かされた話が、雨木の中で繋がった。


特殊空間管理省が、まだ庁だった頃。

トップに立っていたのは、某政治家の息子。

次期首相候補として名の挙がる政治家の、その息子だったという話。

庁を私物化し、その功績を持って親の地盤を引き継ぐつもりだっただろう。

それを阻んだのが、美濃原と、その同期の幹部たち。


その同期が、今はダンジョン省では四天王と呼ばれている。


雨木は他の三人の名前と特徴は、美濃原から聞いていた。

卯月、狗藤。


そして、目の前の男の特徴に当てはまる名は――。


「……狼山さん、で合ってます?」


「くくくっ。

いちいち名を名乗らなくても、相手の目星くらい付けておけ。

でなければ、生き残れんぞ」


そう言って、男は笑う。


「正解だ、小僧。

糞生意気だと聞いていたが、最低限の礼儀は持っているようだな」


「糞生意気……ね。ふーん?」


たぶん、美濃原と初めて会った日の話だろう。

よく考えると黒歴史だ。

そう思って視線を向けるが、美濃原は素知らぬ顔で珈琲の香りを楽しんでいた。


その姿に少しだけ、腹が立った。


だが同時に、思う。

出会った相手が、必ず名を名乗るとは限らない。


名刺交換から始まる生活は、もう終わった。

そのことを、改めて実感する。


そして、自分はまだ未熟だと、

雨木は小さく反省した。


「くくくっ。柔道を経験したいと頼んだそうだな」


「……ですね。

無職のうちに、色々やっておこうと思いまして」


「それも正解だ、小僧。

柔道経験者は多い。警官、自衛隊員の中にもいるし、冒険者にもいる。

知らずに戦って、受け身も取れんのでは話にならん」


美濃原が、静かに言葉を継ぐ。


「狼山は、冒険者が問題を起こした時の対策チームの担当でもある。

おまえの話を聞いておきたいそうだ。

……念のため、な」


「役に立つかどうかは、こっちが決めるが」


狼山が続ける。


「新人の意見を聞く機会は、そう多くない。

せっかくだ。なんでもいい、冒険者になって思ったことを一つ、聞かせろ」


どうやら今日、狼山がここに来たのは、偶然ではなかったらしい。

少し面倒だなと思いつつも、雨木は二人の視線を正面から受け止める。


冒険者は、いずれ対人が重要(キー)になる。

それが雨木の直感だ。


空手の経験者である雨木には、分かっている。

攻撃の練習は、独りでも出来る。

だが防御の練習は、相手が要る。

独りでは出来ない。


そして、対人戦では、

その防御こそが、勝敗を分ける。


だから雨木は、助力を求めた。

美濃原受け取った答えがこれなら、

受け入れるしかないとも思っている。


「あー……サークル臨時ってやつに参加して、思ったんですけど」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ