サークル臨時②
「おぉ、さすがにこれは壮観だな。冒険者ってこんなにいるんだな」
雨木楓真は、ダンジョンを奥へと進んでいく人の流れを眺めて言った。
視界に入るだけでも相当な人数だ。装備も年齢もばらばらで、いかにも寄せ集めといった雰囲気がある。
これほどの人数でダンジョンを進むのは、雨木にとって初めての体験だった。
足音が重なり、装備が擦れる音が絶えず響く。
空気の重さすら、いつもとは違って感じられる。
今回参加しているのは、都内にある通称コボルトダンジョンで行われるサークル臨時だ。
主催は深淵十二紋の一つ、フィロソフィアという冒険者チームの下部組織。
深淵十二紋の中でも勢いのある大手で、サークル臨時としては最大級の規模になるらしい。
「正直、もっと小さい集まりかと思ってた」
人の多さに目を向けたまま、雨木がそう漏らす。
「このサークル臨時、規模が売りなんだよ。主催もフィロソフィア系だし、変な事故は起きにくい」
隣を歩くカナタは、どこか得意げだった。
「確かに人数は多いな」
「多い方がいいんだって。主催が強い敵を全部抑えてくれるし、参加者はレッサーだけ殴ってればいい」
カナタは前方を指さす。
集団を先導する冒険者たちの動きには無駄がなく、慣れがはっきりと見て取れた。
「大きな事故の話もない。曜日も時間も固定だから、仕事しながらでも続けやすい。だから参加人数も安定してる」
「へー、そこまで調べてたのか」
「そりゃな。どうせやるなら、ちゃんと稼げるところがいいだろ」
そう言って、カナタは肩をすくめる。
このサークル臨時に参加することを決めたのは、ほとんど彼の判断だった。
誘ってきたのも彼で、雨木はその選択に乗った形になる。
「まあ、大がかりな方が安全ってのは分かる」
「だろ。最初は地味でも、積み重ねるならこういう場所だ」
サークル臨時の内容自体は単純だ。
端的に言えば、経験値稼ぎのためのイベント。
主催チームが危険度の高い敵を担当し、参加者は指定された比較的弱い魔物を倒す。
いわゆるレベル上げ用の即席パーティ編成である。
今回の主催チームは八名。
対して、参加者は四十名を超えている。
ここ、コボルトダンジョンに出現する魔物は、その名の通りコボルトだ。
犬が二足歩行したような、毛むくじゃらの魔物である。
本日の目的地は九階層で、そこまでは平原が続く構造になっている。
九階層までは、レッサーコボルトと呼ばれる最弱種しか出てこない。
コボルトは三匹から五匹で群れて行動する習性を持つ。
そのレッサーコボルトを、参加者四十名以上で殴る。
簡単な作業だ。
少なくとも、そう思っていた。
主催チームは待機しているが、強敵が出るまでは基本的に動かない。
参加者同士でレッサーコボルトを囲んで倒す必要がある。
そうなると役割は自然に分かれる。
正面で相手をする者と、横や後ろから殴る者だ。
参加者は一人から五人程度の小グループに分かれて動いている。
とはいえ、完全に離れて行動するわけではない。
考え方の近い連中で、自然と固まっているだけだ。
このサークル臨時は、既に完全な定番になっている。
開催は週に三回。曜日も時間帯も固定だ。
仕事終わりでも参加しやすいように調整されており、兼業冒険者が多いのもそのためだった。
決まった時間に集まり、決まった階層まで進み、決まった流れで解散する。
効率と安全性を最優先した運営で、初心者にも参加しやすい。
その代わり、変化は少ない。
だからこそ、顔ぶれも自然と固定されていく。
先頭を進むグループが二つあった。
いずれも慣れた動きで、進行ライン上のレッサーコボルトだけを確実に処理していく。
位置の悪い群れや、ルートから外れた敵には手を出さない。
戦わずにやり過ごす判断も、彼らにとっては効率の一部だった。
問題は、その少し後ろを進んでいる連中だった。
四人から六人ほどで固まり、一定の距離を保ちながら様子を伺っている。
前に出るわけでもなく、完全に遅れるわけでもない。
先頭集団が処理せずに通過したレッサーコボルトが出現した時だけ、動く。
処理されずに残ったレッサーコボルト。
進行ルートから外れた平原に現れた群れ。
そういった敵が見えると、彼らは一斉に距離を詰める。
ただし、正面には立たない。
不慣れな参加者や、判断の遅れた冒険者が前に出るのを待つ。
敵の注意がそちらに向いたのを確認してから、横や後ろに回り込む。
安全な位置から攻撃し、危険は押し付ける。
自分たちでは絶対に、正面に立たない。
そういう連中が、ざっと見て二十人ほどを占めていた。
いわゆる横殴りが、このサークル臨時では当たり前の光景になっている。
誰かに押し付けられたレッサーコボルトに、他の連中が集まる。
その動きを、雨木は何度も目にしていた。
最初は気のせいだと思った。
いや、思おうとしたのかもしれない。
偶然、役割が分かれているだけだと。
だが、すぐに分かった。
雨木もカナタも、押し付けられたからだ。
後ろから殴る連中は、決して前に出ない。
レッサーコボルトの正面を受けもたされる。
その隙を見て、後ろからなだれ込んでくる。
危険だけを押し付けられ、経験値は持っていかれる。
それが、数度続いた。
「……あれさ」
雨木が小声で言う。
「うん」
カナタは視線を前に向けたまま、短く返した。
「わざとだよな?」
「だろうな。こういう仕組みなんだろ、サークル臨時」
否定も擁護もしない、淡々とした声だった。
「効率はいいんだろうな。危険も少ない……あいつらは、だけどな」
雨木は言葉を切る。
理解できないわけではない。
だが、納得できるかは別だった。
「チッ。どこにでもいるな、ああいうの」
戦わない冒険者がいること自体は、雨木も知っていた。
前回の臨時でも、そういう連中と一緒になり、二人は散々な目に遭っている。
「どうする。このままってのもムカつくぜ」
苛立ちを隠そうともしない声だった。
「とりあえず、少し下がろう。この位置だと、また押し付けられる」
カナタの問いに、雨木が即座に答える。
前回もそうだったが、カナタは怒っている時ほど前に出る。
それを知っている雨木は、先に動きを止めた。
周囲では、押し付けグループが一定の距離を取って様子を窺っていた。
雨木たちが一歩下がると、そいつらは一瞬だけ動きを止める。
狙いがばれたことに気づいたのだろう。
数人が顔を見合わせ、露骨に舌打ちをした。
ニヤニヤしていた表情が消え、代わりに苛立ちが滲む。
視線だけが、次の押し付け先を探すように周囲を彷徨っていた。
※本作は作者による構成・執筆を基に、一部AIを補助利用しています。
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