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現代にダンジョンが出来たので好色に生きようと思います  作者: 木虎海人


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 三階層の異形


 階段を降りると、空気が変わった。

苔の匂いは濃くなり、通路のあちこちに黒ずんだ穴が口を開けている。


 ダンジョンは二階層から罠が現れるという。

ゴブリンダンジョンの罠は、落とし穴のようだ。

といっても、深さはせいぜい一段差ほど。


(落とし穴だけで大惨事にはならない。

だが、足を取られたら、それが命取りになりかねない。気を引き締めよう)


 二階層に現れるゴブリンも、変わらず素手のままだった。

飛び出してくる一匹を、雨木はトンファーで弾き飛ばし、バールで叩き潰す。

一階層のときよりも動きが鋭く、反応が冴えてきていた。


「……順調だな」


 壁際に寄りかかった雨木は、作業服の懐からメモ帳を取り出して開いた。

通路の分岐と目印を、簡単に書き留める。

後で戻る時や、次に潜る時のための記録だ。ここまでも何度も繰り返している。


 こういった地味な作業を面倒くさがり、ミスに繋げた人間を、雨木は前職で何人も見てきた。

自分自身でも、過去に幾度か経験している。


 冒険者としてのミスは命に直結する。

疎かにはできない。


 メモをしまい、深く息を吐いて、また進む。

足元に気をつけながら進めば、二階層も一階層と同じ要領で踏破できた。


 何匹かを倒した頃、石段が再び現れる。

湿った風が吹き上がり、雨木は口角をわずかに上げた。


「……もう三階層か。今日は良い感じだ。戻って、また来るってのも面倒くさい。行くか、この勢いで」


死んだら俺は、そこまでの男だった。

そう割り切って、雨木は階段を下りた。





 三階層の空気は、さらに重かった。

胸の奥をざわつかせる冷たさが漂い、湿気だけでなく空気そのものが微かに震えているようだった。


 だが、やることは変わらない。


 曲がり角の手前で立ち止まり、作業服の上着をバールに引っ掛ける。

角の向こうへ、そっと差し入れた。


 ――ガツンッ。


 闇の奥から影が飛び出してくる。

ゴブリンだ。それは変わらない。

だが、ひとつ大きく変わったところがあった。

無手ではなく、握っているのは粗末な木の棍棒。

布を弾いた一撃が、石床を叩き、鈍い音を響かせた。


 武器を持った分だけ、見た目の迫力は増していた。

だが棍棒は、何の変哲もないただの棒で、雨木は脅威とまでは捉えない。


 体勢を崩した影へ即座に踏み込み、トンファーを薙いだ。

骨の感触が腕に伝わり、ゴブリンは壁際へ弾け飛ぶ。

それでもまだ、よろよろと立ち上がり、必死に棍棒を振り上げる。


「ふむ、昔、なんかであったな。

『武器を持つことが、必ずしも強くなることとは限らない。選択肢を減らすだけのこともある』って奴、それを思い出した」


 雨木はゴブリンよりも高く、バールを構える。


――グシャリ。


 そして、ゴブリンよりも早く全体重を乗せて振り下ろした。

飛び散った赤が光に呑まれ、影が霧散する。

手にしていた棍棒も、同じ光に飲まれて消えた。


「正直、爪とか牙のが怖かった」


 吐き捨てるように言い、雨木は静かに呼吸を整える。

棍棒を握ったことで奴らの動きは単調になった。

型に嵌まった分だけ読みやすい。

むしろ、一階層より楽に感じる。


魔石を拾い、ポーチに収めながら雨木は進む。

角ごとにメモを取る所作は崩さない。





 これまでと変わらない、石造りの部屋だった。

ただ、壁の一角にだけ、一本の蠟燭が掛かっている。


「ん? ロウソク?」


 ダンジョンの中は、一部の石が光を放つだけで、どこも薄暗い。

ここまでに、そんな物はなかった。


 珍しいな、と雨木は思う。

それはイコール、胡散臭い、だ。

そして、だからといって避けて通る男でもない。

警戒しながら、ゆっくりと近づく。


――カタンッ。


 いくらか近づいた瞬間、蠟燭が音を立てて外れ、床へ落ちた。

火は消えず、赤い光を撒き散らしながら、まるで蠢くように広がっていく。

蠟燭は踊るように揺れ、また揺れて踊った。

動きは徐々に小さくなり、やがてストンと直立する。


 次の瞬間――そこから何かが“生えた”。


 煤にまみれた小柄な影が、ゆっくりと地面を押し割るように立ち上がる。

赤い炎の光が、その輪郭を不気味に照らす。

頭上の炎は冠のように揺れ、燃える蠟燭が突き刺さっていた。


《三階層には一匹だけ特殊な魔物が出る》

掲示板で読んだ断片的な情報が、脳裏をかすめる。


「……蠟燭ゴブリン、か。まんまだな。が、ひねる間もねぇ」


苦笑まじりの呟きが、湿気の中に溶けた。


だが、すぐに息を詰め、トンファーを握り直す。

踏み出そうとしたその瞬間、奥の通路の闇から二つの影が飛び出した。


棍棒を構えたゴブリンが、二匹、駆けてくる。


「ちっ、仮にもボスの癖に……サシで勝負できねぇのか。セコイんだよ」


舌打ちしながら位置を測る。

中央に蠟燭ゴブリン。

その左右に、棍棒を構えた二匹のゴブリンが収まる。

三対一。真正面からの囲みだった。


「……なら、先に消えてろ!!」


雨木はバールを逆手に握り、狙いを定める。

そのまま鉄の塊は、一直線に飛んだ。


――ガンッ。


右側のゴブリンの肩口に、バールの先端がめり込み、悲鳴が上がる。

棍棒が床に落ち、体勢が崩れた。


「まず一つ!」


残るは正面と左側。

雨木は腰のホルダーからもう一本のトンファーを抜き、両手に構える。


左から振り下ろされる棍棒。

雨木はそれを左手のトンファーで受け止めた。

衝撃が腕に響くが、すぐに弾き返す。

すかさず右手のトンファーを振り抜き、敵の頭を叩く。


――ガギッ。


 乾いた音。ゴブリンがぐらりと揺れ、動きが止まる。

雨木は振り抜いた右のトンファーを、左手のトンファーに打ちつける。

その衝撃を軸に腰を切り、裏拳の要領で振り回す。

崩れかけたゴブリンの逆頭部を、横から弾き飛ばした。


「残念。バールは素人、振るうだけ。こっちなら技量を持って振り回せる」


 だが、左のトンファーで追撃しようとした雨木は、正面の蠟燭ゴブリンを視界にとらえた。

頭上の炎を大きく揺らして、構えていた。


 次の瞬間、炎がちぎれ飛ぶ。

小さな火の塊が、一直線に雨木へと迫る。


 火球というほど整ったものではない。

だが、燃えた石炭を投げつけられたような熱と閃光が襲いかかる。


「……ヤバ」


 咄嗟に身を捻り、石床すれすれで躱す。


――ゴォンッ。


 火の塊が壁に直撃し、赤い火花が散った。

火花が弾け、視界が一瞬だけ白む。

かすめた熱気に、焦げた臭いが混じった。


「なんだそれ? 無茶苦茶だぞ? くそがっ!」


 雨木は歯を食いしばり、トンファーを構え直す。

火を操る敵――未知の魔法。


ここからが、本番だ。


※本作は作者による構成・執筆を基に、一部AIを利用して調整しています。



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