サークル臨時④
「どけ!!」
叫びながら走るカナタを、雨木は追った。
傍観していた参加者たちが、反射的に道を空ける。
カナタはその隙間を、全力で駆け抜けていく。
(くそがっ、アーチャーかよ)
開けた人垣の先に、弓を持ったレッサーコボルトが見えた。
三匹。
弓持ちは、九階層から現れる射程持ちだ。
これまでは、群れに一匹混じる程度だった。
そのたびに魔法スキルカード持ちが即座に処理していた。
――だから、今まで問題にならなかった。
今は違う。
前の群れの始末も、終わっていない。
(処理が追いつかないからって、人身御供にしやがったな)
雨木とカナタは、ともに作業服姿だ。
だが足元が違う。
カナタはスニーカー。
雨木は安全靴。
全力で走るには向かない。
そうでなくても、元ラガーマンのカナタに、走力では敵わない。
距離は、みるみる開いていく。
だが、そのカナタでも間に合わない。
三匹のレッサー弓コボルトが弦を張った。
そして――放つ。
速い。
女性冒険者に向かって、三本の矢が飛ぶ。
「オオオラァ!!」
女性冒険者が声を上げ、剣を振る。
一本、二本。
矢を弾き、三本目が肩口に突き刺さった。
反射的に肩を押さえる。
だが、アーチャーレッサーコボルトは止まらない。
次の矢を、迷いなく番える。
(……終わった)
雨木がそう思った瞬間だった。
カナタが飛び込み、女性冒険者を抱えるように転がる。
二人は地面を転がり、
カナタの太腿を、矢がかすめていった。
(最高かよっ、あいつ!)
カナタが作った一瞬。
それを無駄にしないため、雨木は必死に走った。
そして、飛びこむ。
ギリギリのタイミングだった。
アーチャーレッサーコボルトが次矢を放つ直前に飛び込み、
上段からバールの先端を振り下ろす。
手応えがあった。
叩き潰した感触が、遅れて掌に伝わってくる。
弓を引き絞る寸前だったことが幸いした。
狙いはカナタから雨木へと移る。
放たれる二本の矢。
その瞬間を狙い、雨木はカナタにならって転がった。
回転して転がる雨木の、通り過ぎた地面に矢が突き刺さる。
起き上がった視界の先で、次の矢を番えようとするレッサーコボルトが見えた。
そして、そのさらに奥。
飛び込んでくる押し付け組の面々が見える。
――あとはいつもの流れだった。
立ち上がろうとする雨木。
転がった姿勢のまま顔を上げるカナタと、女性冒険者。
三人を置き去りにして、経験値稼ぎは滞りなく遂行されていく。
アーチャーレッサーコボルトが、背後から押し付け組に叩き潰されていくのを横目に、雨木は足を止めた。
もう敵意はこちらに向いていない。経験値稼ぎは、これまで通り滞りなく進んでいる。
危機は去った。ならば自分のすべきことは、
「カナタ、傷……」
声を掛けようとして、雨木は言葉を切った。
先に立ち上がったカナタが、雨木の横をすり抜けていったからだ。
振り向いた雨木の視線の先。
カナタの向かった先には単独の女性冒険者を、さきほど突き飛ばした男がいる。
押し付け組の一人。
何事もなかった顔で、戦闘を終えたばかりの空気に溶け込んでいた。
次の瞬間。
カナタが、その男に突っ込んだ。
肩口からのタックル。
体重を乗せ、地面に叩き伏せる。
「てめぇ、女を突き飛ばしただろっ!」
馬乗りになり、拳を振り下ろす。
「見てたぞ。わざとだよなぁ! ざけんなっ!!」
乾いた音が響く。
だが、相手も黙ってはいない。
体格は、雨木やカナタと並ぶほどだ。
地面を蹴り、腰を捻り、体勢を入れ替える。
「なめんな、この野郎!」
勢いのまま、今度はカナタが下になる。
拳が振り下ろされる。
周囲から、短いどよめきが上がった。
――あ、乗り遅れた。
雨木は、そんなことを考えてしまった自分に、少しだけ落ち込む。
「……いいんですか? 止めなくて」
横から、女性冒険者の声がする。
肩口を押さえ、不安と困惑が混じった目で、殴り合いを見ていた。
「あぁー……止めるべきですかね?」
雨木は返事に詰まる。
周囲の参加者は、誰も動かない。
止める者も、加勢する者もいない。
どうやら、ここはそういう場所らしい。
なのに自分が飛び込んでいいのか。
仕掛けたのはカナタだ。
相手は受けて立った。
元空手家の雨木は、こういう場面に弱い。
一対一の殴り合いに、手を出しあぐねてしまった。
次の瞬間だった。
横合いから、カナタの脇腹に蹴りが入る。
「クソ生意気な新人に、調子乗らせてんじゃねーよ!」
叫んだのは、押し付け組の、別の男だった。
「ボコっちまえ!」
倒れたカナタを蹴りながら、そいつが叫ぶ。
その声を合図に、二人、三人とカナタに向かって動く。
――あ、ダメなやつだった。
思考より先に、雨木の体が動いていた。
出来た人の輪を掻き分け、走る。
前に出る。
そして地面を蹴った。
高く跳ぶ。
空中で狙いを定め、そのまま――
最初に蹴りを入れた男の顔へ、ライダーキック。
鈍い衝撃音。
男が吹き飛び、転がる。
着地と同時に、トンファーを振る。
両手で左右を容赦なく、間髪入れずに薙ぎ払った。
カナタに群がっていた押し付け組が、悲鳴とともに崩れた。
※本作は作者による構成・執筆を基に、一部AIを補助利用しています。
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