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捨てられた壁令嬢、北方騎士団の癒やし担当になる  作者: 瀬尾優梨
本編 秋から春

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24/60

24 エルドレッドのお願い①

 エルドレッドと北方騎士団によるユキオオカミ調査作戦は、真冬を過ぎた頃に決行されることになった。


 寒さのピークはひとまず過ぎたとはいえ、連日雪が降っているし気温も氷点下になる日が続いている。それでも、この辺境伯領で生まれ育った騎士たちにとっては「前よりは動きやすくなった」と思える状況らしい。


 エルドレッドは「目星」について十分に事前準備をしたそうで、今回の作戦はうまくいけば一日で決着が付くという。


(皆、無事で帰ってきてほしいわ……)


 非戦闘員で城で待つことしかできないシャノンは、騎士たちのためにできることはないだろうかと考えた。

 そうして城の下働きの女性たちに相談したところ、「この地に古くから伝わるお守りを作ってはどうか」と提案してもらった。


 王国に併合されるよりも前、ここら一帯は争いが絶えない地域だった。そのため古くから戦士たちの無事を祈るためのお守り作りが盛んで、今でも伝統文化兼願かけとして伝わっているそうだ。


 お守りは布に刺繍糸で特定の文様を描くことで作るらしい。シャノンは裁縫なども初体験だが女性たちは針への糸の通し方や縫い方を丁寧に教えてくれて、「あんたみたいなかわいい天使が一生懸命作ったと言えば、皆喜んで受け取ってくれるさ」と励ましてもらった。


 裁縫担当の女性たちから余りの布や糸を譲ってもらい、シャノンは騎士たちの出発の日まで、毎日仕事の後で部屋にこもって必死に針を動かした。


 今回出陣するのは正騎士のうち約半数である十六名と、お付きと実地経験を兼ねた見習い騎士五人、そしてエルドレッドだ。調査隊の隊長はエルドレッド、副隊長がディエゴという形だという。


 せっかくだからお守りは一人一つずつ布や糸の色、形を変えることにして、合計二十二枚をシャノンは必死で仕上げた。


 ……そのうちエルドレッドとラウハの分に少しだけ力を入れてしまったのは、仕方のないことだろう。










 出発の日は案の定悪天候で、かなり吹雪いているため出発式は中庭ではなくて本城のホールで行われることになった。場所が狭いので同席できる者も少なく、シャノンはなんとかその中に入れてもらえた。


「皆様の無事を祈っております。どうかこちらをお持ちください」


 出発前の騎士たち一人一人に声をかけてお守りを渡すと、皆嬉しそうに受け取ってくれた。

 ラウハたち女性騎士たちは「絶対に帰ってくるからね!」と強く抱きしめてくれたし、中年の正騎士たちは「俺たちの癒やしのシャノンちゃんのためにも、絶対に帰ってくる」と言ってくれた。

 見習い騎士たちは皆緊張の面持ちで、シャノンがお守りを渡すと涙ぐみながら大切そうに鎧の内側に入れていた。


 少し離れたところに、ディエゴがいた。彼が話をしている女性はきっと、奥方だろう。足下には四歳ほどと見える少女もいた。

 ディエゴは娘をぎゅっと抱きしめ妻の頬にキスをしてから、こちらにやってきた。


「これは、シャノン。見送りありがとう」

「皆様の出立を見守られること、嬉しく思います。……どうぞ、こちらを。皆様にも配っております」


 そう言ってディエゴの目の色と同じ緑色の布地に茶色の糸で文様を刺繍したお守りを差し出すと、彼は驚いた顔をしてから照れたようにはにかみ、そっとそれを受け取ってくれた。


「……君が最近仕事終わりにすぐに部屋にこもっているとは聞いていたけれども、これを作ってくれていたのか。ありがとう、シャノン」

「ご武運を、ディエゴさん」


 ディエゴが右手を差し出したので、シャノンは彼としっかり握手をした。


 なおこのお守りに恋愛的な意味は一切ないのでディエゴの妻の前でも堂々と渡せたし、妻もシャノンの方にわざわざ来て、「いつも主人がお世話になっております。お守り、ありがとうございます」と言ってくれた。


(最後に、閣下の分も……)


 本当は最初に渡したかったのだが、さすが辺境伯家当主の周りにはずっと人だかりがあり、なかなか会いに行けそうになかった。


 そのため最後になってしまったのだが、ちょうど彼の周りの人が途切れたところだった。エルドレッドもまた周囲を見回し、シャノンを見つけたようでこちらをじっと見ている。


(……き、緊張する)


 お守りの入ったポシェットのベルトをぎゅっと握り、ばくばくと鳴る心臓を少しでもなだめようとする。


 エルドレッドは多忙で、あの意味深発言事件以来彼と話す機会が一度も訪れなかった。

 エルドレッドへの恋を自覚して、彼が何を言おうとしたのか気になりつつも、シャノンにはシャノンでやるべきことがあったのでそちらに集中した。

 そして……とうとう、エルドレッドにもお守りを渡すときが来た。


(頑張れ、私! 恋とか結婚とかは置いておいて、今は臣下、騎士団棟付事務官としてそつなく挨拶とお守りのプレゼントができればいいのよ……!)


 何か期待するかのようにこちらを見るエルドレッドの方に足を進め、彼の正面で立ち止まる。

 今日の彼は鎧の上に防寒着も着ているので、いつもよりさらに体が大きく見えた。

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