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捨てられた壁令嬢、北方騎士団の癒やし担当になる  作者: 瀬尾優梨
本編 秋から春

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26 シャノン、悩む

 エルドレッドたちが、ユキオオカミ調査に出発した。


 早ければ一日で調査が終わり、明日の朝には帰ってこられるという。もし予想以上に手間取ったとしても無理はせず引き上げ、翌日中には必ず戻るようにしている、と教えてくれたのはディエゴだ。


 騎士団の精鋭と辺境伯家当主がいないとはいえ、城の人々にはそれぞれの仕事がある。

 それは騎士団の記録を取るという役目のあるシャノンも例外ではなく、居残り組の騎士たちの訓練状況や届いた手紙の選別作業、劣化した備品の調査や新品購入案を作ったりと、やることはたくさんある。


 ……忙しい方が余計なことを考えないので、今のシャノンにとってはありがたかった。


 一生懸命ペンを動かしていると文字と数字で頭の中がいっぱいになるが、ひと休憩ということでココア入りのマグカップを手に椅子に座った途端、エルドレッドの『ご褒美』によって考えを全て奪われてしまう。


(これって、本当の本当に……そういうやつなの?)


 あえて砂糖を入れず苦めに淹れたココアだが、それをもってしてもシャノンの胸の中の甘くてどろっとしたものを中和するには苦みが足りない。


 王国の子爵令嬢として二十一年間生きてきたのだが、決して箱入りの初な娘というわけではない。

 異性との交流経験値は低くて元婚約者のジャイルズとも手をつなぐことさえ稀という程度だったのだが、なんといってもシャノンには恋愛体質な姉と妹がいた。


 守ってあげたくなるような女性が好きな男性は姉のダフニー、奔放でなまめかしい女性が好きな男性は妹のオリアーナのところに集まっていた。

 そんな姉妹なので恋愛経験も豊富でかつ基本的に互いの仲が悪いので、自分の方が上手だの恋人を喜ばせただのということでよく言い合いをしていた。


 ……言い合いは勝手にすればいいが、そこにシャノンもよく巻き込まれた。

 姉妹は互いを言い負かすだけでなく、間に置かれた恋愛経験皆無なシャノンが恥ずかしそうな居たたまれなそうな顔をするのを眺めるのも好きだったようだ。


 ということなので、シャノンはいわゆる耳年増というやつだった。それも正統派ではなく、アレな姉とアレな妹の影響でやや偏ったプレイだとかの知識もある残念令嬢に仕上がってしまった。


 そのため、自分に向けられる恋愛感情だとか自分の恋心とかには若干鈍いものの、「そう」と分かった後の解釈は非常に早い。


(これって場合によっては、閣下が城に戻られるなり部屋に呼ばれるパターンでは……!?)


 ぶっ飛びすぎているかもしれないが、「そういう」系統の話を姉妹から聞かされていたシャノンにとっては、可能性がアリ寄りのアリだった。


(……いえいえ! いくら閣下といえど、そんな飢えた野獣のようなことをされるはずがないわ!)


 彼は明るくて社交的でたまに駄犬要素も出てくるが、愚かでも横暴でもない。

 シャノンが拒否するなら手を引くだろうし、脈なしの相手に迫るようなケダモノではないはず。


(……ん? いや、だからこそ閣下は「ゆっくり考える」ようにって言ったのかも?)


 つまり、エルドレッドたちが帰ってくるまでの一日の間に、自分を『ご褒美』として献上するかどうかの判断をしろということだったのではないか。


(でもまさか、お互いの気持ちを確かめたわけでもない相手にそんなこと……しない、わよね……?)


 エルドレッドの人柄を考えるとしそうにないが、絶対にないとは言い切れないのが恋なのだ。オリアーナが、そんなことを言っていた気がする。


(誰かに相談できればいいのだけれど……)


 シャノンの相談相手になりそうな人は、ディエゴかラウハたちだが、今は皆任務中だ。


 それに、どちらかというとエルドレッドからシャノンを守る方向でいるらしいディエゴはともかく、ラウハたちはシャノンとエルドレッドのことを歓迎しそうな雰囲気だ。


(……どうしよう)


 悩んだ結果。

 シャノンは明日念のために、制服の下にはいつものくたびれた肌着ではなくて真新しくてきれいなものを着ておくことにした。


 シャノンに「勝負下着」という単語を教えた張本人であるダフニーとオリアーナは今頃王都でどんな表情をしているのだろうか、と考えながら。

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