ダンジョンがくれた風
「フハハハハハ、究極の力を手に入れたぞ!!
逆らう奴は皆殺しだぁ!!!」
雨木楓真が高らかに笑って宣言をする。
「なーんてな。
ま、風魔法くらいじゃそこまでじゃないが、良いものをもらった」
足元には、ゴブリンの死骸が四つ。
それらは、ほどなく黒い霧を発して小さく光り、消えた。
後には何枚かのスキルカードが残されている。
確認しつつ、雨木はそれを回収した。
ここは、五階層のボス部屋。
緑色のきらめきから《風魔法/Lv.1》スキルカードを受け取った雨木は、
その勢いのまま、この部屋の扉を開けた。
中にいたのは、棍棒ゴブリン二体と、蠟燭ゴブリン一体。
そして、海賊じみたバンダナを巻いた、ナイフを持つゴブリン。
五階層の主、ゴブリンキャプテンだった。
戦いは、短かった。
部屋の前で火魔法をバールに纏わせていた雨木は、
部屋の中でも火が残っていることを確認すると、即座に投げた。
火を纏わせたバールは、棍棒ゴブリンを一匹、開幕と同時に戦闘不能に陥れる。
四対一は、三対一へと変わる。
これで、ゴブリンの優位は消えた。
雨木にとっては、ルーティーンが少し面倒になっただけの問題だった。
蠟燭ゴブリンと棍棒ゴブリン二体。
それらとの戦いは、三階層で何度も繰り返してきた。
棍棒ゴブリンの一匹が、ナイフ持ちのゴブリンキャプテンに変わったに過ぎない。
出し惜しみなく、残るスキルを纏わせた雨木は、
蠟燭ゴブリンとゴブリンキャプテンの位置に気を付けていれば、
そこまで苦戦する戦いではなかった。
それでも、初見のゴブリンキャプテンを切り刻もうとした結果、
蠟燭ゴブリンの鼻を切り落とすことは出来なかった。
深追いはせず、早めに戦闘を終わらせる判断に切り替えたからだ。
初見でのナイフは、雨木でも怖い。
トンファーで捌きつつ隙を狙ったが、蠟燭ゴブリンを残したままでは難しかった。
まず、蠟燭ゴブリンの火魔法を捌き、受けてから始末することにした。
次に、残る棍棒ゴブリンを。
どちらも、武器に火を纏わせて即座に処理した。
そうして、ゴブリンキャプテンと向き合う。
最後は、風魔法を纏わせたバールで、頭ごとバンダナを叩き落とした。
狙ってやったことではない。
だが最後に、そのバンダナがカードに変わった時、雨木はほくそ笑んだ。
他を回収し終えた後、床にはゴブリンキャプテンが残したゴブリンナイフと、一枚のカードが残った。
それを拾い上げた雨木は、記録書を呼び出し、アイテムスロットへと差し込む。
二枚目の風魔法スキルカードが手に入った。
「あん?」
次の瞬間だった。
周囲に漂っていた魔物の気配を、《レコルド》が吸い込むように瞬くと、
雨木の手から離れて、高く浮かび上がった。
独りでにページが捲られ、本は閉じる。
そして、輝いた。
「な、何だ!?」
その眩しさを、反射的に雨木は腕で防ぐ。
数秒で光は収まり、ゆっくりと《レコルド》は降下してくる。
雨木は《レコルド》を両手で受け止めた。
と同時に、ボス部屋の扉が、ゴゴゴと音を立てて自動的に開いていった。
「……意味が分からん」
呆気に取られる雨木。
(……ありがとう)
緑色のきらめきの声が響き、雨木は我に返った。
声の主は、ボス部屋の奥、ダンジョンポータルの方へと飛んでいく。
慌てて、雨木はそれを追った。
「これで、外に出られそうか?」
ボス部屋のダンジョンポータルの周囲を飛んでいた、緑色のきらめきに問いかける。
(……駄目っ)
(……これじゃない)
(……でられないっ)
緑色のきらめきから、悲痛な叫び声のようなものが次々と届く。
「帰還は、ここじゃなくてこの先だ。
六階層のダンジョンポータルだろ。
そっちに行ってからじゃないか?」
(……違うっ)
(……とおれないの)
「ふむ、根本的な問題か。
何かおかしいのか? どうする?」
よく分からず、雨木は頭を悩ませる。
緑色のきらめきは、そんな雨木の周囲をふわふわと、だが困ったように飛んでいた。
やがて、雨木の手に持っていた《レコルド》へと止まる。
まるで、ひと休みするように。
一瞬、それを蝶みたいだなと雨木は思った。
その瞬間、《レコルド》が再び瞬く。
心臓が振動するかのように。
何かを呼んでいるようにも、雨木は感じた。
「そういや、《レコルド》も、ボスを倒すと成長するんだっけか?」
《レコルド》は、五層刻みのボスを倒すことで色が変わる。
今まで、装丁と紋章が黒革と同じ無発光の初期状態。
通称、無紋だった《レコルド》は、
装丁と紋章が鉛灰色に輝く、灰紋の《レコルド》へと変わっていた。
「先に確認しておくか。何かヒントがあるかもしれない」
《レコルド》を開く。
違いは、すぐに分かった。
ページが増えている。
スキルカードを挿し込むスキルスロットのページ。
アイテムカードを挿すアイテムスロットのページ。
今までは、この二枚だけが《レコルド》の全てだった。
「ページが増えてるな。これは……ボスの名前と数字?
もしかして……復活する時間か?」
飾り気のない名前が二行。
その横に並ぶ数字が、カウントダウンのように減っていく。
上が、蠟燭ゴブリン。
下が、ゴブリンキャプテン。
蠟燭ゴブリンの残り時間は、七十時間あまり。
ゴブリンキャプテンは、百二十時間を少し欠けたところだった。
「ひょっとして、ボスの復活時間か?
だとしたら、凄く便利だけど……」
この数字には、心当たりがあった。
蠟燭ゴブリンは、おおよそ三日で復活すると雨木は見積もっていた。
その感覚と、ぴたりと合っている。
なら、今後はこのページを見てからダンジョンに入ればいい。
そう考えた雨木の前に、緑色のきらめきが、ゆらゆらと飛んでくる。
「あぁ、悪い悪い。今は、おまえの方だよな。
こっちじゃなくて……こっちのページか。
しかし、ふざけてるよな、《レコルド》。
いや、ダンジョンか。
ダンジョンがくれた能力だもんな」
雨木はページをめくり、表紙の裏へと戻る。
そこは、これまで無地だった場所だ。
今は、そこに文字が浮かんでいる。
「……風の微小精霊が、仲間になりたそうにこっちを見ている。
仲間にしますか?
yes/no……って、お前な……」
自分がドラクエネタを振ったからだろうか?
そう考えてジト目になる雨木。
緑色のきらめきは、《レコルド》の上に降りて止まった。
早くしろとでも言いたげに、ゆらめいている。
「分かったよ。イエス、イエス、イエス。
しかし、微小ってどんだけ小さいんだよ、おまえ。
……まあ、いいや。これからよろしくな」
雨木がそう言うと、緑色のきらめきが《レコルド》から浮かび上がる。
そして、緑色の蝶の姿へと変わった。
雨木の周囲を、優雅に舞い始める。
(……ありがとう)
その声は、もう頭の中ではなく、
微かな風と一緒に、耳元で囁かれるようになっていた。
「……蝶? いや、蛾か? どっちだ。
羽を閉じて止まるのが蝶で、開くのが蛾だっけか?」
その呟きを拾ったのか、緑色の蝶は《レコルド》の上に止まってみせた。
「……蝶ね。悪かったよ、蛾とか言って。
で、その姿なら通れるってことか?
さすがに今日、十階層まで行くのは勘弁してくれ。
手伝うのはいいが、いったん出て準備したい。
ダンジョンの外に出ないと、スキルが回復しないんだよ」
スキルは《レコルド》にカードを挿すことで使える。
だが、回数には制限があり、ダンジョン内では回復しない。
外に出ればリセットされる。
それをどう使うかも、冒険者の腕だ。
(……ついていく)
(……一緒)
その声と同時に、緑色の蝶が光る。
雨木には、その光景に覚えがあった。
蠟燭ゴブリンの火が、鼻が、
ゴブリンキャプテンのバンダナが、
スキルカードへと変わる時と、同じ光だ。
「なるほど。……いや、分からんけど。
まあいいや。これで、ポータルを通れるってことな。
オーケー、オーケー」
雨木は、無地のそのカードをアイテムスロットに挿す。
すると、モンスターカード『リフェリア』と表示された。
※本作は作者による構成・執筆を基に、一部AIを補助利用しています。




