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捨てられた壁令嬢、北方騎士団の癒やし担当になる  作者: 瀬尾優梨
番外編 いろいろ

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シャノンを守れ!②

 夜。


「シャノン、いるかな?」


 事務官室で本日の作業の仕上げをしていたシャノンのもとに、ドアのノックと低く艶やかな声が響いた。その声に、帳簿とにらめっこしていたシャノンははっと顔を上げる。


「はいっ、エルドレッド様!」

「入るよ」


 思わず弾んだ声を上げたシャノンは、ドアを開けて姿を現した婚約者を見て胸がどきどきしてきた。

 エルドレッドと婚約して、半月ほど。若き辺境伯家当主であり北方騎士団長でもあるエルドレッドと結婚の約束をしたなんて、今でも信じがたい気もする。


 エルドレッドはシャノンを見てふわりと笑い、こちらまでやってくると髪の房を手に取ってそこにキスを落とした。


「こんばんは、我らが事務官殿。……今日はずっと会えなくて、寂しかった」

「エルドレッド様は朝から外出なさってましたからね」

「ああ。……まだ仕事か? それなら後でいいのだが」

「まだ少し残っていますが、時間なら大丈夫ですよ」


 シャノンがそう言って帳簿にペンを挟んで閉じると、エルドレッドは柔らかい眼差しでシャノンを見てから一つ咳払いをした。


「少し話したいことがあったんだ」

「はい、なんでしょうか」

「……その、今日出かけた帰りに、町で買い物をしたんだ。手袋なんだが、並べられているときには畳まれていたためサイズがわからず、いざ買ってみたら私にはかなり小さかったようで。もったいないから、シャノンがもらってくれないかと」

「……」


 シャノンはゆっくり瞬きして、エルドレッドが差し出したものに視線を落とした。


 エルドレッドが間違って買ったという、手袋。確かにサイズは小さめで、彼の大きな手だと親指以外の指を通したところで引っかかってしまいそうだ。


 ……だが。


「……これ、本当に間違えて買ったのですか?」

「そ、そうだとも。なぜだ?」

「あなたが自分用に買うにしては、かわいいデザインだと思いまして」

「うっ……」

「あと、ですね。私、今日一日で数え切れないくらいたくさんのものを皆からもらったのです」


 エルドレッドの好きな青色だがどう見ても女性向けデザインの手袋から視線を外し、シャノンは肩をすくめた。


 朝テルヒからもらった毛糸の靴下もどきから始まり、ブランケットやマフラーなどの身につけるものから、食べ物や飲み物、はたまた「古くなったから」と言って渡されたクッションまで、とにかくあらゆるものをもらう一日だった。


 皆、「間違えて買った」「代金はいらない」「もらってくれたら嬉しい」というスタンスなのでシャノンも断りきれず、結果としてシャノンの部屋にはぬくぬくグッズが大量に集まったし、いろいろなものを食べたり飲んだりもした。


 なぜ皆はこんなに自分に貢ぐようなことをするのだろうかと思うが、皆に聞いてもはぐらかされるのみ。

 そうしてとうとうエルドレッドまで見え見えの嘘をついて手袋を持ってきたので、彼を問い詰めることにしたのだ。


「なにかあるんですよね? 私、こんなにいろいろもらう理由がわからなくて……」

「それは……その……。……したんだろう」

「なにをですか?」

「シャノンが、部屋の外まで響くほどのくしゃみをしたと聞いた」


 エルドレッドが観念したように言うので、シャノンはしばし考え込み。


(……それって、昨日のあれ!?)


 自分以外誰もいないからと事務官室で盛大なくしゃみをかましたのが、昨日のこと。そういえばあのとき、廊下の外で何か音がすると思ったのだが……誰かに聞かれていたということか。


「誰が言いだしたのかはわからないが、私はそれを聞いていても立ってもいられず……だがシャノンのことだから遠慮するだろうと思って、言い訳を考えたんだ」

「……なるほど。皆も、同じことを考えたのですね」


 だから皆、やけに言い訳がましかったのか。テルヒなどはスマートだったが、アハトなどは半ば無理矢理持たせてきたものだ。


 皆、シャノンがくしゃみをした……寒さで風邪を引いたのではないかと思った。だが個人的な贈り物をするのはよくないからと、「もらってくれたら助かる」という方向性でプレゼントをくれたのだ。


 エルドレッドが、苦笑をこぼした。


「どうやら、皆に先を越されていたようだな。……皆、シャノンに健康でいてほしいんだ。もちろん、私もそう思っている」

「エルドレッド様……」


 シャノンはふふっと笑い、エルドレッドが差し出したままだった手袋を受け取った。


「ありがとうございます。……私、幸せ者ですね。こんなにたくさんの人から、気遣ってもらえるなんて」

「ああ、そうだな。皆、シャノンに元気でいてほしいんだ。下手くそな言い訳だったのだろうが……全部、シャノンのことを思ってのことなんだろう」

「はい、今ではわかります。……皆にちゃんとお礼を言いたいけれど、それは逆に困らせてしまうでしょうか」

「そうだな……。シャノンは必要以上に礼を言ったりかしこまったりせず、皆がくれたものを普段から使ってあげればいいだろう」


 エルドレッドはそう言ってから、気恥ずかしそうに頬を掻いた。


「それに、俺の手袋も使ってくれたら嬉しい」

「ありがとうございます。是非使いますが……」

「ん?」

「……実は今日一日で手袋、三つももらっているんです」

「……なん、だと?」

「もう持っていると言っても、予備でいいから受け取ってほしいと言われて、断れず。……ふふ。私もう一生、手袋を買わなくてよさそうですね」


 そう言ってシャノンがエルドレッドから贈られた手袋を両手に嵌めると、彼は照れくさそうに笑った。


「そうだな。じゃあその手袋は、私と一緒に出かけるときなどに嵌めてほしい」

「そうします。……ありがとうございます、エルドレッド様」

「かわいいシャノンのためだよ」


 エルドレッドが微笑むとシャノンの頬に触れ、反対側の頬にそっとキスを落とすものだから。


 手袋を嵌めた手より、テルヒからもらった毛糸の靴下もどきを履いた足より、ブランケットを乗せた膝よりも。

 彼に触れられキスされた頬のほうが、温かかった。

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― 新着の感想 ―
とてもほのぼのとして、新年から心温かくなる物語を読ませていただきありがとうございました。一晩かけて一気に読み進めました。涙あり、笑いありで、読後感もよろしくて、本当によかったです。 この2人のその後が…
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