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現代にダンジョンが出来たので好色に生きようと思います  作者: 木虎海人


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 サークル臨時⑥


 雨木は自宅の机に広げた参考書を見つめていた。

久しく触れていなかった英文法に指を滑らせながら、一つずつ確認していく。

ページの端に走る小さな例文をつぶやいては、首を傾げまた戻る。

ダンジョンの戦闘のような緊張はないが、頭の芯がじわりと疲れる感覚が続いていた。


 しばらくして区切りをつけ、ペンを置いた雨木はゆっくり息を吐いた。


 ダンジョンに潜るだけなら単純だった。

だが、その先の生活まで含めて考え始めると、話は一気に複雑になる。

冒険者になったことで、考えることが増えていた。


 いまは専業の冒険者だ。

そのため税率は二割ほどで済んでいる。

危険を伴う職業であること、そして魔石という国家資源を扱う立場であること。

その二点を理由に、専業冒険者には一定の優遇措置が取られている。


 だが、これが再就職して兼業冒険者になれば話は変わる。

税率は一気に五割へと跳ね上がる。

表向きの理由は単純で、

「本業が別にある以上、冒険者としての活動は副収入扱いになる」という理屈だ。


 だが実際は、それだけではない。

冒険者が稼げるという話は、すでに広く知られている。

冒険者になる前の雨木も、その噂は耳にしていた。


 だからこそだ。

二足の草鞋で大きく稼がせないために、制度はそう設計された。

政治家――特に国会議員たちが、あらかじめ付けた首輪だ。


 働けば働くほど、危険な場所に足を運んで稼げば稼ぐほど、税金で持っていかれる。

この仕組みが、ダンジョン後進国と日本が揶揄される理由の一つであることは間違いない。


 雨木にこのまま専業の冒険者を続けるという選択肢はない。

いずれどこかで再就職し、兼業という形に切り替えるつもりだ。

ある程度の蓄えさえ出来れば、すっぱり冒険者からは手を引いても構わない。

だがそれが現状では難しいことも、分かっている。


 冒険者は稼げる、とは思っている。

だがダンジョンに入れば、日常生活とは比べ物にならないほどの危険がつきまとう。

それはダンジョンに入れば入るほど、確率が上がる。

一攫千金に届くほどのプランを、雨木はいま持っていない。

繰り返し潜って、手堅く稼ぐしか手段がない。


 兼業冒険者の高い税率は、笑って見過ごせない制度だった。

だがそれでも、冒険者を永遠に続けるなど、雨木にはあり得ない選択肢だ。


 差し当たって来月のTOEICに申し込んでおいた。

海外のダンジョンも視野に入れておこうという考えが背中を押したからだ。

冒険者資格は国内限定という決まりはない。

申請すれば海外で活動できる。

その場合、手続きが少し面倒で、現地の規則を守る必要がある。

最初に説明を受けた時は、特に魅力を感じなかった。


 だが調べてみれば、冒険者に対する税が軽減されている国も多かった。

特にダンジョン先進国と呼ばれる攻略の進んだ地域では、冒険者は優遇されていた。

もちろん制限や規約が日本より厳しい国もある。

だが命を削って潜る対価としては理解できると雨木は考える。


(再就職にも無駄じゃ無いし、英語はやり直しておく。

最悪の場合、必要なら移住も視野に入れられる。

それはそれとして無職のうちに、いくつか資格を取っておきたい。問題はどの分野を勉強するか、だ。まったく無意味な資格を勉強しても時間の無駄だしな。

だったらその時間にダンジョンにでも入ってた方が金になる)


 前職を辞めたあとは、またエネルギー関連に戻る選択肢を考えていた。

魔石を燃料とする研究は世界中で進んでいる。

冒険者経験が活きる場面もあるだろうと思っていた。


 だが実際に退職して余裕のある生活を送ると、考えも変わる。

苦労したエネルギー関連に戻るより、まったく違う分野を見てみたいという気持ちが湧いた。

そして何より、再就職するならホワイト企業が良いと強く思うようになった。


 エネルギー関連はいまはバブルと言ってもいい。

この勢いはまだしばらく続くと雨木は見ている。

その中にわざわざ飛び込むのもどうなのか、冷静に考えるようになった。


 思考の海に沈んでいた雨木の視界に、イージス端末が入った。

端末のランプが点滅している。誰かからの連絡だろう。

勉強の邪魔になるので放置していたが、仕方なく確認することにする。


 最近いちばん多い連絡は、コメットだ。


『本当はアカンのやけど、アマギはんならウチが頼めば入れるし。意地はらんと、一緒に来ぃひんか?』


などと、言い回しを変えながら、毎回サークル臨時への誘いが送られてくる。


「うっざ。すっかりサークルの姫気分だな、この人」


 サークル臨時には、結局四度ほど試しで参加した。

最初のサークル臨時では色々あった。

あれ以来、カナタとは話していない。

帰り道も精算後も、カナタは新しい知り合いに囲まれて過ごしていた。

邪魔する気もなかったので、雨木は一人でさっさと帰った。

それきり連絡もない。こちらからする気もなかった。

それでいいと、雨木は思っている。


 その後、コメットからも誘いが来た。

前回とは別のサークル臨時であることを条件に二度参加したが、結果は散々だった。


 一回目は、そこまで気になるほどではなかった。

だが今思えば、その時点ですでに兆しはあったのだと思う。


 経験値稼ぎに来たはずなのに、コメットは狩りよりも常連と話している時間の方が長かった。

ダンジョンの中でも、休憩中でも、自然とそちらへ寄っていた。


 もっとも、サークル臨時の目的は人それぞれだ。

黙々と狩る者もいれば、顔を繋ぎに来ている者もいる。

だから雨木は、特に気に留めなかった。


 その後、またコメットから同じサークル臨時に誘われた時は「???」だった。

断るもしつこいので、「別のなら」と条件を出して渋った。

もう一回くらいは、他のサークル臨時も見ておきたいと思ってのことだったが、それがまずかった。

前回一緒だった連中が何人も来ていて、

気づけば、コメットを中心にした輪が出来上がっていた。


「結局サークル臨時の大半は横殴り組と押し付け組なんだな。それがよく分かった。

参加した意味はあったが、もう充分だ。お腹いっぱい。無視無視」


 コメットとの二度目のサークル臨時の感想は、一言で言えば「腹が立つ」だった。

横殴り組に囲まれて持ち上げられたコメットは、

いつの間にか、雨木が魔物の正面に立つ形になるような立ち回りをしていた。

それに付き合う気はなかったので、放り出したのは言うまでもない。

最終的に後方で単独参加者として、何を言われても知らん顔で過ごした。


「男といる時は強気な態度だったくせに、メールだと随分下から来るもんだ。

ちょっと顔がいいくらいで、男がみんなチヤホヤすると思うなよ、クソ女が」


 雨木はイージス端末を放り出し、スマートフォンを手元に寄せた。

スマホ二台持ちは金がかかる。

だが冒険者を辞めた後、イージス端末は使えなくなる。

そのたびに新しく契約し直すのは面倒だ。

とくに番号が変わることが嫌なので、前の契約もそのまま継続している。


 音楽アプリを起動し、英語の勉強に戻る。

そして、ため息をひとつ。


「冒険者登録してから、碌な出会いがねぇ」


そう呟いた。


※本作は作者による構成・執筆を基に、一部AIを補助利用しています。


また、ブックマークやいいね、星、レビューをいただいた方、誠にありがとうございます。

読んでくださっている方がいると実感できて、とても励みになります。

今後ともよろしくお願いいたします。


1/4 コメット関連を一部修正しました。

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