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現代にダンジョンが出来たので好色に生きようと思います  作者: 木虎海人


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 都内の外れで


七月中旬のある日。

都内の外れにある柔道場。

空調は最低限しか効いておらず、畳の上にはじっとりとした熱が溜まっている。


雨木楓真は、その畳の中央に立っていた。

見学ではない。

柔道着を身に着け、白い帯を締め、稽古に参加する側として。


次の瞬間、視界が反転した。

背中から畳に叩きつけられ、乾いた衝撃音が道場に響く。

その衝撃に、雨木が身動きが出来なくなる。


「どうした? もう終わりか?」


声を掛けたのは、美濃原道三だった。

特殊空間管理省の外部監察官。

肩書だけを聞けば、本流から外れた枝のような役職に思われがちだ。

だが実際は違う。

省勤めのエリート。

その中でも、名前が挙がる側の人間だ。


そして柔道も黒帯で、六段。

年齢は五十に近いが、体の芯はまったく鈍っていない。

剣道の腕も相当なものらしい。

少なくとも、机の前だけで生きてきた男ではない。


畳に叩きつけられた雨木は、息を吐きながらゆっくりと上体を起こす。


「……ってぇ。ふぅ。

いやいやいや、こっちから柔道を教えて欲しいって頼んだのに、

ちょこっと投げられてお終い。なーんて訳にはいかないですよね。

もういっちょ、お願いしゃっす」


軽口を叩きながら立ち上がり、再び組みに行く。

だが、美濃原は無駄な動きを一切見せない。

雨木の重心が浮いた瞬間を逃さず、体を捌き、再び畳へと叩きつけた。


音。

衝撃。

そして、同じやり取り。


それが、繰り返される。


美濃原は手を差し伸べない。

声も荒げない。

ただ、投げ続ける。


これは雨木が望んだことだから。


美濃原と雨木。

二人がやりとりするノート。

そこに書いた『柔道を経験しておきたい』という言葉。

それに美濃原が答えたことで実行された。


元空手家で有段者だった雨木だが、柔道経験は学校の授業程度だ。

仕事を辞めたこの機会に、叶うなら経験しておきたいと雨木が希望した。


『ダンジョンは多分、最後に対人経験がものを言う可能性が高い』


雨木楓真が書かなかった言葉。

目には見えないそれを、美濃原は確かに拾った。

静かに、そして確かに。

都内の外れで、この経験は、静かに芽吹き始めていた。





「――おい、美濃原(ミノ)。そいつだろ。前に話に上がった、糞生意気な新人ってのは」


唐突に、低い声が割り込んだ。


帯を締め直していた雨木は、思わず動きを止める。

顔を上げた。


道場の入口に、男が立っている。

柔道着姿。


いつからそこに立っていたのか分からない。

戸の音にも、気付かなかった。


だが、確かに存在感がある。

美濃原より、自分より、少しだけ背は低い。

それでも、岩のようにどっしりとした男だった。


「くくくっ。小僧に身の程を教えるなら、俺も手伝ってやる」


男はそう言って、勝手に畳へ足を踏み入れた。

一礼もしない。

説明もない。


美濃原が、わずかに視線を向ける。


「別に構わんが、受け身だけは取れるように投げろ」


「待て、構えよ!?

誰だ、説明しろ!?」


短く返した美濃原に、雨木は思わず声を上げた。

だが男は、逃がさないと言わんばかりの眼で雨木を見据えながら、

真っ直ぐ雨木へと歩いてくる。


雨木は二人を交互に見た。

空気が、確かに変わったのが分かる。


「……っは。受け身なんざ、取れない奴が下手くそなんだよ」


向かって来る男の言葉に、雨木は何か言いかけて、言葉を飲み込んだ。

何を言うべきか、分からなかった。


次の瞬間、視界が反転する。

背中から畳に叩きつけられ、息が詰まった。


全身に走る痛み。

受け身は、間に合わなかった。

だがそれが、自分の未熟さだということだけは、はっきりと分かる。


受け身。

それが、柔道を知りたい雨木楓真にとっての、最大で、最低限の目的だ。


柔道。

日本由来の競技で、今なおオリンピックで金メダルを期待されるスポーツ。

競技人口も多く、冒険者の中にも経験者は多い。


「ふん。つまらん。素人だな」


男が吐き捨てるように言う。

美濃原ではない。

だが、その美濃原が応じた。


「まぁ、そんなに焦るな。俺にもお前にも、素人の頃はあった。そうだろ?

そいつは今、それだってだけの話だ。

もう少し付き合ってやってくれ」


「ふん。邪魔するつもりはない。

俺も少し、身体を動かそうと思っただけだ。

立ち上がってくるなら、相手くらいはしてやる」


そう言って、男は畳の中央へ歩いていく。


畳に叩きつけられたまま、雨木楓真は思った。


――なんだ、このおっさん。


※本作は作者による構成・執筆を基に、一部AIを利用して調整しています。

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