緑色のきらめき
日間PV3400超えてました。誠にありがとうございます。
年末年始にたくさん読んでいただき、とても励みになります。
この先も雨木の物語を続けていきますので、よろしくお願いします。
四階層に入っても、やることはほとんど変わらなかった。
三階層と同じく、薄暗い通路と発光する壁面。
現れる敵も同じだ。
素手のゴブリンと、棍棒を持ったゴブリン。
待ち伏せが常套手段であることも変わらない。
雨木はスキルを使うまでもなく、それらを処理していく。
不意打ちに備えて上着を先行させ、トンファーで叩けば動きは止まる。
火を纏わせずとも、バールで殴れば倒れた。
通路の分岐を一つ一つ潰しながら、雨木は簡単な地図をメモ帳に描いていく。
曲がり角の数。行き止まり。
階段の位置まで続く経路を探しながら。
稼ぎながら、進路を確保する。
冒険者としては、ごく基本的な仕事だ。
そんな雨木の足が、ふと止まった。
珍しく、ゴブリンの騒ぐ声が聞こえた。
そっと覗くと、曲がり角の先で、三匹のゴブリンが輪になっていた。
何かを囲み、蹴り、叩き、笑っている。
ゴブリンダンジョンに潜るようになってから、しばらく経つ。
だが、そんな光景を見るのは初めてだった。
ゴブリン同士で争っているわけではない。
輪の中心にある何かを、三匹が一方的に弄んでいる。
緑色の、きらきらした何か。
壁の発光とは違う。
生き物のように、微かに動いている。
雨木は、少しだけ息を殺した。
(ふむ、イレギュラー、か。
ま、先に進んだんだ。そんなこともある……。
となると、あれは残したままがベスト)
そんな考えが、頭をよぎる。
(出し惜しみする場面じゃねーな。兵法は神速を貴ぶ、だ)
雨木はバールを構え、先端の尖った部分に意識を集中させる。
「《ファイア》」
火の塊が、刃の代わりに先端へまとわりつく。
即座に通路を飛び出した。
そのまま全力で、ゴブリンに向かって投げる。
火を帯びたバールが、一直線に飛ぶ。
手前のゴブリンの背中に突き刺さり、炎が爆ぜるように散った。
倒れるゴブリン。
やはり、投擲しても《ファイア》は維持される。
確認しながら、雨木は一気に距離を詰める。
左右の手には、鉄製のトンファー。
だが、飛び込んで、先ずは蹴った。
近い一匹を蹴り飛ばして、目標から引き剥がす。
そのまま、豪快に振り回す。
骨の鳴る音。
潰れる肉。
二匹目が倒れ、三匹目へと視線を向ける。
蹴り飛ばした三匹目は、奥へ逃げようとした。
追いついて、後頭部をトンファーで殴り飛ばす。
ゴブリンの輪は、あっという間に壊れた。
残ったのは、あの緑色の何かだけだ。
雨木が視線を向けると、緑色のきらめきが、ゆっくりと宙に浮かび上がった。
ゴブリンの死骸の隙間から、ふわりと。
それは何だか分からなかったが、百八十五センチある雨木の目線よりも高く舞い上がる。
その時、雨木の視界が一瞬だけ揺れた。
耳ではなく、頭の奥に、かすかな声が触れる。
(……虐めないで)
微かな、くすぐったい感触。
冷たい風が、脳裏を撫でるような感覚で、懇願してきた。
「……何だ?」
(助けて……)
言葉は、意味になる直前でほどける。
だが、感情だけは、はっきりと伝わってくる。
怯えている。それだけは分かった。
「だから、助けただろ? っていうか、それは俺の台詞だぞ。
ぷるぷる、ボクは悪いスライムじゃないよ?」
(…………)
(…………)
(……スライム……?)
安心させるつもりで言った冗談だった。
だが、困惑させただけだったことに気づいて、雨木は少し赤面する。
誰も居ない場所で良かったと思いながら、言葉を繋いだ。
「ええーい、兎に角、苛めるつもりなんかないの!
あったら助けないっての!
つーか、何なんだよ、お前? 説明しろよ!」
(……迷った……)
(分からない…………)
(……外に、出たい……)
「外? 迷った? 説明になってないんだけど?
さっきから、頭に声が響くの何なん?
ま、外に出たいってーなら、連れていってやるが…………
別に急ぐ用事でもないしな。一階まで一緒に戻るか?」
(……駄目っ)
緑の光が、わずかに脈打つ。
(奥……行く)
(風、感じる)
雨木の周囲の空気が、ほんの少しだけ軽くなる。
まるで、背中を押すように。
背後から、迷宮の奥へと誘われた気がした。
(……ねえ)
(扉、空けて)
「扉? ボス部屋のか?」
(……そう)
(そと、出たい……)
言葉の端々が、ひっかかる。
だが、意味は十分分かった。
五階層に、こいつを縛っている何かがいる。
(……助けて)
小さな、しかし、はっきりとした意志。
雨木は、その何かに心当たりがあった。
サークル臨時に参加したのは、それを見るためでもあった。
そして、それは今日の目的地でもある。
五階層最奥、ボス部屋。
その奥に在るダンジョンポータルだろう。
「……あー、行先は同じか。
最も、そこは今日の、俺の予定にはないんだけど。
でも多分、そこに行かないと、お前が何かは分からないんだよな?
なら、行ってもいい。どうせ、いつかはやる予定だったし。
ただ、もちっと、手札が増えてからのつもりだったんだよな……。
ふむ…… んー…… ま、男は度胸だ。良い機会か。やっちゃうか」
(……やった)
緑色のきらめきが、少しだけ強く脈打った。
風が、雨木の周囲で軽く跳ねる。
(……ありがとう)
その感情は、はっきりとした喜びだった。
(……手札?)
(……なに?)
「ん? ああ、手札な」
雨木は、肩に担いだバールを少しずらす。
「何か、新しいスキルカードとかを手に入れたら。
それをきっかけに挑むつもりだったって話だ。
五階層のボスな」
(……カード……)
緑の光が、わずかに揺れる。
きらめきが、今までよりも鋭くなった。
(……風……ある)
「風?」
(……あげる)
一瞬、空気が張りつめた。
緑のきらめきが、風を巻き込みながら、雨木の前に集まる。
空間が、かすかに歪む。
小さな渦が生まれ、その中心に、光の塊が凝縮されていく。
(……これ)
光が、紙の形に落ちる。
風に煽られることもなく、ゆっくりと。
雨木が手を伸ばすと、そこに一枚のカードが落ちた。
《風魔法/Lv.1》。
(……使って)
(……風)
雨木は、思わず息を呑む。
スキルカードは、モンスターからしか落ちない。
それが、この場で生まれた。
「……お前、何者なんだよ」
(……風)
それだけが、返ってきた。
※本作は作者による構成・執筆を基に、一部AIを補助利用しています。




