俺だけだから
UPします。よかったら読んでください。
「何よ…。この女はマフ様を狙っていたってわけ?王太子のテオ様の婚約者のくせに!ふしだらな女!」
「おい。今なんて言った?」
俺はイカレ女に冷え切った声で問いを発した。
「え…。ふ、ふしだらな女って言って何が悪いのよ!私はヒロインだから何をしても許されるけど、婚約者がちゃんといる令嬢が他の男に手を出すなんて…」
「こいつが他の男を狙っていた?手を出した?そんなわけないだろ。ジルは単に、哀れな男に同情しただけだ。だって、こいつの心の真ん中に住んで、支配していいのは俺だけだから」
ごく当たり前のことを俺は言った。
「さ、さっきからおかしいわよ…。テオ様、いつもと様子が全然違うじゃない…。口調だって…」
イカレ女はなぜか怯えていた。
「いつもと違う?当たり前だ。あんなのは王太子として『らしく』演じていただけ。気の置けない相手と、どうだっていい相手には、こういう風にふるまってるんだよ。もちろん、用済みになったお前は後者だ」
ジルにまで、「王太子の演技」をするようになり、あいつは自分が俺にとって「外側の人間」になったのだと信じ込んでいた。そして、愛するイカレ女に対しては、奴の望む「素敵な王太子」を演じているのだと。そんなわけがないのに。
「用済み…。どうしてよ!テオ様は私を、ヒロインを愛しているんでしょ!?」
「俺は一度だって、お前に『好き』だの『愛してる』だの言ったことがあったか?ついでにマフムート殿下同様、愛称で呼ぶことを許可してやった覚えはない」
ジルには、婚約して一年か二年たった頃、「二人きりの時はテオとだけ呼べ」と命じたことはある。「恐れ多いです…。恥ずかしいです」と恐縮されてしまい、仕方なく「テオ君」で妥協したことがあったな。
辺境に行ったら、また「テオ君」と呼んでくれるだろうか。あのなぜか安心する声で。
「嘘よ、嘘よ…。だって、私たち、何度も愛し合ったじゃない!!」
思い出に浸っている俺にかまわず、イカレ女が見当違いなことを叫ぶ。
「馬鹿なのか?好きな女を抱くとき、男は顔に布なんか被せないだろう」
イカレ女が凍り付いた。ニコまで、信じられないものを見る目で、俺を射ていた。
「そんな…私に見つめられるのが恥ずかしいって、あの言葉は…」
「害獣に裸見られて恥ずかしがる奴なんていない。俺はただ、お前と寝ることで、お前が俺を篭絡しているという嘘に真実味を持たせたかっただけだ」
本当はもう一つ理由があるが、それを誰かに明かすつもりはなかった。