便利な男
カナタ視点
「ねぇ、カナタ。来たよ」
ダンジョンの中で呼ばれて、俺は反射的に振り返る。
ティナの声だ。
少し焦った響きが混じっている。
「おう」
短く返して、俺は駆け出した。
視線の先では、レッサーコボルトが竹槍を構えて向かってくる。
ティナとシアが剣を振りながら、距離を計る。
俺が前に出る。
槍を剣で受け止め、体で押し返し、視線をこちらに集める。
タゲ取り。
この役回りが、いつの間にか俺の仕事になっていた。
「今、いける」
声をかけると、ティナが横から剣を振り下ろす。
シアも慌てて続く。
だが、どちらの斬撃も浅い。
レッサーコボルトはまだ倒れない。
その隙を突くように、別の影が動いた。
押し付け組の連中だ。
いつの間にかティナの背後から回り込み、
俺が受けている敵を袋叩きにして倒していく。
……俺が受けている間に。
「……はぁ」
小さく息が漏れた。
俺は攻撃を受け続け、
肝心の撃破はあいつらが持っていく。
同じ光景は、少し離れた場所でも起きていた。
リナ。
彼女が別のレッサーコボルトと向き合っていた。
動きはまだ粗いが、前に出て、自分で戦っている。
なのに、その背後に回り込んで、
押し付け組が同じようにタコ殴りにして倒していた。
……あれじゃ、何も残らない。
ティナが俺の腕を掴む。
「ありがと、カナタ。やっぱり頼りになる」
甘えた声。
悪い気はしない。
しないが、胸の奥が少しだけざらつく。
シアはその後ろで、申し訳なさそうに頭を下げている。
リナは少し離れた場所で、俺たちの方を見ていた。
視線が合うが、すぐに逸らされる。
今は四人で動いている。
この組み合わせが俺の居場所だ。
だが、ティナとシアの二人は守ってやらなきゃならない。
その間に、俺とリナだけが、経験値を持っていかれている。
最初は、それでいいと思っていた。
女の子を守って、
格好いいところを見せて。
だが今は違う。
このままじゃ、
俺もリナも、強くなれない。
ティナは少し派手な髪色のギャルっぽい女だ。
勝気で口も達者で、戦闘では前に出る気はないが、俺にだけは妙に甘えてくる。
サークル臨時の初日の打ち上げで関係を持ってから、
なぜか当然のように俺の相方を名乗っている。
シアは、そのティナの友人だ。
大人しくて空気を読むタイプで、
いつもティナの後ろにいる。
リナは、最初のサークル臨時で初めて会った新人冒険者だ。
あの日、俺が助けた女。
最初に見かけた時から、気になった。
……あの時、俺は多分一目惚れした。
だから、リナの動きばかり目で追っていた。
だから、あの異変にも、真っ先に気付いた。
なのに、だ。
俺はその後、ティナに手を出した。
軽い気持ちだった。
遊びのつもりだった。
それ以来、周りにいた女たちは、
潮が引くみたいに、さっと消えた。
ティナが、俺の相方だと、正妻みたいな顔で振る舞い始めたからだ。
リナに話しかける隙もない。
近づこうとすると、必ずティナの視線が刺さる。
口説きたい女と、縛ってくる女。
その両方に挟まれて、
俺は身動きが取れなくなっていた。
その間に、
経験値は削られ、
立場は固定され、
気付けば、ただの盾だ。
☆★
打ち上げの店は、騒がしかった。
サークル臨時の流れで集まった、有志の打ち上げだ。
主催チームや先行組はいないが、それ以外の参加者たちの交流の場になっている。
ティナとシアは参加歴が長く、
自然と顔なじみの輪の中に混じっていく。
俺は一人、グラスを持ったまま取り残された。
前によく話しかけてきていた女に声をかけようとする。
だが、視線が合った瞬間、向こうはそっけなく目を逸らした。
……ティナのことが、もう知れ渡っている。
俺がリナの方を見て、一歩踏み出す。
その瞬間。
「ティナ、こっちこっち」
誰かが名前を呼ぶ。
ティナが振り向き、引き寄せられる。
まただ。
俺とリナの間に、見えない壁が挟まる。
「……何か怒ってる?」
戻ってきたティナが、俺の顔を覗き込む。
「別に」
「嘘。分かるんだから」
少しだけ黙ってから、俺は言った。
「もうちょっとさ、ちゃんと経験値稼ぎたいだけだよ」
ティナは一瞬きょとんとして、
それからにやっと笑った。
「じゃー、あれ呼べばいいじゃん」
「あれ?」
「ほら、最初に一緒に来たって奴。
皆にハブかれて、一人トボトボ帰った奴、いたでしょ」
……ああ。
アマギ。
「友達いなそうじゃん。カナタが呼べば、すぐ来るんじゃないの?」
俺は一瞬、言葉に詰まった。
そして、女たちの視線を感じて、口をついた。
「あー、あいつか。そうそう、ちょいちょい連絡来てるよ」
実際は、そんなことはない。
だが。
「さすがー」
「モテるー」
適当な相槌と笑い声が、周囲からも返ってくる。
胸の奥が、少しだけ軽くなった。
「どうすっかな。一回くらい呼んでやる?
ティナたちがいいなら、俺は構わないけど」
「キャハハハ。
ずっと前で肉壁するなら、混ぜてやるって言ってやりなよー」
ティナの言葉に、周囲が盛大に笑った。
……ああ。
(あいつなら別に、押し付けてもいいか)
俺は、グラスを傾けながら、そう思った。
そして、その名前を、頭の中でもう一度なぞる。
アマギ。
※本作は作者による構成・執筆を基に、一部AIを補助利用しています。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
ブックマークやいいね、本当に励みになっています。
本作は本日の更新を一区切りとして、更新ペースを少し落とします。
確定申告の準備で時間を取られるため、
ここからはまた週末更新を目安にしたペースに戻します。
原稿のストックがある程度たまれば、連続投稿も再開したいと考えています。
会計士さんにお願いしているので作業が完全に止まるわけではありませんが、
提出までの確認や整理に少し集中したい時期になります。
進み具合にもよりますが、可能であれば週末に更新します。
それが難しい場合でも、長く間が空くことはありません。
現在も執筆自体は進めていますので、生活のリズムが整い次第、
また連続投稿を含めた形で続けていきます。
引き続き、雨木とリフェリアの行く先を楽しみにしていただけたら嬉しいです。
また次の更新でお会いできれば幸いです。




